オーベロンタイターニアは目を覚ましたか。
覚めたなら、次に目へ飛び込んで来たのは何だったか。
それが何であれ、狂おしいほど惚れ込んでいるはずだ。
オーベロン使いの者が来た。
どうした、悪戯者の精霊。
この化かしの森で、今夜はどんな夜の騒ぎを仕込んだ。
パックわが女王様が、化け物に恋をなさいました。
女王様の秘めやかな、聖なる寝所のすぐ近く、
とろとろとまどろんでおいでの時刻に、
継ぎはぎ頭の職人ども、無骨な手間仕事の連中が、
アテネの店先で日々の糧を稼ぐ手合いですが、
寄り集まって芝居の稽古をしておりました、
偉大なシーシアス様の婚礼の日に出すつもりの芝居です。
その能無しぞろいでも飛び切り頭の鈍い厚皮男、
座興でピラマス役を演じていた奴が、
出番を終えて、茂みへ引っ込みました——
そこを好機と、この私が、
ロバの頭をその首に据えてやったのです。
やがてシスビーに応える出番が来て、
わが役者どのが、のこのこお出まし。仲間は奴を見るなり、
忍び寄る鳥刺しに気づいた雁の群れのように、
あるいは銃声にいっせいに舞い上がり、
鳴き騒いで空へ散る、灰色頭の烏の群れのように、
ちりぢりになって、狂ったように空を掃く——
奴の姿ひとつで、仲間は残らず逃げ出しました。
私が足を踏み鳴らすたび、そこらじゅうで折り重なって転び、
人殺しと叫ぶやら、アテネに助けを呼ぶやら。
正気はこれほど弱く、恐怖ばかりこれほど強くなったせいで、
物言わぬ草木までが、連中に悪さを始める始末。
茨と棘が着物に食らいつき、
袖を取り、帽子を取り、怯む者からは何もかも剥ぎ取る。
私はこの取り乱した恐怖のまま連中を追い立てて、
姿の変わった愛しのピラマスだけを、その場に残しました——
するとちょうどその瞬間、うまい具合に、
タイターニア様がお目覚めになり、たちまちロバに恋をなさった。
オーベロンこれは思い描いた以上の首尾だ。
だが、あのアテネ人の目には塗りつけたのか、
言いつけたとおり、恋の汁を。
パック眠っているところを仕留めました——それも済んでおります——
そばにはアテネの女が寝ておりましたから、
目覚めれば、否も応もなく、その女が目に入る寸法です。
オーベロンそばに寄れ。あれがそのアテネ人だ。
パック女はあの女です。ですが男は、あの男ではない。
ディミートリアスああ、なぜそう咎める、これほどあなたを愛する男を。
その苦い息は、苦い敵に吹きかけるものだ。
ハーミア今はまだ叱るだけ。でも本当は、もっとひどくしていいはず、
あなたはきっと、私に呪う理由をくれたのだから。
眠っているライサンダーを殺したのなら、
すでに血に踝まで浸かった身、いっそ深みまで飛び込んで、
私も殺しなさい。
太陽が昼に忠実だといっても、
私へのあの人には及ばない。そのあの人が、眠っている
ハーミアを置いて忍び出たりするものですか。それを信じるくらいなら、
この地球にまるごと穴が開いて、月がその真ん中を
潜り抜け、地球の裏側で、真昼の兄君の
お顔を曇らせるほうを信じます。
あなたがあの人を殺したに決まっている——
人殺しはそういう顔をしているはず、そんな、死人のような、険しい顔を。
ディミートリアス殺された者こそ、こういう顔をしているはずだ。この私のように、
あなたの冷たい残酷さに、心臓を刺し貫かれて——
それでも殺した当のあなたは、あんなに輝いて、澄んでいる、
きらめく天球の、あの金星のように。
ハーミアそれが私のライサンダーと何の関わりがあるの。あの人はどこ。
ねえ、ディミートリアス、あの人を返してくださる?
