修道士あの娘は無実だと、申し上げたではありませんか?
レオナート娘を告発した大公殿下とクローディオも、無実です。
お前たちが、今、論じ合うのを聞いた、あの誤りのためなのだから。
だがマーガレットには、いくらか落ち度があった。
もっとも、取り調べの真相が示すところでは、
あの娘の意志に反してのことだったが。
アントーニオ何はともあれ、万事がうまく収まり、私は嬉しい。
ベネディック私もです。さもなければ、信義に迫られ、
若いクローディオへ、決算を求めねばなりませんでした。
レオナートさて娘よ、そしてご婦人方も皆、
自分たちだけで、部屋へ下がってくれ。
私が呼んだら、仮面をつけ、ここへ来るのだ。
レオナート大公殿下とクローディオは、この時刻までに
私を訪ねると約束した。弟よ、役目はわかっているな。
兄である私の娘の、父親になり、
若いクローディオへ、娘を渡すのだ。
アントーニオ揺るがぬ顔で、そうしよう。
ベネディック修道士様、どうやら、あなたに骨を折っていただかねばなりません。
修道士何をするためです、ベネディック殿?
ベネディック私を結ぶか、破滅させるか、どちらかです。
レオナート殿、よきご老公、実を言えば、
あなたの姪御は、好意の目で私を見ているのです。
レオナートその目は、わが娘が貸したものだ。まことに、そのとおり。
ベネディック私も、愛の目で、あの人にお返ししています。
レオナートその見方を、お前に教えたのは、私と、
クローディオと、大公殿下だと思う。だが、お前の望みは?
ベネディックご返答は、謎めいています。
だが私の望みは、あなたのご好意が、われらの望みと並び立ち、
今日、われらが誉れある婚姻の身分へ、
ともに結ばれることです。
そのため、よき修道士様、あなたのお力をお借りしたい。
レオナートお前の望みに、私の心も寄り添おう。
修道士そして、私の力も。大公殿下とクローディオが来ました。
ドン・ペドローこの麗しい一同に、おはようを。
レオナートおはようございます、殿下。おはよう、クローディオ。
ここで、お二人をお待ちしていた。今も決心は変わらず、
今日、弟の娘と結婚するつもりか?
クローディオたとえエチオピアの黒い娘でも、決心は変えません。
レオナート娘を呼んでこい、弟よ。修道士様も支度ができている。
ドン・ペドローおはよう、ベネディック。どうしたのだ、
その二月のような顔は?
霜と嵐と曇り空で、いっぱいではないか。
クローディオ荒々しい雄牛のことを、考えているのでしょう。
ちぇっ、心配するな。お前の角の先には金をかぶせ、
ヨーロッパじゅう、お前を見て喜ばせよう。
かつてエウローペ姫が、逞しいジュピターを見て喜んだように。
恋をした大神が、気高い獣を演じたときにな。
ベネディック雄牛ジュピターは、愛らしい声で鳴いたそうだ。
それに、どこかの妙な雄牛が、あなたの父上の牝牛に飛び乗り、
その気高い離れ業で、一頭の子牛をもうけた。
あなたにそっくりだ。鳴き声が、まさに同じだからな。
クローディオこの借りは返すぞ。だが、ほかの決算がやってきた。
クローディオ私が引き取るべき姫は、どなたです?
アントーニオこの娘だ。お前に、この娘を渡そう。
クローディオでは、私のものです。愛しい人、顔を見せてください。
レオナートいや、それはならん。この修道士の前で、娘の手を取り、
結婚すると誓うまでは。
クローディオお手を。聖なる修道士様の前で、
あなたが私を気に入ってくださるなら、私はあなたの夫です。
ヒアロー私が生きていたとき、私は、あなたのもう一人の妻でした。
ヒアローあなたが愛していたとき、あなたは、私のもう一人の夫でした。
クローディオもう一人のヒアロー!
ヒアローこれより確かなことはありません。
一人のヒアローは汚名の中で死んだ。でも私は生きています。
そして私が生きているのと同じくらい確かに、私は処女です。
ドン・ペドロー前のヒアロー! 死んだはずのヒアロー!
