バッキンガムようこそ、皇太子様、ロンドンへ、あなたの王城へ。
グロスターようこそ、いとしい甥御、わたしの心の君主。
長旅でお疲れになり、ふさいでおられますな。
皇太子いいえ、叔父上。ただ、道中の面倒ごとが
旅をだるく、うんざりする重いものにしたのです。
出迎えの伯父上たちが、もっとここにいてほしかった。
グロスター皇太子様、あなたはその汚れなきお年頃ゆえに、
まだ世間の欺瞞の底を覗いたことがおありでない。
人間についても、外に見える姿より深くは
見分けがつかぬもの。だがその外見、神もご存じのとおり、
心と一致することは、めったに、いや、決してありません。
お会いになりたいその伯父上たちは、危険な人々だった。
あなた様は連中の砂糖をまぶした言葉に耳を傾け、
心に仕込まれた毒はご覧にならなかった。
神のご加護を、連中からも、ああいう偽りの友からも!
皇太子偽りの友からのご加護を! でも、あの伯父上たちは違います。
グロスター殿下、ロンドン市長がご挨拶に参りました。
市長殿下に、ご健康と幸多き日々のありますように!
皇太子ありがとう、市長どの。皆もありがとう。
母上と弟のヨークが、とうにわたしたちを
道中で出迎えてくれるものと思っていたのに。
まったく、ヘイスティングズはなんという鈍ま、
ふたりが来るのか来ないのか、報せにも来ないとは!
バッキンガムちょうどよいところへ、汗みずくの卿のお出ましだ。
皇太子よく来た。それで、母上は来るのか?
ヘイスティングズ何のわけあってか、神のみぞ知る、わたしには分かりませぬが、
母君の王妃様と、弟君のヨーク様は、
聖域に籠られました。あの幼い君は、
ぜひわたしと一緒に殿下をお出迎えしたがっておられましたが、
母君が力ずくでお止めになりました。
バッキンガムなんとまあ、回りくどい、ひねくれたなさりようだ!
枢機卿どの、あなたから王妃を説得し、
ヨーク公爵をすぐ、兄君の皇太子のもとへ
差し出させてはくださらぬか?
お断りになるなら、ヘイスティングズ卿、あなたが同行して、
妬き餅焼きの母親の腕から、力ずくでもぎ取っていらっしゃい。
枢機卿バッキンガム卿、わたしの拙い弁舌で
母君からヨーク公爵をお預かりできるなら、
じきにこちらへお連れしましょう。だが、穏やかな説得に
頑として応じられぬなら、天の神もお赦しになるまい、
祝福された聖域の神聖な特権を
われらが侵すなど! この国全部と引き換えでも、
それほど深い罪は犯したくありません。
バッキンガムあなたは分からず屋の頑固がすぎますな、卿、
形式と慣習にこだわりがすぎる。
この荒れたご時世に照らして考えれば、
あの君を連れ出したとて、聖域破りにはなりません。
聖域の恩恵が与えられるのは、常に、
その行いによって場所に値する者、
そして、その場所を求める分別のある者。
あの君はそれを求めてもいなければ、値してもいない。
したがって、わたしの考えでは、持つこともできない。
そこにいないお方をそこから連れ出したとて、
特権も特許状も、何ひとつ破りはしません。
聖域に籠る男の話は、たびたび聞きましたが、
聖域に籠る子供とは、今の今まで聞いたことがない。
枢機卿卿、今回だけは、あなたの説にわたしの心を従わせましょう。
さあ、ヘイスティングズ卿、ご一緒くださるか?
ヘイスティングズ参ります、卿。
皇太子ふたりとも、できるだけ急いでくれ。
皇太子ねえ、グロスターの叔父上、弟が来たら、
戴冠式までの間、わたしたちはどこに泊まるのです?
グロスター殿下ご自身が、一番よいとお思いの場所に。
ご忠告申し上げてよければ、一日、二日は
ロンドン塔でお休みになられませ。
その後はお好きな場所で、ご健康と気晴らしのために
一番ふさわしいと思われる所にお移りください。
皇太子どこよりも嫌いだ、ロンドン塔は。
あそこはジュリアス・シーザーが建てたのですか?