ディミートリアスあの男の死骸なら、うちの猟犬にくれてやりたいね。
ハーミアお黙り、犬、野良犬。あなたのせいで、乙女の我慢も
限度を越えた。やっぱり殺したのね。
金輪際、人間の数に入れてもらえると思うな。
ああ、一度でいいから本当のことを、本当のことを言って、私のためを思うなら。
起きているあの人を、まともに見る度胸もないくせに、
眠っているところを殺したの? まあ、ご立派なお手柄。
虫けらにでも、蝮にでも、それくらいはできる。
そう、蝮の仕業よ。だってあなたのより
二枚に割れた舌で噛みついた蝮なんて、この世にいないもの、この蛇。
ディミートリアスその激情は、見当違いに注がれている——
私はライサンダーの血で手を汚してなどいない。
それに死んでもいないはずだ、私の知る限りは。
ハーミアお願いだから、それなら言って、あの人は無事だと。
ディミートリアス言えたとして、私は何をいただけるのかな。
ハーミア二度と私に会わずに済む、その特権を。
その憎らしい顔の前から、私は行きます——
もう二度と会わないで、あの人が死んでいようといまいと。
ディミートリアスあの剣幕では、追っても無駄だ。
ならばしばらく、ここに留まるとしよう。
悲しみの重さがいっそう重くのしかかるのは、
破産した眠りが、悲しみへの借りを返さないからだ——
その借りを、いくらかなりと払ってもらえるだろう、
ここで眠りの支払いを、少し待ってやるとすれば。
オーベロン何ということをしてくれた。まるきり取り違えて、
本物の恋人の目に、恋の汁を差したのだ——
おまえの手違いから、否応なしにこうなる、
偽りの恋が真に変わるのではなく、真の恋が裏返る。
パックなら、運命の思し召しというもので。誓いを守る男が一人いれば、
百万人は破る、誓いに誓いを重ねては反故にして。
オーベロン風よりも速く森を駆け巡り、
アテネのヘレナを探し出して来い——
恋の病にやつれ果て、頬は青ざめ、
高くつく恋の溜息で、若い血をすり減らしている娘だ。
何か幻でも見せて、ここへ連れて来い——
娘が現れるまでに、この男の目には魔法をかけておく。
パック行きます、行きます、ご覧ください、この速さ、
韃靼人の弓を離れた矢よりも速く。
オーベロン紫の染めを受けたこの花よ、
キューピッドの矢に射抜かれた花よ、
この男の瞳の奥へ沈み込め。
恋しい女を見つけたとき、
その女が燦然と輝いて見えるように、
大空にかかる金星のように。
目覚めたとき、その女がそばにいたら、
治す薬を、その女に乞うがいい。
パックわれら妖精団の隊長どの、
ヘレナはすぐそこまで来ております。
それと、私が取り違えたあの若造が、
恋の代金を払えと迫りながらご一緒で。
連中の馬鹿げた恋芝居、見物いたしますか。
ああ、人間どもときたら、なんという阿呆ぞろいだ。
オーベロン脇へ寄れ。あの者たちの立てる音で、
ディミートリアスが目を覚ますだろう。
パックそうなれば、二人がかりで一人を口説く。
それだけでも極上の見世物——
私の何より好きな趣向は、
物事があべこべに転がることでして。
ライサンダーなぜ私の求愛が、嘲りのためだと思うのです。
嘲りや冷やかしが、涙を連れて来たためしはない——
ごらんなさい、誓うたびに泣いている。こうして生まれた誓いは、
生まれ落ちたその時から、すべてが真実だと顔に出る。
これほどのものが、どうしてあなたには嘲りに見えるのか、
真実の証である誠のしるしを、身に帯びているのに。
ヘレナますます狡猾さに磨きをかけるのね。
真実が真実を殺し合うなんて、ああ、悪魔じみて神々しい戦だこと。
その誓いはハーミアのものでしょう。あの人を捨てる気?
