ミラノ公爵スューリオ殿、頼む、しばらく席を外してくれ。
少し内々に相談したいことがある。
ミラノ公爵さて、プローテュース、私に何の用だ?
プローテュース慈悲深き殿下、これから明かそうとすることは、
友情の掟なら、胸に秘めよと命じます。
ですが、殿下がくださったありがたいご恩を、
身に余るこの私が思い起こしますと、
忠義の棘が、どうしても口を開けと私を刺し、
さもなければ世のどんな褒美にも引き出せぬことを語らせます。
お聞きください、尊き殿下、友のヴァレンタイン殿は、
今夜、殿下のご息女を連れ去るつもりです。
私も、その企てを打ち明けられた一人。
殿下が姫君をスューリオに嫁がせると、
お決めなのは承知しています、姫君は彼を嫌っておられますが。
もしこのまま、姫君を殿下から盗み去られれば、
ご老体には、さぞ深いお苦しみとなりましょう。
されば私は、忠義のため、むしろ選びました、
友が目指す企てを、この手で阻むことを。
黙っていることで、殿下のお頭へ、
押し潰さんばかりの悲しみの山を積み、
手遅れのまま、時ならぬ墓へ追いやるよりは。
ミラノ公爵プローテュース、その誠実な心遣い、礼を言う。
報いるためなら、私が生きる限り何なりと命じてくれ。
あの二人の恋は、私自身、何度も目にしていた、
おそらく二人が、私を熟睡していると思った時にな。
幾度となく、ヴァレンタイン殿には禁じようと思った、
娘との交際も、この宮廷への出入りも。
だが、嫉妬の目が見当違いをして、
罪もない男の名誉を傷つけはせぬかと恐れた、
そんな性急さは、これまで常に避けてきたからな。
そこで優しい顔を見せ、探ろうとしたのだ、
お前が今しがた私に明かした、その事実を。
そして、この件を私がどれほど警戒していたか分かるように言うが、
柔らかな若い心は、たやすく誘惑されるものゆえ、
私は毎夜、娘を高い塔に寝かせ、
その鍵は、いつも自分で持っていた。
だから、そこから娘を運び出すことはできぬ。
プローテュースお聞きください、尊き殿下、二人は手立てを考えました、
彼が姫君の部屋の窓へよじ登り、
縄梯子で姫君を下ろそうというのです。
その梯子を取りに、若い恋人は今出かけており、
間もなく、それを持ってこの道をやって来ます。
よろしければ、ここでお引き止めになれます。
ただ、殿下、どうか巧みにおやりください、
私が知らせたと悟られませんように。
友への憎しみではなく、殿下への愛こそが、
この企てを私に告げ口させたのです。
ミラノ公爵名誉にかけて誓おう、あの男には決して知られぬ、
この件をお前から聞きつけたことは。
プローテュースでは、殿下、失礼を。ヴァレンタイン殿が参ります。
ミラノ公爵ヴァレンタイン殿、そう急いでどこへ行く?
ヴァレンタインお許しを、殿下、友人たちへの手紙を、
届けてくれる使者が待っておりますので、
それを渡しに行くところです。
ミラノ公爵よほど大事な手紙か?
ヴァレンタイン中身はただ、私が健やかに、殿下の宮廷で、
幸せに過ごしていると知らせるだけです。
ミラノ公爵ならば構わぬ。しばらく私といてくれ。
打ち明けたいことがいくつかある、
私には切実な問題だ、秘密にしてもらわねばならぬ。
私が友のスューリオ殿と娘を、
結びつけようとしてきたのは、お前も知っていよう。
ヴァレンタインよく存じています、殿下。確かに、あの縁組は、
富にも名誉にも恵まれたもの。それに、あの紳士は、
美徳、気前、品格、才覚のすべてに満ち、
殿下の美しいご息女の夫にふさわしい方です。
殿下のお力で、姫君の心を彼へ向けられませんか?
ミラノ公爵いや、信じてくれ。娘は気難しく、陰気で、ひねくれ、
高慢で、親に逆らい、強情で、孝行心がない。
自分が私の子であることも顧みず、
私が父であるというのに、恐れもしない。
そこで、お前には言っておくが、娘のこの高慢さが、
よくよく考えた末、私の愛を娘から引き離した。
余生は、娘らしい孝行によって、
いたわられるものと思っていたが、
今ではもう、妻を娶ると固く決め、
娘は、引き取る者がいればそこへ追い出すつもりだ。
となれば、美貌を持参金にするがよい。
私も私の財産も、娘は重んじておらぬからな。
ヴァレンタインこの件で、殿下は私に何をせよと?