レオナート娘への中傷が生きていた間だけ、娘は死んでいたのです、殿下。
修道士この驚きはすべて、私が静め、説明できます。
聖なる儀式が終わったあと、
美しいヒアローの死について、詳しくお話ししましょう。
それまでは、この不思議を、見慣れたものと思ってください。
さあ、ただちに礼拝堂へ参りましょう。
ベネディックまあ、ゆっくりと、修道士様。ベアトリスは、どの人だ?
ベアトリス(ベアトリス、仮面を外す。)その名なら、私が返事をします。何のご用?
ベネディック私を愛していないのか?
ベアトリスええ、愛していないわ。道理にかなう程度よりは。
ベネディックそれでは、君の叔父上と、大公殿下と、クローディオは、
騙されていたのだな。君が愛していると、誓ったぞ。
ベアトリスあなたは、私を愛していないの?
ベネディック誓って、愛していない。道理にかなう程度よりは。
ベアトリスそれなら私の従妹と、マーガレットとアーシュラは、
ひどく騙されたのね。あなたが愛していると、誓ったもの。
ベネディック君が私を思い、病気になりかけていると、誓ったぞ。
ベアトリスあなたが私を思い、死にかけていると、誓ったわ。
ベネディックそんなことは、まるでない。それなら君は、私を愛していないのだな?
ベアトリスええ、本当に。ただ友として、お返しする程度にはね。
レオナートさあ、姪よ。お前がこの紳士を愛しているのは、間違いない。
クローディオそして、この男が彼女を愛していることなら、私が誓いましょう。
ここに、この男の筆跡で書かれた紙があります。
純粋に自分の頭から絞り出し、ベアトリスへ仕立てた、
足を引きずる十四行詩です。
ヒアローこちらには、もう一通。
従姉の筆跡で書かれ、ポケットからこっそり取ったもの。
ベネディック様への思いが、書かれています。
ベネディック奇跡だ! われら自身の手が、われらの心に反対する証人になった。さあ、君を妻にするぞ。ただし、この光にかけて、哀れだから引き取るのだ。
ベアトリスお断りはしないわ。でも、このよき日にかけて、強く説き伏せられたから、折れてあげるの。それに半分は、あなたの命を救うため。あなたは、恋の肺病で痩せ衰えていると聞いたから。
ベネディック静かに! その口を塞いでやる。
ドン・ペドローごきげんはいかがかな、妻帯者ベネディック?
ベネディック聞いてください、殿下。機知をひねる者が大学一つ分、束になろうと、私の望みを嘲笑で変えさせることはできません。風刺詩や警句など、私が気にすると思いますか? いや。人が頭脳で打ちのめされるものなら、誰も立派な服など、身につけられなくなる。手短に言えば、私は結婚すると決めた。世間が何を言おうと、意味のあることとは考えない。だから私が昔、結婚に反対して言ったことで、二度と私を嘲るな。人間は、目の回るほど変わりやすいもの。これが私の結論です。クローディオ、君については、殴ってやるつもりだった。だが私の縁者になりそうだから、痣のないまま生き、私の従妹を愛すがいい。
クローディオお前がベアトリスを断ればよいと、大いに期待していた。棍棒で独身生活から叩き出し、二人暮らしの二枚舌男にしてやれたからな。従妹が、とびきり厳しく見張っていなければ、疑いなく、そうなるだろう。
ベネディックまあ、まあ、われらは友だ。結婚する前に、ひと踊りしよう。自分たちの心を軽くし、妻たちの踵も軽やかにするために。
レオナート踊りは、そのあとだ。
ベネディックいや、誓って先です。さあ、音楽を。殿下、沈んでおられるな。妻をおもらいなさい、妻を。先に角をつけた一本の杖ほど、尊く見えるものはありません。
使者殿下、弟君のジョンは、逃走中に捕らえられ、
武装した兵たちに連れられ、メッシーナへ戻ってきました。
ベネディック明日までは、あの男のことなど考えるな。見事な罰を、私が考えておく。笛吹きたち、音楽を始めろ。