誓いと誓いを秤にかけてごらんなさい、目方はゼロ——
あの人への誓いと私への誓い、二つの皿に載せれば、
きっちり釣り合う。どちらも、ほら話ほどの軽さで。
ライサンダーあの女に誓ったときの私には、分別がなかった。
ヘレナあの人を捨てる今のあなたにも、あるとは思えない。
ライサンダーディミートリアスはあの女を愛している。あなたではなく。
ディミートリアス(目を覚まして。)おおヘレナ、女神、ニンフ、完璧にして神々しい人。
恋人よ、その瞳を何にたとえよう。
水晶も濁って見える。ああ、なんと熟れて誘うことか、
その唇、口づけをねだる、ふたつのさくらんぼ。
あの純白に凝り固まった、高きタウラスの嶺の雪も、
東風に吹かれたそばから烏に変わる、
あなたがその手をかざした途端に——ああ、口づけさせてくれ、
この純白の女王に、この至福の証印に。
ヘレナああ、ひどい。ああ、地獄だわ。皆さんそろって、
私をおもちゃに座興を楽しむおつもりね——
礼節を知り、作法をわきまえた方々なら、
こんな仕打ちはなさらないはず。
憎むだけでは足りないの、憎まれているのは知っています、
その上、魂まで寄せ合わせて、あざけらずにはいられないの?
見かけどおりの男でいらっしゃるなら、
おとなしい女をこんなふうには扱わないでしょう、
誓ってみせ、褒めちぎってみせ、私の器量を持ち上げて——
心の底では、憎み抜いているに決まっているのに。
お二人は恋敵、ハーミアを取り合う仲。
それが今度は、そろってヘレナをなぶる恋敵——
ご立派なお手柄、男らしい大事業だこと、
哀れな娘の目から涙を絞り出すとは、
その嘲りの力で。生まれの良い方なら、
生娘をこうも傷つけ、哀れな者の
忍耐を責め立てたりはなさらない、すべてはお慰みのために。
ライサンダーひどいぞ、ディミートリアス。よすんだ。
君はハーミアを愛している。私がそれを知っていることも、君は知っている——
だからここで、心から、快く、
ハーミアの愛にかけての私の取り分は、そっくり君に譲る。
代わりにヘレナへの君の取り分を、私に遺してくれ、
私が愛し、死ぬまで愛し抜く人だ。
ヘレナ人をなぶるにも、これほど無駄な息を費やした例はないわ。
ディミートリアスライサンダー、ハーミアは君が取っておけ。私は要らん。
かつて愛したにせよ、その愛はすっかり消え失せた。
私の心はあの女のもとに、旅の客として泊まっただけ。
今はヘレナのもとへ、わが家へ帰って来たのだ、
ここに骨を埋めるために。
ライサンダーヘレナ、それは嘘だ。
ディミートリアス自分の知りもしない誠意にケチをつけるな、
高くつくぞ、命で払う羽目になっても知らんぞ。
ほら、君の恋人のお着きだ。あちらが君の大切な人だろう。
ハーミア暗い夜は、目から役目を取り上げて、
そのぶん耳の聞き分けを鋭くしてくれる。
見る力を損なった分は、
聞く力に、倍の埋め合わせで払ってくれる。
あなたを見つけたのは、ライサンダー、この目ではない。
耳が——ありがたいこと——あなたの声まで連れて来てくれた。
でも、どうしてあんなにつれなく、私を置き去りにしたの。
ライサンダー留まる理由があるか、恋が行けと急き立てる男に。
ハーミアどんな恋が、ライサンダーを私のそばから急き立てるの。
ライサンダーライサンダーの恋、一時もじっとさせてくれぬ恋だ——
美しいヘレナ。あの空一面の火の玉、光の瞳を全部束ねたよりも、
夜を金色に染め上げる人だ。
なぜ私を探す。これでわからないか、
君が憎いからこそ、君を置いて出たのだと。
ハーミア思ってもいないことを口にしているのね——ありえない。
ヘレナほら、この人まで一味だった。
今こそわかった、三人が三人、示し合わせて、
私をいじめるために、この偽りの座興を仕立てたのね。
ひどいハーミア。恩知らずな女。
あなたが企んだの、この人たちと語らって、
このむごい嘲りの餌で私を釣ろうと。
二人で分かち合った打ち明け話のすべて、
姉妹の誓いも、共に過ごした時間も、
足早に過ぎる時を、二人して叱ったことも、
私たちを引き離すのが憎いと——ああ、みんな忘れたの?