ミラノ公爵ここミラノに、私が思いを寄せるヴェローナの貴婦人がいる。
だが、気位が高く、つれなくて、
年老いた私の口説き文句など何とも思わぬ。
そこで、お前に私の指南役を頼みたい——
なにぶん、口説き方などとうの昔に忘れた。
そのうえ、今どきの流儀も変わってしまった——
どう振る舞い、どんな手を使えば、
あの太陽のような瞳に留めてもらえるのかをな。
ヴァレンタイン言葉をお聞きにならぬなら、贈り物で勝ち取るのです。
口の利けぬ宝石は、黙っていても、しばしば、
生きた言葉以上に、女心を動かします。
ミラノ公爵だが、私が贈った品を、あの人ははねつけた。
ヴァレンタイン女は時に、いちばん心を満たすものをはねつけます。
もう一度お贈りください。決して諦めてはなりません。
初めのつれなさが、後の恋をなお熱くします。
顔をしかめても、殿下がお嫌いなのではなく、
殿下の恋心を、もっと燃やしたいだけ。
叱っても、殿下に去ってほしいのではありません。
なぜなら、女という愚か者は、一人にされると気が狂う。
何を言われても、拒まれたとは思わぬこと。
「お帰り」と言っても、「消え失せろ」の意味ではない!
おだて、褒め、称え、その美しさを持ち上げるのです。
どれほど色黒でも、天使の顔だと言ってやる。
舌を持ちながら、その舌で女を落とせぬ男は、
私に言わせれば、男ではありません。
ミラノ公爵だが、その人は親たちの約束で、
若く立派な紳士と婚約している。
男が近づかぬよう厳しく守られ、
昼は誰一人、会うことができぬ。
ヴァレンタインならば、私なら夜に会いに行きます。
ミラノ公爵ああ、だが扉には鍵がかかり、鍵束も厳重にしまわれ、
夜も誰一人、あの人に近づけぬ。
ヴァレンタインそれなら、窓から入ればよいではありませんか?
ミラノ公爵部屋は高く、地面からはるか上、
壁も外へ迫り出す造りで、登ろうとすれば、
命を落とす危険が誰の目にも明らかだ。
ヴァレンタインそれなら、巧みに編んだ縄梯子に、
投げ掛ける一対の鉤を付ければ、
もう一人のヘーローが住む塔にも登れます。
勇敢なレアンドロスなら、危険を冒すでしょう。
ミラノ公爵では、名門の紳士であるお前に聞こう、
どこへ行けば、そのような梯子が手に入る?
ヴァレンタインいつお使いになるのです? どうか、それをお聞かせください。
ミラノ公爵まさに今夜だ。恋は子供のようなもの、
手の届くものなら何でも欲しがる。
ヴァレンタイン七時までには、そのような梯子をご用意します。
ミラノ公爵だが、よく聞け。私は一人であの人のもとへ行く。
どうやって梯子をそこまで運べばよい?
ヴァレンタイン軽いものです、殿下、丈の長い外套なら、
その下に隠してお運びになれます。
ミラノ公爵お前のものほど長い外套なら、役に立つか?
ヴァレンタインはい、殿下。
ミラノ公爵では、その外套を見せてくれ。
同じくらいの丈のものを、私も手に入れよう。
ヴァレンタインいえ、どんな外套でも間に合います、殿下。
ミラノ公爵外套は、どう着こなせばよいのかな?
頼む、お前の外套をこの身に当てさせてくれ。
この手紙は何だ? 何とある? 「シルヴィアへ」だと!
しかもここには、私の企てにぴたりの仕掛けまである。
一度だけ、思い切って封を破るとしよう。
ミラノ公爵「私の思いは、夜ごとシルヴィアのもとに宿り、
思いたちは私の奴隷、私はそれを飛ばして遣わす。
ああ、その主も同じように軽やかに行き来できたなら、
思いが物も知らず横たわる、その場所にこの身も宿るのに!
