前公爵あの男、獣に化けたのではないか。
どこを探しても、人間の姿では見つからん。
貴族一公爵様、つい先ほどまで、ここにおりました。
歌を聴いて、上機嫌でございましたよ。
前公爵不協和音のかたまりのあの男が音楽好きになったとあれば、
近いうちに天球の音楽まで狂い出すぞ。
探して来てくれ。話がしたいと伝えるのだ。
貴族一向こうから来てくれて、手間が省けました。
前公爵おやおや、ムッシュー、どういう暮らしの流儀かな、
哀れな友人たちが、あなた様のお相手を拝み倒さねばならんとは。
なんと、嬉しそうな顔をして。
ジェイクイーズ阿呆です、阿呆。森で阿呆に会いました、
まだら服の阿呆に——ああ、なんと惨めな世の中だ。
飯を食って生きている身にかけて誓いますが、確かに阿呆に会ったのです。
そいつは寝そべって、日なたぼっこをしながら、
運命の女神を、それは見事な言葉で罵っておりました、
きちんと整った言葉で。それでいて、まだら服の阿呆で。
「おはよう、阿呆どの」と私が言うと、「いや、旦那」と奴は言う、
「天が私に運を授けてくださるまで、阿呆と呼ばないでもらいたい」——
それから、袋から日時計を取り出して、
生気のない目でそいつを眺めて、
実に賢そうに言うのです、「十時だ。
これでわかるだろう」と奴は言う、「世界がどう転がっていくかが——
一時間前は九時だった、
そして一時間経てば十一時になる。
こうして、一時間また一時間と、われらは熟れて熟れて、
それから、一時間また一時間と、腐って腐っていく。
その先は、話せば長い」と。まだら服の阿呆が
こうやって時について説教するのを聞いて、
私の肺は雄鶏のように高鳴きを始めました、
阿呆がこれほど深遠な思索家だとは、と。
それで私は笑い続けたのです、休みなしに、
奴の日時計で一時間。ああ、気高い阿呆。
天晴れな阿呆。着るなら、まだら服に限りますよ。
前公爵その阿呆は、何者だ。
ジェイクイーズおお、天晴れな阿呆ですとも。もとは宮仕えをしていた男で、
言うことには、貴婦人というものは、若くて美しくさえあれば、
それを自分で知る天分をお持ちだそうで。奴の脳みそは、
航海の後の残り物のビスケットみたいに
干からびているくせに、妙な引き出しに観察の種を
ぎっしり詰め込んでいて、それをつぶれた形で
吐き出すのです。ああ、私も阿呆になりたい。
まだら服こそ、私の野心の的です。
前公爵一着、進ぜよう。
ジェイクイーズそれこそ、私のただひとつの持ち服——いや、願いの筋。
ただし条件があります。あなたがたのご立派な判断力から、
私を賢者と見なす、はびこり放題の
その思い込みを、抜き取っていただきたい。それに、自由もいただかねば。
風と同じくらい大きな特許状を。
好きな相手に吹きつける自由を——阿呆とはそういうものですから。
そして、私の阿呆ぶりに一番手ひどく擦りむかれた者ほど、
一番大きく笑わねばならない。なぜかですと?
