ジャンヌ摂政軍が勝ち、フランス兵は逃げてゆく。
今こそ力を貸せ、魔法の呪文と護符よ。
そして、私を戒め、
未来の出来事を、予告する選りすぐりの精霊たちよ。
ジャンヌ北方を支配する高き王のもとで、
その手先となって、素早く働く者たちよ、
姿を現し、この大事業を助けよ。
ジャンヌこれほど素早く姿を現すとは、
いつもながら、私によく尽くす証しだ。
さあ、地の底の強大な領域から、
選び抜かれた、わが使い魔たちよ、
この一度だけ力を貸せ。フランスに戦場を勝ち取らせよ。
ジャンヌああ、いつまでも黙って、私を待たせないでくれ!
これまでは、おまえたちを私の血で養ってきたが、
今度は、この身の一部を切り落とし、
これからも恵みを与える手付けとして、
差し出そう。今だけは、助けてくれるなら。
ジャンヌ救いを得る望みはないのか? 願いを聞くなら、
この体を、報いとして差し出そう。
ジャンヌこの体も、生贄の血も、
いつもの助力を願うには、足りないのか?
ならば、魂を取れ。体も魂も、すべて取れ、
イングランドがフランスを打ち負かす、その前に!
ジャンヌ見ろ、私を見捨ててゆく! ついに時が来た、
フランスが、羽飾り高き兜を垂れ、
イングランドの膝へ、頭を落とす時が。
古くからの呪術は、もはや弱すぎ、
地獄は強すぎて、私の手には負えぬ。
今や、フランスよ、おまえの栄光が地にしおれる。
ヨークフランスの乙女、今度こそ捕らえたぞ。
さあ、呪文で精霊どもの鎖を解き、
おまえを自由にできるか、試してみろ。
立派な獲物だ、悪魔への献上品に、うってつけだ!
見ろ、醜い女が、眉をつり上げている、
まるで、キルケーの術で、私の姿を変えるつもりらしい!
ジャンヌこれ以上、醜い姿には、変えようがない。
ヨークおお、王太子シャルルは、立派な男だからな。
おまえの気難しい目を喜ばせるのは、あの姿だけか。
ジャンヌ疫病の災いが、シャルルとおまえに降りかかれ!
二人とも、寝床で眠っているところを、
血にまみれた手に、不意打ちされるがいい!
ヨーク呪いを吐く残忍な鬼婆め、魔女め、黙れ!
ジャンヌ頼む、もうしばらくだけ、呪わせてくれ。
ヨーク呪うなら、火刑柱に着いてからにしろ、外道め。
サフォーク何者であろうと、そなたは私の捕虜だ。
サフォークおお、たぐいなく美しい人よ、恐れず、逃げないでくれ!
私は、ただ敬いの手で、そなたに触れるだけ。
永遠の平和を願い、この指に口づけし、
その手を、そなたの柔らかな脇へ、そっと添えよう。
そなたは誰だ? 名を言ってくれ、敬意を捧げたい。
マーガレット名はマーガレット、王の娘です、
ナポリ王の。あなたが誰であろうとも。
サフォーク私は伯爵、サフォークと呼ばれている。
気を悪くしないでくれ、自然が生んだ奇跡よ、
そなたは、私に捕らえられる運命だったのだ。
白鳥が、柔らかな羽の雛を守り、
翼の下に、捕らえておくのと同じこと。
だが、もし、こんな捕虜扱いが気に障るなら、
自由に行くがいい、サフォークの友として。
サフォークおお、待て! 行かせる力など、私にはない。
手は放せと言うが、心は嫌だと言う。
陽の光が、水晶のような流れに戯れ、
もう一筋の、まがいものの光を、きらめかせるように、
このまばゆい美しさが、私の目に映る。
求婚したい。だが、口にする勇気がない。
紙と筆を持ってこさせて、胸の内を書こう。
何をしている、ド・ラ・ポール! 自分を見くびるな。
舌はないのか? 彼女は、目の前にいるではないか?
女を見ただけで、怖じ気づくのか?
そうだ、美には王者の威厳がある、
舌を惑わせ、五感を乱れさせるほどの。
マーガレットお答えください、サフォーク伯――それが本名なら――
ここを去るには、身代金をいくら払えばいいのです?
私は、あなたの捕虜なのでしょう。
サフォーク求愛を試してもいないうちから、
彼女に断られると、どうしてわかる?
マーガレットなぜ黙っているのです? 身代金はいくらです?
サフォーク美しい、だから口説かねば。
女だ、だから手に入れられる。
マーガレット身代金を受け取るのですか、受け取らないのですか?
サフォーク愚か者、思い出せ。おまえには妻がいる。
ならば、どうしてマーガレットを愛人にできる?
マーガレット聞く耳がないようです。もう行きましょう。
サフォークそこで万事が台なしだ。熱を冷ます札が出た。
マーガレット出任せばかり。きっと、この人は頭がおかしい。
サフォークだが、特別な許しは得られるかもしれない。
マーガレットそれでも、私に答えていただきたいのです。
サフォークこのマーガレット姫を、必ず得る。誰のために?
もちろん、わが王のため――ふん、木偶のような考えだ!
マーガレット木の話をしている。この人は、大工かしら。
サフォークだが、そうすれば、私の思いも満たされ、
二つの国のあいだに、平和も築ける。
とはいえ、そこにも一つ、引っかかることがある。
父君は、ナポリ王で、
アンジューとメーヌの公爵だが、貧しい。
わが国の貴族たちは、この縁談を見下すだろう。
マーガレットもし、隊長、今はお暇ではないのですか?