先触れたるわが思いよ、清らかな胸に憩え。
その王たる私は、そこへ行けとせがむ一方、
思いたちを、かくも優美に恵んだ優美さを呪う、
この主には、家来ほどの幸運もないからだ。
私は自分を呪う、思いを遣わしたのはこの私、
主のいたい場所に、思いだけを宿らせたのだから」
ここには何と?
「シルヴィア、今夜、私はあなたを自由にする」
やはりそうか。しかも、目的の梯子までここにある。
何だ、パエトーンめ——お前はメロプスの息子のくせに——
天の車を御そうと、身のほど知らずにも望み、
無謀な愚かさで、この世を焼き尽くす気か?
星が照らしてくれるからと、その星に手を伸ばすのか?
去れ、卑しい闖入者! 思い上がった奴隷め!
媚びる笑顔は、身分の釣り合う仲間に振りまけ。
私の辛抱が、お前の功績には過ぎたものであったことを、
ここから立ち去る許しだと思え。
これまで私がお前に与えすぎた、
あらゆる恩恵よりも、この処置に感謝するがいい。
だが、我が領内にぐずぐず留まり、
我が宮廷を去るため、最も急いだとしても、
間に合う時を越えてなお居残るなら、
天にかけて! 私の怒りははるかに凌ぐぞ、
娘やお前に抱いた、かつての愛を。
消え失せろ! むなしい言い訳は聞かぬ。
命が惜しければ、ここから急いで立ち去れ。
ヴァレンタイン生きながら責め苦に遭うより、なぜ死ではないのだ?
死ぬとは、自分自身から追放されること。
そしてシルヴィアは私自身だ。彼女から追放されるとは、
自己が自己から離されること。死そのものの追放だ!
シルヴィアが見えぬなら、光など何の光?
シルヴィアがそばにいないなら、喜びなど何の喜び?
彼女がそばにいると思い描き、
完璧な姿の影を糧にするのでなければ。
夜、シルヴィアのそばにいられぬのなら、
ナイチンゲールの歌にも音楽はない。
昼、シルヴィアを見つめられぬのなら、
私の目に映すべき昼などない。
彼女こそ私の本質、だから私は存在しなくなる、
彼女の美しい星の力のそばで、
育まれ、照らされ、慈しまれ、生かされなければ。
死の宣告を逃れようとて、私は死から逃げるのではない。
ここに留まれば、ただ死が来るのを待つだけ。
だが、ここから逃げれば、私は命から逃げてしまう。
プローテュース走れ、小僧、走れ、走って、あの人を捜せ。
ラーンスそれっ、それっ!
プローテュース何が見える?
ラーンス捜してるお方ですよ。頭の毛の一本一本まで、どこを取ってもヴァレンタインだ。
プローテュースヴァレンタイン?
ヴァレンタイン違う。
プローテュースでは誰だ? 彼の亡霊か?
ヴァレンタインそれでもない。
プローテュースでは何だ?
ヴァレンタイン何でもない。
ラーンス「何でもない」が口を利けるのか? 旦那、そいつを殴りましょうか?
プローテュース誰を殴るつもりだ?
ラーンス誰でもない奴を。
プローテュースこら、やめろ。
ラーンスへい、誰も殴りゃしませんよ。お願いですから——
プローテュースおい、やめろと言っている。友よ、ヴァレンタイン、話がある。
ヴァレンタイン私の耳は塞がれ、よい知らせなど聞こえない、
悪い知らせが、もうあまりに詰まりすぎている。
プローテュースならば、私の知らせは声なき沈黙に葬ろう、
耳にきつく、調子外れで、悪い知らせだから。
ヴァレンタインシルヴィアが死んだのか?
プローテュースいや、ヴァレンタイン。
ヴァレンタインならば聖なるシルヴィアには、もう恋人とも呼べぬヴァレンタインだ。
彼女は私への誓いを破ったのか?
プローテュースいや、ヴァレンタイン。
ヴァレンタインシルヴィアが誓いを破ったなら、私はもはやヴァレンタインではない。
知らせとは何だ?
ラーンス旦那、あんたは「消え去り」の身になったと、お触れが出ています。
プローテュース「追い去り」、いや追放だ——ああ、それが知らせだ!——
この地から、シルヴィアから、そして友である私から。
ヴァレンタインああ、この悲しみなら、すでに腹いっぱい味わった、
今また詰め込まれれば、食傷してしまう。
シルヴィアは、私が追放されたと知っているのか?