バッキンガムさよう、殿下、あの場所を最初にお築きになったのはシーザーで、
のちの時代が代々建て直してきたのです。
皇太子シーザーが建てたというのは、記録にあるのですか、
それとも代々の言い伝えですか?
バッキンガム記録にございます、殿下。
皇太子でもね、卿、たとえ記録になくても、
真実というものは代々生き続けるべきだと思う、
すべての子孫へ語り継がれて、
この世の終わりの審判の日まで。
グロスター(傍白)こんなに幼く、こんなに賢いのは、長生きせぬというが。
皇太子何と言ったのです、叔父上?
グロスター文字がなくとも、名声は長生きする、と申しました。
グロスターこうしてわたしは、芝居に出てくる「悪徳」の道化よろしく、
ひとつの言葉に、ふたつの意味を含ませてみせる。
皇太子ジュリアス・シーザーは名高い人でした。
武勇が知恵を豊かにし、
その知恵が武勇を書き残して、生かし続けた。
死もこの征服者だけは征服できません。
命は失っても、名声の中に今も生きているのだから。
言っておきたいことがある、従兄弟のバッキンガム——
バッキンガム何でございましょう、殿下?
皇太子もしわたしが一人前の男になるまで生きられたら、
フランスにあるわれらの昔からの権利を、必ず取り戻す。
それが叶わねば、王として生きたとおり、兵士として死ぬまでだ。
グロスター(傍白)春の来るのが早い年は、決まって夏が短いものだ。
バッキンガムさあ、ちょうどよいところへ、ヨーク公爵のお越しです。
皇太子リチャード・オブ・ヨーク! いとしい弟は元気か?
ヨークはい、畏れ多い兄上。今はそうお呼びしなくてはなりませんね。
皇太子ああ、弟よ、わたしにも、おまえにも悲しいことにな。
その称号を保っていてくださるはずの方が、亡くなられたばかり。
あの方の死で、王の称号もずいぶん威厳を失ってしまった。
グロスター甥御のヨーク公爵は、ご機嫌いかがかな?
ヨークありがとう、優しい叔父上。ああ、そういえば叔父上、
役立たずの雑草は育ちが早いとおっしゃいましたね。
兄上はぼくより、ずっと大きくなりましたよ。
グロスターさよう、そのとおり。
ヨークそれでは、兄上は役立たず?
グロスターおお、可愛い甥御、そうは申せませんな。
ヨークそれなら兄上は、ぼくより叔父上に借りがあるわけだ。
グロスターあの方はわたしの君主として、わたしに命令がおできになる。
だがあなたはわたしを、親族として意のままにおできになる。
ヨークお願いです、叔父上、その短剣をください。
グロスターわたしの短剣を、小さな甥御? 喜んで。
皇太子物乞いか、弟よ?
ヨーク優しい叔父上にだもの、くださると分かっているし、
おもちゃ同然の品だもの、あげても惜しくないでしょう。
グロスターそれより大きな贈り物でも、甥御には差し上げますよ。
ヨークもっと大きな贈り物! じゃあ、その短剣とお揃いの剣ですね。
グロスターええ、可愛い甥御、軽ささえ十分ならば。
ヨークなるほど、分かった、叔父上が手放すのは軽い贈り物だけ。
目方の重いものになると、物乞いにはお断りだ。
グロスターこれはあなた様が佩くには重すぎますので。
ヨークもっと重くても、ぼくは軽く見てのけます。
グロスター何と、わたしの得物がほしいのですか、小さな卿?
ヨークええ、そうすれば、今の呼び名どおりのお礼が言えますから。
グロスターと言うと?
ヨーク小さなお礼を。
皇太子ヨークはどこまでも減らず口だな。
叔父上、どうか大目に見て、担いでやってください。
ヨーク担ぐ、ですって。兄上は、大目にじゃなく、肩の上にと言うんでしょう。
叔父上、兄上はあなたとぼくを、まとめてからかっているんです。
ぼくが猿みたいに小さいものだから、
あなたの肩の上に担いでもらえと思っているんですよ。
バッキンガムなんと研ぎ澄まされた機知で切り返すことか!