学びの日々の友情も、幼い日の無垢も?
ハーミア、私たちはふたり、神々の職人のように、
針を並べて、ひとつの花を作り上げた、
ひとつの刺繍台の上、ひとつの座布団に座って、
ひとつの歌を、ひとつの調べでさえずりながら、
まるで手も、身体も、声も、心も、
ひとつに溶け合っているかのようだった。そうして一緒に育った、
双子のさくらんぼのように——分かれて見えて、
分かれながら、ひとつに結ばれて。
ひとつの茎に実った、愛らしいふたつの実。
見た目はふたつの身体、けれど心はひとつ——
紋章の盾に並ぶ、対の紋のように、
ひとりの主に属して、ひとつの飾りを頂いて。
その昔からの愛を、あなたは引き裂くの?
男たちに加勢して、哀れな友を嘲るために?
友のすることではない。乙女のすることでもない。
私たち女はみな、私と共にあなたを責めていい、
この傷を受けているのは、私ひとりだけれど。
ハーミアその激した物言いには、呆れるほかないわ。
私はあなたを嘲ってなどいない。あなたが私を嘲っているようね。
ヘレナあなたでしょう、嘲るためにライサンダーをけしかけて、
私を追わせ、目だの顔だのを褒めそやさせたのは。
もうひとりの恋人、あのディミートリアスに——
ついさっきまで、足で私を蹴りのけていたあの人に、
女神だの、ニンフだの、神々しい、たぐいまれ、
貴い、天上の人だのと呼ばせたのも。なぜあの人が、
憎い女にそんな言葉を並べるの。なぜライサンダーが、
魂の奥にあれほど豊かに根ざしたあなたへの愛を否んで、
こともあろうにこの私に、恋情を捧げてみせるの、
あなたがけしかけ、あなたが頷いたのでなければ。
私があなたほど恵まれず、
愛にまとわりつかれもせず、運にも見放され、
愛されぬまま愛する、この上なく惨めな身だとしても——
それは蔑みではなく、憐れみを向けるべきものでしょう。
ハーミア何を言っているのか、わけがわからない。
ヘレナええ、そうやって続けなさい。沈んだ顔をこしらえて、
私が背を向けたら、口をゆがめて笑えばいい。
互いに目くばせして、この結構な冗談を守り立てなさい——
この座興、首尾よく運べば、年代記に残るでしょうよ。
憐れみか、品位か、作法か、ひとかけらでもあるのなら、
私をこんな見世物の種にはしないはず。
では、ごきげんよう。半分は私自身の落ち度——
死ぬなり、去るなりすれば、じきに癒えるでしょう。
ライサンダー待ってくれ、優しいヘレナ。言い分を聞いてくれ——
わが恋、わが命、わが魂、美しいヘレナ。
ヘレナまあ、ご立派。
ハーミアねえあなた、そんなふうに彼女を嘲らないで。
ディミートリアス彼女の頼みで止まらぬなら、私が力ずくで止めてみせる。
ライサンダー君の力ずくは、彼女の頼み以上には効かないさ——
君の脅しには、彼女の弱々しい祈りほどの力もない。
ヘレナ、愛している。命にかけて、愛している——
君のためなら失ってもいいこの命にかけて誓おう、
君を愛していないと言う奴が嘘つきだと、証明してみせる。
ディミートリアス言っておくが、私の愛はこの男などの及ぶところではない。
ライサンダーそこまで言うなら、あちらへ来い、剣で証明してもらおう。
ディミートリアスよし、すぐ行こう。
ハーミアライサンダー、これはいったい、どういうつもりなの。
ライサンダー離れろ、このエチオピア女。
ディミートリアスおいおい、見ろ、この男、
振りほどく振りだけは達者だ。ついて来る素振りだけ見せて、
その実、来やしない。おまえは飼い馴らされた男だ、帰れ。
ライサンダーぶら下がるな、この猫、この草の実。汚らわしい、手を離せ、
さもないと、蛇のように振り落とすぞ。
ハーミアどうしてそんなに荒々しくなったの。どうしてしまったの、
ねえ、あなた——
ライサンダーあなた、だと? 消えろ、浅黒い韃靼女、消えろ。
失せろ、飲み下せない苦い薬。憎らしい毒薬め、あっちへ行け。
ハーミア冗談ではないの?