プローテュースああ、知っている。そして、取り消されぬ限り、
効力をもって立ちはだかる、その宣告に——
溶けた真珠の海を、世に涙と呼ぶものを差し出した。
それを、つれない父親の足元へ注ぎ、
涙とともに、ひざまずく慎ましい我が身も差し出した。
白い両手をもみ絞る、その白さがあまりに似合い、
まるで今しがた、悲しみのため青ざめたかのようだった。
だが、折った膝も、差し上げた清らかな手も、
悲しいため息も、深いうめきも、銀を降らす涙も、
情けを持たぬ父親の胸を貫けなかった。
ただ、ヴァレンタインは、捕らえられれば死ぬ。
そのうえ、姫君の取りなしは父親をひどく怒らせ、
お前の追放を解いてくれと嘆願したため、
姫君を厳重な牢へ閉じ込めよと命じ、
そこに置き続けると、激しい言葉で脅したそうだ。
ヴァレンタインもういい。次にお前が口にする言葉が、
私の命を奪う、邪悪な力を持つのでなければ。
もしそうなら、頼む、その言葉を耳へ吹き込んでくれ、
果てなき悲しみを終わらせる、臨終の聖歌として。
プローテュースどうにもできぬことを嘆くのはやめ、
嘆いていることを、どうにかする術を考えろ。
時は、あらゆる善を養い、育てる乳母だ。
ここに留まっても、お前は恋人に会えない。
そのうえ、留まれば、命まで短くする。
希望は恋人の杖だ。それをついてここを去り、
絶望の思いに立ち向かえ。
お前がここにいなくとも、手紙はここへ届けられる。
私宛てに書けば、お前の恋人の、
乳のように白い胸へ、間違いなく届けよう。
今は、あれこれ論じている時ではない。
来い、町の門まで私が送る。
別れる前に、ゆっくり話し合おう、
お前の恋に関わる、あらゆることを。
シルヴィアを愛するなら、自分のためでなくとも、
身の危険を顧みて、私と一緒に来い!
ヴァレンタイン頼む、ラーンス、もし私の小僧を見かけたら、
急いで北門へ来いと伝えてくれ。
プローテュース行け、小僧、あいつを捜し出せ。来い、ヴァレンタイン。
ヴァレンタインああ、愛しいシルヴィア! 哀れなヴァレンタイン!
ラーンスいいか、俺はただの馬鹿だ。それでも、うちの旦那はちょいと悪党だと考える知恵はある。だが、ひとりの悪党でしかないなら、どっちでも同じことだ。今、生きている者で、俺が恋をしていると知る奴はいない。だが俺は恋をしている。馬を一組つないでも、その事実は俺から引き抜けない。誰に惚れたかも引き出せない。とはいえ女だ。だが、どの女かは俺自身にも教えてやらない。とはいえ乳搾り女だ。だが生娘じゃない、自分の子に洗礼の代父母までいる。とはいえ娘だ、ご主人に仕える女中で、賃金をもらっているからな。あの女には水猟犬より多くの取り柄がある。ただのキリスト教徒にしては大したものだ。
ラーンスここに、あの女の品性の目録がある。「第一条。取りに行って、運んで来られる」。馬だってそれ以上はできない。いや、馬は取りには行けず、ただ運ぶだけだ。だからあの女は駄馬より上だ。「次の条。乳搾りができる」。いいか、手のきれいな娘には、なんとも甘美な美徳だ。
スピードやあ、ラーンス殿、ご主人様には何か新しい話が?
ラーンスご主人の船か? そりゃ海の上だ。
スピードまた、いつもの悪い癖か。言葉を取り違える。その紙には、どんな知らせが?
ラーンスお前が今まで聞いた中で、いちばん黒い知らせだ。
スピードおい、どれほど黒い?
ラーンスそりゃ、インクみたいに真っ黒だ。
スピード読ませてくれ。
ラーンス呆れた、石頭め! お前に字が読めるものか。
スピード嘘をつけ。読めるぞ。
ラーンス試してやる。答えてみろ。お前をこしらえたのは誰だ?
スピードそりゃ、俺の祖父の息子だ。
ラーンスああ、字の読めない怠け者め! お前の祖母の息子だ。これで、字が読めないと証明された。
スピードほら、馬鹿、いいから。その紙で試してみろ。
ラーンスほら。聖ニコラスよ、お前の読む速さにご加護を!