叔父君に向けた嘲りを和らげようと、
可愛らしく、巧みに、自分を落としてみせる。
これほど幼くて、これほど知恵が回るとは、驚くべきものだ。
グロスター殿下、そろそろお進みくださいますか。
わたしと従兄弟のバッキンガムは、
母君のもとへ参り、ロンドン塔であなた様をお出迎えして、
歓迎してくださるようお願いして参ります。
ヨークえっ、ロンドン塔へ行くのですか、兄上?
皇太子護国卿がどうしてもと言われるのだ。
ヨークぼくはロンドン塔では安心して眠れません。
グロスターなぜです、何を恐れることがあります?
ヨークそれは、クラレンスの伯父上の怒った亡霊ですよ。
おばあ様が教えてくれました、伯父上はあそこで殺されたって。
皇太子わたしは死んだ伯父上たちなど恐れない。
グロスター生きている叔父も、でしょうな。
皇太子生きているなら、恐れる必要のないことを願います。
でも参りましょう。ふたりの伯父上を思って、
重い心のまま、わたしはロンドン塔へ行きます。
バッキンガムどうお思いです、閣下、あのおしゃべりのちびのヨーク、
あんな無礼な嘲りやからかいを、あの腹黒い母親に
吹き込まれてきたとは思われませんか?
グロスター疑いなく、疑いなく。ああ、油断のならん小僧だ。
大胆で、頭が回り、機知に富み、生意気で、切れ者ときた。
頭のてっぺんから爪先まで、そっくり母親譲りよ。
バッキンガムまあ、あの連中のことは置いておきましょう。ケイツビー、こちらへ。
おまえは、われらの企てを実らせることにも、
打ち明けられたことを固く秘めることにも、深く誓いを立てた身だ。
道中で聞かせた、われらの言い分は知ってのとおり。
どう思う? 造作もないことではないか、
ウィリアム・ヘイスティングズ卿をわれらの側へ引き込み、
この高名な島の王座に、この気高い公爵を
お据えする話に乗せるのは?
ケイツビーあの方は先王のよしみで皇太子を深く愛しておられますから、
皇太子に弓引くことには、何であれ乗りますまい。
バッキンガムではスタンリーはどう思う? あの男はどうする?
ケイツビー何から何まで、ヘイスティングズ卿と同じにするでしょう。
バッキンガムよし、なら話はこれだけだ。行け、ケイツビー、
それとなく遠回しに、ヘイスティングズ卿の腹を探れ、
われらの計画をどう思っているかをな。
そして明日、ロンドン塔へ来るよう伝えろ、
戴冠式の評議のためと言ってな。
こちらに靡きそうだと分かったら、
励まして、われらの言い分を残らず聞かせろ。
鉛のように鈍く、氷のように冷たく、気が進まぬようなら、
おまえも同じ調子にして、話を切り上げ、
あの男の心の向きを、われらに報せろ。
明日は評議を二手に分けて開く。
そこでは、おまえに大役を務めてもらうぞ。
グロスターウィリアム卿によろしく伝えてくれ。それからな、ケイツビー、
あの男の年来の宿敵の一味は、
明日ポンフレット城で血抜きの療治を受けると教えてやれ。
そしてわが友に、この吉報のお祝いに、
ショア夫人への優しい口づけを、一度余分にするようにとな。
バッキンガムケイツビー、行け、この仕事、抜かりなく仕上げろ。
ケイツビーお二方とも、精一杯、念を入れて務めます。
グロスター寝る前に報せをもらえるか、ケイツビー?
ケイツビーお届けします、閣下。
グロスタークロスビー館だ、ふたりともそこにいる。
バッキンガムときに閣下、どういたします、もしヘイスティングズ卿が
われらの企てに、どうしても乗らぬと分かったら?
グロスター首をちょん切るまでさ。何かしら、やってのけるとも。
それから、いいか、わたしが王になったら、請求しろ、
ヘレフォードの伯爵領と、兄王が持っていた
動産一式をな。
バッキンガムそのお約束、閣下のお手から頂きに上がりますぞ。
グロスター心から喜んで進呈しよう、待っているがいい。
さあ、早めの夕食にしよう。そのあとで、
われらの企てを、ゆっくり噛みくだいて形にしようではないか。