ヘレナええ、本当に。そしてあなたのも、ね。
ライサンダーディミートリアス、君との約束は守るぞ。
ディミートリアス証文をいただきたいものだな。見たところ、
君は弱い絆にも繋ぎ止められる質だ。口約束は信用しない。
ライサンダー何だと。この女を殴れというのか、打ち殺せと?
憎んではいても、そこまでの傷は与えん。
ハーミア憎むこと以上の傷が、どこにあるというの。
私を憎む? なぜ? ああ、どうしたの、あなた。
私はハーミアではないの? あなたはライサンダーではないの?
私の器量は、ついさっきまでの私と変わらない。
この夜のうちに、あなたは私を愛し、この夜のうちに捨てた——
それなら、あなたは私を捨てたのね——ああ、神様、お許しにならないで——
本気で、と言わなければならないの?
ライサンダーああ、命にかけて本気だ。
二度とその顔を見たくないと思っていた。
だから、望みも、問いも、疑いも捨てることだ。
確かなことだ、これ以上の真実はない。冗談ではない、
私は君を憎み、ヘレナを愛している。
ハーミアああ、なんてこと。このいかさま師、この花食い虫、
この恋泥棒。そうやって、夜盗みに来たのね、
私の恋人の心を、あの人の胸から。
ヘレナ上等だこと、まったく。
慎みも、乙女の恥じらいも、
はにかみのかけらもないの? その手で引きずり出す気なの、
私のおとなしい舌から、堪忍袋の切れた返事を。
恥を知りなさい、このまがい物、この操り人形。
ハーミア操り人形? なぜ? ああ、そういう遊びだったの。
わかったわ、この人、私たちの背丈を
比べてみせたのよ。ご自分の高い背を売り込んで、
そのお姿で、そのすらりとした立派なお姿で、
その背の高さで、まあ、あの人を釣り上げたというわけ。
それであの人のご評価も、そんなにお高くなったの、
私がこんなにちびで、こんなに低いから?
どれだけ低いのよ、このペンキ塗りの五月柱。言いなさい、
どれだけ低いの? 言っておくけれど、まだ低すぎはしない、
この爪が、あなたの目に届かないほどには。
ヘレナお願いです、私をなぶるのは構いませんから、皆さん、
あの人に乱暴だけはさせないで。私は口の悪い女ではないし、
がみがみ言い合う才もまるでない。
臆病さにかけては、正真正銘の乙女です——
ぶたせないでください。ひょっとして、お思いかもしれない、
あの人が私より少しばかり背が低いから、
私でも張り合えるだろうと。
ハーミア低い! ほら、また言った。
ヘレナねえハーミア、そんなに私につらく当たらないで。
私はいつもあなたを愛していたわ、ハーミア。
あなたの秘密はいつも守った。裏切ったことなど一度もない。
ただひとつ、ディミートリアスへの恋心に負けて、
あなたがこの森へ忍んで行くことを、あの人に明かしてしまっただけ。
あの人はあなたを追った。恋しさに、私はあの人を追った。
でもあの人は私を叱り、追い払おうと脅した、
ぶつぞ、蹴飛ばすぞ、いや、殺してやるとまで。
だから今は、黙って行かせてくださるなら、
この愚かさを抱えてアテネへ帰り、
もう後は追いません。行かせてください——
ごらんのとおり、私は単純で、愚かな女です。
ハーミアなら、お行きなさいな。止めているのは誰?
ヘレナ愚かな心。ここへ置いていく、この心。
ハーミアまあ、ライサンダーに預けて?