サフォークそうしよう、どれほど見下されようとも。
ヘンリーは若い、すぐに承知する。
姫君、打ち明けたい秘密があります。
マーガレット捕らわれの身とはいえ、この人は騎士らしい。
どのような形でも、私の名誉を傷つけはしないでしょう。
サフォーク姫君、どうか、私の話をお聞きください。
マーガレットひょっとすると、フランス軍に救い出されるかも。
そうなれば、この人の情けを乞う必要はない。
サフォーク美しい姫君、どうか、この話だけでもお聞きを――
マーガレットふん、捕虜になった女なら、昔からいるわ。
サフォーク姫君、なぜ、そんな独り言を?
マーガレットこれは失礼。そちらがそちらなら、こちらもこちらです。
サフォークお優しい姫君、女王になれるなら、
この捕らわれも幸せだとは、思われませんか?
マーガレット捕らわれの女王になるのは、
卑しい境遇の奴隷より、なお惨めです。
王侯は、自由であるべきですから。
サフォークええ、自由になれます、
幸いなるイングランドの王が、自由であれば。
マーガレットまあ、王の自由が、私に何の関係を?
サフォーク私が、そなたをヘンリーの王妃にしよう、
その手に、黄金の王笏を持たせ、
その頭に、尊い王冠を戴かせる、
そなたが、私の――になることを承知するなら。
マーガレット何に?
サフォーク王の恋人に。
マーガレット私は、ヘンリー王のお妃になるには不釣り合いです。
サフォークいいえ、お優しい姫君。不釣り合いなのは私です、
これほど美しい方を、王妃にと口説きながら、
この選びに、私自身の取り分は何もない。
姫君、どうです、承知してくださいますか?
マーガレット父がよいと言うなら、承知します。
サフォークでは、隊長たちを呼び、軍旗を掲げさせよう。
姫君、父君の城壁の前で、
会談を求め、直々にお話しします。
サフォーク見よ、レニエ、そなたの娘は捕虜となった!
レニエ誰の捕虜に?
サフォーク私の。
レニエサフォーク、どうすればよい?
私は軍人、泣くことも、
運命の移ろいやすさを嘆くことも、不慣れだ。
サフォーク打つ手なら十分にあります、殿下。
同意を、名誉にかけて同意なさい。
ご息女を、わが王の妃とするのです。
私は苦労して、姫を口説き、承知させました。
こうして、たやすく捕らえられたおかげで、
ご息女は、王妃という自由を得られる。
レニエサフォークは、本心から、そう言うのか?
サフォーク美しいマーガレットが知っています、
サフォークは、へつらわず、取り繕わず、偽らぬと。
レニエそなたの王者らしい保証を信じ、下へ降り、
その正当な申し出に答えよう。
サフォークここで、お出ましを待ちましょう。
レニエ勇敢なる伯爵よ、わが領内へようこそ。
アンジューでは、望みのままに命じられよ。
サフォーク感謝します、レニエ。これほど愛らしいお子を持つ、幸せな方、
まさに、王の伴侶となるにふさわしい。
私の願いに、どのようなお答えを?
レニエこれほどの君主の王妃とするために、
価値乏しい娘を、望んでくださるなら、
一つ条件がある。わが領地、
メーヌとアンジューを、私が穏やかに治め、
圧政にも戦火にも脅かされずにいられるなら、
娘はヘンリーのものとなろう。王が望むなら。
サフォークそれが姫の身代金。姫をお返しします。
その二つの領地は、この私が責任をもって、
殿下が安らかに治められるようにします。
レニエでは、私も、ヘンリー王の名において、
その慈悲深い王の代理として、
婚約の誓いの証しに、そなたへ娘の手を与えよう。
サフォークフランスのレニエ、王に代わって礼を申します、
これは、王と王との取引ゆえ。
サフォークとはいえ、この件だけは、
自分自身の代理人になれたなら、満足なのだが。
サフォークでは、この知らせを携え、イングランドへ渡り、
婚礼を執り行わせよう。
さらば、レニエ。このダイヤを大切にしまわれよ、
宝石にふさわしい、黄金の宮殿のなかへ。
レニエそなたを抱擁しよう、今ここに、
キリスト教国の君主ヘンリー王がおられるように。
マーガレットさようなら、伯爵。サフォークには、いつまでも、
マーガレットの祝福と称賛と祈りがあります。
サフォークさようなら、美しい姫君。だが、お待ちを、マーガレット、
わが王へ、姫君らしいご挨拶はありませんか?
マーガレット乙女にふさわしい挨拶を、
純潔な乙女、王のしもべからと、お伝えください。
サフォーク言葉は甘く並び、つつましく届けられる。
ですが姫君、もう一度、お手を煩わせたい。
陛下へ、愛の印はありませんか?
マーガレットあります、伯爵。汚れなき清らかな心を、
まだ一度も恋に染まらぬ心を、王に贈ります。
サフォークこれも一緒に。
マーガレットそれは、あなた自身へのもの。王に、そんな、
子供じみた印を送るほど、私は出過ぎません。
サフォークああ、そなたが私のものなら! だが待て、サフォーク、
その迷宮へ、迷い込んではならぬ。
そこには、ミノタウロスと、醜い裏切りが潜む。
驚くほどの称賛を並べ、ヘンリーを口説き落とせ。
あらゆるものに勝る徳と、
技巧を霞ませる、生まれながらの優美を心に刻め。
海路で幾度も、その姿を言葉に描き直せ。
そうすれば、ヘンリーの足もとに、ひざまずくとき、
驚きのあまり、王の理性を奪えるだろう。