その「なぜ」は、教会へ続く道ほどわかりきったこと——
阿呆に図星を突かれた者が、
利口ぶって、痛くても素知らぬ顔をしないのは、
阿呆のやること。素知らぬ顔をしなければ、
賢者の愚かさは、阿呆が出まかせに投げる
流し目ひとつで、解剖されてしまうのですから。
私にまだら服を着せてください。思うことを言う許しをください。
そうすれば、この病んだ世界の汚れた身体を、
隅から隅まで洗い清めてご覧に入れます、
皆が辛抱づよく、私の薬を飲んでくれさえすれば。
前公爵やめておけ。おまえのやりそうなことは、わかっておる。
ジェイクイーズ賭けてもいい、私が良いこと以外の何をするというのです。
前公爵罪を叱るという、この上なくたちの悪い罪をだ。
おまえ自身、放蕩者だったではないか、
獣の欲の針そのもののように、肉に溺れて。
気ままな足の勝手放題で拾い集めた、
膿んだ腫れ物と吹き出物の悪の数々を、
世間さまへ、そっくり吐き戻そうというのだろう。
ジェイクイーズおやおや、傲慢を大声で叱ったからといって、
それが特定の誰かを責めることになりますか。
傲慢は海のように満々とあふれ、
潮の引くのは、元手が尽きて疲れ果てたときだけ。
都のどの女の名を、私が挙げたことになります、
都の女は、王侯なみの散財を、
分不相応な肩に担いでいると言ったところで。
「わたしのことを言ったのね」と乗り込んで来られる女がいますか、
隣の女も、そのまた隣も、似たり寄ったりだというのに。
あるいは、どんな下賤な勤めの男が、
「俺の晴れ着はおまえの金で買ったんじゃない」と言い立てて、
自分のことを言われたと思い込み、まさにそのことで、
おのれの愚かさを、私の言葉の的にぴたりと合わせずにいられますか。
さあ、それで? どうなります? 何が起こります? 教えていただきたい、
私の舌が、その男のどこを傷つけたのかを。図星なら、
自分で自分を傷つけたまで。身に覚えがなければ、
私の非難は雁のように飛び去るだけのこと、
誰の持ち物にもならずに。——おや、あれは誰です。
オーランドーやめろ、それ以上食うな。
ジェイクイーズおや、まだひと口も食べていませんが。
オーランドー食べさせもしない、困っている者が先だ。
ジェイクイーズこの雄鶏は、どこの血統から出て来たのやら。
前公爵おまえがそこまで居丈高なのは、困窮のせいか。
それとも、礼儀作法を鼻で笑う無作法者ゆえに、
そうも礼節と縁がないと見えるのか。
オーランドー最初の矢が図星です——切羽詰まった困窮の
茨の棘が、なめらかな礼節の見せかけを
わたしから剥ぎ取ったのです。ですが、生まれは都育ち、
躾も多少は心得ています。だが、やめてもらおう——
この実にひとつでも手を触れる者は、死んでもらう、
わたしと、わたしの用向きに応えてもらうまでは。
ジェイクイーズ道理で応えられないとおっしゃるなら、私が死ぬしかありませんな。
前公爵何が望みだ。力ずくで迫るより、
穏やかに頼まれるほうが、われらは穏やかに動かされるぞ。
オーランドー食べ物です、飢えて死にそうなのです。食べさせてください。
前公爵座って食べるがいい。われらの食卓へ、ようこそ。
オーランドーそんなに優しい言葉を。どうかお許しください。
ここにあるものは、みな野蛮だと思い込んでいました。
だからこそ、厳しい命令の
形相を装ったのです。ですが、あなたがたがどなたであれ——
この人を寄せつけぬ荒れ野の、
物思わしげな枝の陰で、
這うように過ぎる時を、忘れ捨てて暮らすあなたがたが——
もしも、良き日々をご覧になったことがあるなら、
教会へ呼ぶ鐘の音の届く場所においでだったなら、
良き人の宴の席に着かれたことがあるなら、
まぶたから涙をぬぐったことがあり、
憐れむことと憐れまれることの意味をご存じなら——
その優しさを、わたしの強い力にさせてください。
その望みにすがって、恥じ入りながら、剣を収めます。
前公爵まことに、われらは良き日々を見てきた。
聖なる鐘に呼ばれて教会へ行き、