ヘレナいいえ、ディミートリアスに。
ライサンダー恐がるな、ヘレナ。君には指一本触れさせない。
ディミートリアス触れさせんとも。君が彼女の肩を持とうともだ。
ヘレナああ、あの人、怒ると鋭くて、意地が悪いの。
学校にいた頃から、雌狐で通っていた。
小さくても、あの人は獰猛なんです。
ハーミアまた「小さい」! 「低い」だの「小さい」だの、そればっかり。
どうしてこの人の言いたい放題を許しておくの。
そこをどいて、やらせてもらうわ。
ライサンダー失せろ、この小人女。
このちんちくりん、伸びない結び草の出来損ない。
この数珠玉、このどんぐり。
ディミートリアスおせっかいが過ぎるぞ、
君の奉仕を鼻であしらう女のためにな。
放っておけ。ヘレナのことを口にするな。
肩を持つな。もしも彼女に、
これっぽっちでも恋の素振りを見せてみろ、
高い代償を払わせるぞ。
ライサンダーようやく手が離れた——
来る度胸があるならついて来い。どちらの権利が
ヘレナの上で勝るか、君のか私のか、白黒つけよう。
ディミートリアスついて行く? いや、行くなら並んでだ、頬と頬をくっつけてな。
ハーミアあなた、このごたごたはみんな、あなたが蒔いた種よ——
待ちなさい、逃げないで。
ヘレナあなたなんか信用しません、ええ、
その口の悪いお仲間に、これ以上ひとときもいたくない。
つかみ合いなら、あなたの手のほうが早いでしょうけど、
逃げるときは、私の脚のほうが長いのよ。
ハーミア呆れるばかりで、言葉も出ない。
オーベロンこれがおまえの粗相の果てだ。相も変わらず取り違える。
それとも、わざと悪さを仕込んでいるのか。
パック信じてください、影の国の王よ、あれは取り違えです。
おっしゃったではありませんか、男の目印は、
身にまとったアテネの衣装だと。
ですから私の仕事に、ここまで落ち度はない道理——
汁を塗ったのは、間違いなくアテネ人の目でした。
それに、こう転んだのは、むしろ上出来と喜んでおります、
連中のいがみ合いは、なかなかの見世物ですから。
オーベロン見ろ、恋人たちは果し合いの場所を探している——
急げ、ロビン、夜をかき曇らせろ。
星の天蓋をただちに覆え、
冥府の川のように黒い、垂れこめる霧で。
そして、あの気の立った恋敵どもを迷わせ、
互いの道が決して交わらぬようにしろ。
あるときはライサンダーそっくりに舌を作り、
痛烈な悪態でディミートリアスを焚きつけろ。
あるときはディミートリアスの声色で毒づいてやれ。
そうやって二人を、互いから引き離し続けるのだ、
やがて死人と見紛う眠りが、鉛の脚と
蝙蝠の翼で、その額に這い上るまで。
そうしたら、この草をライサンダーの目に絞り込め。
その汁には、霊験あらたかな力が宿っていて、
あらゆる迷いをその目から力ずくで拭い去り、
瞳をいつもどおりの見え方に戻してくれる。
次に目覚めたとき、この馬鹿騒ぎのいっさいが、
夢と、実りのない幻に見えるだろう。
そうして恋人たちはアテネへ帰ってゆく、
死ぬまで日限の切れない、固い契りを結んで。
おまえがこの仕事にかかっている間に、
俺は女王のもとへ行き、あのインドの少年を貰い受ける。
それから、魔法のかかったあれの目を、化け物の姿から
解き放ってやる。それで万事、もとの平和だ。
パック妖精の王よ、これは急がねばなりません、
夜の駆ける竜たちが、全速で雲を切り裂いておりますし、
あちらに輝き出したのは、曙の先触れ——
あれが近づけば、そこかしこをさまよう亡霊は、
群れをなして墓場へ帰ります。呪われた魂ども、
辻や川瀬に葬られた者たちは、
とうに虫の湧く寝床へ戻りました。
おのれの恥を昼の目に晒すのを恐れて、
自ら光を捨てて去った身の上、
黒い眉の夜と、永遠に連れ添うほかない者たちです。