スピード(読む。)「第一条。乳搾りができる」
ラーンスああ、それはできる。
スピード「次の条。うまい麦酒を造る」
ラーンスそこで、あのことわざができた。「心より祝福を、あなたの麦酒はうまい」
スピード「次の条。縫い物ができる」
ラーンスそれはつまり、「縫えるって? そう、縫える」ってことだな。
スピード「次の条。編み物ができる」
ラーンス娘の持参金がいくらの足しになるかなど気にするものか、あの娘が俺の足に履く靴下を編めるなら?
スピード「次の条。洗濯も磨き掃除もできる」
ラーンスとびきりの美徳だ。なら、あの女自身は洗われたり磨かれたりせずに済む。
スピード「次の条。糸を紡げる」
ラーンスあの女が糸車を回して暮らしを立てるなら、俺は世の中を車に乗せて回せるぞ。
スピード「次の条。名もない美徳を数多く持つ」
ラーンスつまり父なし子の美徳だ。なるほど、父親を知らないから、名前もない。
スピード「ここから、彼女の悪徳が続く」
ラーンス美徳のかかとに、ぴたりとついてな。
スピード「次の条。息のせいで、空腹時には口づけできない」
ラーンスまあ、その欠点なら朝飯で直せる。続きを読め。
スピード「次の条。甘い口をしている」
ラーンスそれなら、酸っぱい息の埋め合わせになる。
スピード「次の条。寝言を言う」
ラーンスそんなことは構わん、話している最中に眠りさえしなければ。
スピード「次の条。言葉が遅い」
ラーンスああ、悪党め、これを悪徳の中に書き入れた奴は! 言葉が遅いのは、女が持つただ一つの美徳だ。頼む、そこから出して、いちばんの美徳に置いてくれ。
スピード「次の条。高慢である」
ラーンスそれも出せ。イブの遺産だから、あの女から取り上げることはできん。
スピード「次の条。歯がない」
ラーンスそれも構わん、俺はパンの硬い皮が好きだからな。
スピード「次の条。気が荒い」
ラーンスまあ、ありがたいことに、噛みつく歯がない。
スピード「次の条。酒をしょっちゅう褒めたたえる」
ラーンス酒がうまけりゃ褒めてよし。あの女が褒めないなら、俺が褒める。よいものは褒めるべきだからな。
スピード「次の条。気前がよすぎる」
ラーンス舌が気前よく言葉を出すはずはない、口が重いと書いてある。財布も気前よく開かせない、俺がぴたりと閉じておく。さて、ほかのものなら気前よく開くかもしれんが、それは俺にも止められない。よし、続けろ。
スピード「次の条。知恵より髪が多く、髪より欠点が多く、欠点より財産が多い」
ラーンスそこで止めろ。あの女をもらう。今の一条では、二度三度、俺のものになったり、ならなかったりしたぞ。もう一度読み上げろ。
スピード「次の条。知恵より髪が多い」——
ラーンス知恵より髪が多い? ありうるな、証明してやる。塩壺の蓋は塩を隠す、だから蓋は塩より大きい。知恵を覆う髪は知恵より大きい、なぜなら大きいものが小さいものを隠すからだ。次は?
スピード「そして、髪より欠点が多い」——
ラーンスそりゃ化け物じみてる。ああ、その一項は外してくれ!
スピード「そして、欠点より財産が多い」
ラーンスほう、その一語で欠点にも箔がつく。よし、あの女をもらう。それで縁がまとまれば、何しろ不可能なことなどないから——
スピードそれで?
ラーンスそれなら教えてやる——お前の旦那が、北門でお前を待っている。
スピード俺を?
ラーンスお前をだ! ああ、お前は何様だ? 旦那は、お前よりましな男を待たされたこともある。
スピードでは、旦那のところへ行かなきゃならないのか?
ラーンス走って行かなきゃならん。あんまり長く待たせたから、歩いたくらいでは、もう間に合わんぞ。
スピードなぜもっと早く言わなかった? 恋文なんか、くたばっちまえ!
ラーンスさあ、あいつは俺の手紙を読んだせいで鞭を食らうぞ。人の秘密へ首を突っ込む、無作法な奴め! あとを追って、小僧が懲らしめられるのを喜ぶとしよう。