良き人の宴の席に着き、聖なる憐れみが
生ませた滴を、目からぬぐったこともある。
だから、安心して座るがいい。
われらにある限りのものは、何なりと申しつけて、
その困窮の足しにしてもらいたい。
オーランドーそれでは、もう少しだけ、食事を待っていただけますか。
牝鹿のように、子鹿を探しに行って、
食べさせてやりたいのです。哀れな老人がひとり、
わたしを慕うばかりに、疲れた足を引きずって、
どこまでもついて来てくれました。老いと飢えという、
ふたつの弱り目に責められているあの老人が、先に満たされるまで、
わたしはひと口も、口にしません。
前公爵探しに行ってやれ。
戻るまで、われらは何ひとつ手をつけずにおこう。
オーランドーありがとうございます。そのお心に、祝福がありますように。
前公爵見るがいい、不幸なのはわれらだけではない。
この広い、世界という劇場は、
われらの演じている場面よりも、
もっと悲しい芝居を、いくつも見せてくれる。
ジェイクイーズこの世はすべて舞台、
そして男も女も、みな役者にすぎません。
それぞれに退場があり、登場があり、
ひとりの人間は、持ち時間のうちに多くの役を演じる。
その幕は七つの時代。まずは赤ん坊、
乳母の腕の中で、むずかり、乳を吐く。
次は、めそめそ泣きの学童。鞄を提げ、
朝日に輝く顔をして、蝸牛のように這って、
いやいや学校へ。それから、恋人。
溶鉱炉のような溜息をつき、恋人の眉に捧げる
情けない小唄をこしらえる。次は、兵士。
聞いたこともない誓いの文句を詰め込んで、豹のような髭を生やし、
名誉にかけては嫉妬深く、喧嘩っ早くて手も早い。
泡のような評判を追い求めて、
大砲の口の中まで飛び込んでいく。それから、裁判官。
上等の去勢鶏で裏打ちした、見事な太鼓腹、
厳めしい目つきに、格式どおりに刈り込んだ髭、
賢げな格言と、ありきたりの実例をたっぷり仕込んで、
そうやって、その役を演じる。第六の時代は変わって、
痩せこけて、上履きをつっかけた、よぼよぼの老いぼれ役。
鼻には眼鏡、腰には巾着、
大事に取っておいた若い頃の長靴下は、縮んだ脛には
だぶだぶの広い世界。男らしかった太い声は、
子供の金切り声へ逆戻りして、
笛やら口笛やらの音を立てる。そして最後の場面、
この波乱に富んだ奇妙な歴史の幕切れは、
第二の子供時代、そして、ただの忘却。
歯もなく、目もなく、味もなく、何もかも、なく。
前公爵よく戻った。その尊い荷物を降ろして、
食べさせておやり。
オーランドーこの者に代わって、心から御礼を。
アダムそうしていただかねば。
自分では、御礼の言葉を口にする力も、ほとんど残っておりませんので。
前公爵ようこそ。さあ、食べなさい。今はまだ、
身の上を尋ねて、邪魔をするのはよそう。
音楽を頼む。——さあ、歌ってくれ。
エイミアンズ吹け、吹け、冬の風。
おまえがどれほど冷たくても、
人の恩知らずほどではない。
おまえの歯がそれほど鋭くないのは、
姿が見えないからだ、
息づかいは荒くとも。
ヘイ、ホー。歌え、ヘイ、ホー。緑の柊に。
友情はたいてい見せかけ、恋はたいていただの阿呆。
それなら、ヘイ、ホー、柊よ。
この暮らしこそ、何より愉快。
おまえがどれほど噛みついても、
忘れられた恩義ほど、身にはこたえない。
おまえは水を歪ませるが、
おまえの針がどれほど尖っても、
忘れられた友ほど、鋭くはない。
ヘイ、ホー。歌え、ヘイ、ホー——
前公爵もしあなたが、あの善良なローランド卿のご子息なら——
先ほど、そうだと真心こめて耳打ちしてくれたが——
そして、わしの目も、卿の面影が
あなたの顔に、生き写しに描かれているのを見ている——
心から、ようこそ。わしは、あなたの父上を
愛した公爵だ。この先の身の上話は、
わしの洞穴で聞かせてもらおう。——善良な老人よ、
おまえも、主人と同じように、心から歓迎するぞ。
腕を支えてやれ。——さあ、手をかしてくれ、
あなたの身の上を、すっかり聞かせてもらおう。
