マクダフ夫人あの人が何をしたというのです、国を逃げ出さねばならぬほどの。
ロスご辛抱なされ、奥方。
マクダフ夫人あの人には、その辛抱がなかったのです。
あの逃亡は狂気の沙汰。行いは何もなくとも、
怯えのせいで、人は謀反人にされてしまうのに。
ロス分からんでしょう、
あれが知恵だったのか、怯えだったのかは。
マクダフ夫人知恵ですって! 妻を捨て、赤子たちを捨て、
屋敷も、身分も、みな置き去りにして、
自分ひとりが逃げ出す場所へ? あの人は、わたしたちを愛していないのです。
生まれつきの情が欠けているのです。あの哀れなミソサザイ——
鳥の中でいちばん小さなあの鳥でさえ、巣に雛がいれば、
梟を相手に戦うというのに。
すべては怯え、愛のかけらもない。
知恵とやらも、同じだけ乏しいこと——
こんなにも道理に逆らって、逃げ出すようでは。
ロスいとしい従妹どの、
どうか、心を鎮めなされ。あなたの夫君はといえば、
気高く、賢く、思慮深く、この時世の
引きつけ具合を、誰よりも心得ておられる。これ以上、多くは言えぬが——
むごい時代です。おのれで知らぬ間に、
謀反人にされてしまう。恐れるものの噂に振り回されながら、
何を恐れているのかも分からず、
荒れて猛る海の上を、あちらへ、こちらへ、
ただ漂うだけ。——これで失礼する。
遠からず、また参りましょう。
物事は、どん底まで落ちれば止まる、さもなくば、
元いたところまで、また昇っていくものです。可愛い従妹どの、
祝福がありますように。
マクダフ夫人この子には父親がいて、それでいて父なし子です。
ロスこれ以上おれば、私はよくよくの阿呆——
わが身の恥にも、あなたの気の重さにもなりましょう。
すぐに失礼する。
マクダフ夫人これ、おまえの父様は死んだよ。
さあ、これからどうする。どうやって生きていく。
息子鳥さんと同じにするよ、母様。
マクダフ夫人なんだって、虫や蠅を食べて?
息子手に入るもので、ってこと。鳥さんもそうしてるもの。
マクダフ夫人哀れな小鳥だこと。おまえは網も、鳥もちも、
落とし穴も、罠も、怖がりもしないのだね。
息子どうして怖がるの、母様。哀れな小鳥に、罠なんか仕掛けやしないよ。
父様は死んでない、母様がなんと言っても。
マクダフ夫人いいや、死にました。父親なしで、どうするつもりだえ。
息子それより、母様こそ、夫なしでどうするの。
マクダフ夫人おや、夫なら市場でいつでも二十人は買えますよ。
息子じゃあ、買うのは売り直すためだね。
マクダフ夫人ありったけの知恵でお言いだね。でも、ほんとうに、
おまえには充分すぎる知恵だよ。
息子父様は謀反人だったの、母様。
マクダフ夫人ああ、そうだったとも。
息子謀反人ってなあに。
マクダフ夫人そうだね、誓いを立てておいて、嘘をつく人のことさ。
息子そうする人は、みんな謀反人なの。
マクダフ夫人そうする人はひとり残らず謀反人で、縛り首になるのです。
息子誓って嘘をつく人は、みんな縛り首にならなきゃいけないの。
マクダフ夫人ひとり残らず。
息子誰が縛り首にするの。
マクダフ夫人そりゃ、正直な人たちがさ。
息子じゃあ、嘘つきと誓い屋は馬鹿だね。だって、嘘つきと誓い屋は、正直な人たちをやっつけて、逆さに吊るせるくらい、うんといるんだもの。
マクダフ夫人これはまあ、神様のお助けを、この可愛いお猿さん。
それにしても、父親なしで、どうするのだえ。
息子父様がほんとうに死んでたら、母様は泣くはずだよ。泣かないなら、それこそいい徴——ぼくにすぐ、新しい父様ができるっていう。
マクダフ夫人おしゃべりさんだこと、よく回る口だね。
使者ご無事で、美しい奥方様。私のことはご存じありますまいが、
私のほうは、あなた様の尊いお身分を、よく存じ上げております。
何かの危険が、すぐ間近まで迫っているように思われます。
つまらぬ男の忠告でよろしければ、お聞きください——
ここにいてはなりません。お子様がたを連れて、お逃げなさい。
こうして脅かすだけでも、われながら無体と思いますが、
あなた様にこれ以上のことをするのは、血も涙もない残酷というもの。
その残酷が、すぐそこまで来ているのです。天がお守りくださいますように。
これ以上は、とどまれません。
マクダフ夫人どこへ逃げろというのです。
わたしは何も悪いことをしていない。けれど、思い出しました、
ここは地上の世界——悪事を働くことが、
しばしば褒められ、善いことをするのが、時には
危険な愚行と数えられる場所。それなら、ああ、
なぜわたしは、あんな女子供の言い訳を持ち出すのだろう、
「悪いことは何もしていません」などと。
マクダフ夫人この顔は、誰です。
刺客一亭主はどこだ。
マクダフ夫人おまえのような者に見つかるほど、
罰当たりな場所には、いないはずです。
刺客一あいつは謀反人だ。
息子嘘をつけ、このもじゃもじゃ頭の悪党!
刺客一何を、この卵っころが!
謀反人の稚魚めが!
息子やられたよ、母様。
逃げて、お願いだから!