オーベロンだが、われらは別の血筋の精霊だ——
俺は暁の君の恋人と、たびたび狩りに興じた身、
森番のように、森を踏み歩ける身だ、
東の門が、燃え立つ真紅に開いて、
祝福に満ちた美しい光を海神の上へ投げかけ、
その塩辛い緑の潮路を、黄金に変えるときまでもな。
それでも、急げ。手間取るな——
夜の明ける前に、この仕事は片づけられる。
パック上へ下へと、上へ下へ、
引き回してやろう、上へ下へ。
野でも町でも恐がられ者、
ゴブリンさまのお通りだ、上へ下へ。
おっと、一人お着きだ。
ライサンダーどこにいる、高慢ちきなディミートリアス。今すぐ物を言え。
パックここだ、悪党。抜き身を提げて待っているぞ。おまえこそどこだ。
ライサンダー今すぐそちらへ行く。
パックならついて来い、
もっと開けた場所へ。
ディミートリアスライサンダー! もう一度言ってみろ。
逃げたのか、この腰抜け、逃げおおせたのか。
返事をしろ。茂みの中か。どこに頭を隠した。
パック腰抜けはおまえだろう。星に向かって威張り散らし、
茂みに向かっては、戦をお探しだと触れて回り、
それで出て来ない気か。来い、卑怯者。来い、この小僧。
鞭でしつけてやる。おまえ相手に剣を抜く男は、
それだけで名折れだ。
ディミートリアスおう、そこにいるのか。
パック声について来い。ここは男を試す場所ではない。
ライサンダー先へ先へと回り込んでは、なおも俺を挑発する——
呼ばれた場所へ着いてみれば、もう奴はいない。
あの悪党、俺よりよほど足が軽い。
急いで追えば、向こうはもっと速く飛ぶ。
おかげで俺は、暗い悪路に転がる始末——
ここで休むとしよう。
ライサンダー来い、優しい昼よ。
おまえがひとたび、灰色の光を見せてくれさえすれば、
ディミートリアスを探し出し、この恨みを晴らしてやる。
パックほう、ほう、ほう! 腰抜け、なぜ来ない。
ディミートリアス待つ度胸があるなら待ってみろ。わかっているぞ、
おまえは俺の先を走っては、居場所を変えるばかり、
足を止めて、面と向き合う度胸がないのだ。
今はどこだ。
パックこっちだ、来い。ここにいるぞ。
ディミートリアスふん、なぶる気だな。高い買い物になるぞ、
その面を日の光の下で拝んだ暁にはな——
今は勝手に行くがいい。疲れがこの身を締めつけて、
この冷たい寝床に、身の丈を測って横たわるほかない。
夜明けとともに、見舞ってやるから覚悟しておけ。
ヘレナああ、くたびれ果てた夜、長くて、うんざりする夜、
早く時を刻んで。東から、慰めの光よ、差して、
夜が明けたら、アテネへ帰れるように、
私といるのが嫌でたまらない人たちのもとを離れて——
そして眠りよ、時には悲しみの目を閉じてくれる眠りよ、
しばらくの間、私を私自身から盗み出して。
パックまだ三人か。あと一人おいで。
男女ふたりずつ、そろって四人前。
ほら、お着きだ、ぷりぷりの、しょんぼりだ——
キューピッドの奴は性悪の悪ガキだ、
哀れな女子をここまで狂わせるとは。
ハーミアこんなに疲れたことはない、こんなに惨めだったことも。
露にまみれ、茨に引き裂かれ、
もう這うことも、進むこともできない。
脚が、心の望みに追いついてくれないの。
夜が明けるまで、ここで休みましょう。
天よ、ライサンダーをお守りください、あの人たちが本当に斬り合うのなら。
パック地べたで
ぐっすりおやすみ——
おまえの目には
これを差す、
優しい恋人どの、よく効く薬だ。
パック目が覚めたなら、
心ゆくまで
味わうがいい、
昔なじみの恋人の、
その瞳を見るまことの喜びを。
田舎の諺は嘘つかぬ、
「己のものは己が取れ」——
目覚めたときに、そのとおり。
ジャックにはジルを、
悪いことなど何もなし。
男は自分の牝馬を取り戻し、それで万事がめでたし、めでたし。
