フランス王女ねえみんな、帰る前に大金持ちになれそうね、
こんなに贈り物が押し寄せるなら——
ダイヤモンドの城壁に囲まれる女!
見て恋する王様からいただいたものを。
ロザライン姫様、ほかには何もついてきませんでした?
フランス王女これだけですって!もちろん、紙一枚に
詰め込めるだけの恋の詩が、
表にも裏にも、余白いっぱいにまで、
封蝋は仕方なくキューピッドの名の上に。
ロザライン神様を蝋でふくらませるにはいい手ですね、
五千年たってもあの子は子供のままですから。
キャサリンそうね、首をくくりたいほど悪賢いいたずら坊主。
ロザラインあなたとは仲直りできないわね。お姉様を殺したんだから。
キャサリン姉を憂いに沈め、悲しませ、心を重くした。
そして姉は死んだ——あなたみたいに、身が軽ければ、
あんなに陽気で、すばしこく、元気いっぱいなら、
おばあさんになるまで生きられたでしょうに——
あなたもそうなるわ。軽い心は長生きするから。
ロザラインその軽い言葉に、かわいいネズミさん、どんな暗い意味があるの?
キャサリン色黒美人は身持ちが軽いということ。
ロザライン意味を明るみに出すにはもっと灯りが要るわね。
キャサリンむっと鼻を鳴らせば灯りも消える。
だから話は暗闇にしまっておくわ。
ロザラインそうね、あなたのすることは、いつも闇の中。
キャサリンあなたは違うわね、明るく軽い娘だから。
ロザラインあなたを重く見てないから、軽いのよ。
キャサリン重く見てない?ああ、気にもかけないってことね。
ロザライン当然よ。「手の施しようがなければ気のかけようもない」もの。
フランス王女二人ともよい打ち合いね。知恵の試合は上出来。
でもロザライン、あなたにも贈り物があるわね——
誰から?何なの?
ロザラインよくぞ聞いてくださいました——
もし私の顔が姫様ほどきれいだったら、
お恵みも同じくらいでしょうに。これが証拠。
ええ、詩もございます、ビローンに感謝しますわ——
音の数は合ってます。もし、その数える中身も本当なら、
私は地上でいちばん美しい女神です——
二万人の美女を合わせたものにたとえられて。
ああ、手紙の中に私の肖像まで描いてあります!
フランス王女似ているの?
ロザライン文字の黒さはそっくり。褒め言葉はちっとも。
フランス王女インクのように美しい。うまい結論ね。
キャサリン習字帳の飾り文字のビーみたいにきれい。
ロザライン筆にはご用心、おっと!借りは返しておくわね、
暦の赤い祝日さん、金色の飾り文字さん——
ああ、その顔にオーの丸がそんなになければね!
キャサリンその冗談にあばたができればいい!口の悪い女はみな呪われろ。
フランス王女でも、キャサリン、美男のデュメインは何をくれたの?
キャサリン姫様、この手袋を。
フランス王女二つじゃないの?
キャサリンはい、姫様、それに
誠実な恋人の詩が何千行も、
偽りの心を訳した分厚い本ですわ、
へたに編んだ、底抜けのおばかさん。
マライア私にはロンガヴィルからこれとこの真珠——
手紙は半マイルも長すぎます。
フランス王女そうでしょうね。本音ではこう思うでしょう
鎖はもっと長く手紙は短くと?
マライアええ、そうでなければこの両手が二度と離れなくても。
フランス王女私たちって賢い娘ね恋人をこんなに笑って。
ロザライン笑われるためにお金を払うほうがもっと馬鹿です。
あのビローンは帰る前にいじめてやるわ——
せめて一週間は抜け出せないとわかればいいのに!
どんなにすり寄らせて頼ませて追いかけさせて
機会を待たせ頃合いをうかがわせ
有り余る才知を無駄な詩に浪費させ
私の言いつけどおり何でもさせて
からかう私を得意にさせるのが自分の誇りにしてやることか!
あんな生意気坊主は徹底的に手玉に取って
あの人は私の道化私はあの人の運命になるわ。
フランス王女つかまったら、知恵者ほど、逃げられないのよ、
馬鹿に変わった知恵者は——賢さから生まれた愚かさには、
知恵のお墨付きと学問の後ろ盾がついて
才気の輝きまでが学のある馬鹿を飾るもの。
ロザライン若い血でもあんなに燃えないわ
堅物が羽目を外して浮かれ出すほどには。
マライア馬鹿が馬鹿をしてもちっとも目立たない
知恵者が恋ぼけして、馬鹿をするのに比べれば。
知恵をすべて注ぎ込んで
愚かさの値打ちを、知恵で、証明するのですから。
フランス王女ボイエットが来たわ、顔に笑いが浮かんでる。
ボイエットああ、笑いに刺されて腹が痛い!姫様は?
フランス王女何の知らせ、ボイエット?
ボイエットご用意を、姫様、ご用意を!
武装せよ、お嬢さん方、武装せよ!皆様の平和を
破ろうと騎兵が迫ります——恋が変装して近づきます、
理屈で身を固めて。奇襲を受けますぞ——
知恵を集めよ。守りを固めよ。
さもなくば腰抜けのように頭を隠し、逃げることです。
フランス王女聖ドニで迎え撃て聖キューピッドを!誰なの
私たちに息を吹きかけて攻めてくるのは?言いなさい、斥候、さあ。
ボイエット涼しいカエデの木陰で
三十分ほど目を閉じようと思いました。
すると、何と!休もうとする私の邪魔をして、
その木陰へ近づいてくるのが見えたのです
王とお仲間たちが——用心して
そばの茂みにそっと隠れ、
聞き耳を立てて聞いたことをお耳に入れます、
つまり、じきに、変装してここへ来るのです。
先触れはかわいいいたずら小姓、
お使いの口上をすっかり暗記しています——
皆でそこで身振りと口調を教えていました。
「こう言うんだ」と「体はこうするんだ」と——
そのくせしょっちゅう心配になる
威厳ある姫のお姿に気をのまれ台詞を忘れはしないかと。
「なにしろ、」と、王が言います、「お前が会うのは天使だ。
だが恐れず、堂々と話せよ。」
小姓が答えます、「天使なら悪いことはしません。
悪魔なら怖がりますけど。」
すると、皆で笑って肩をたたき、
大胆なわんぱく坊主を褒めてますます大胆にする——
一人は、こう肘をこすって、にやにやしながら誓いました
これほどの名台詞は聞いたことがないと。
もう一人は、人差し指と親指を鳴らして、
叫びました、「よし!やるぞ、何が来ても来い。」
三人目は跳びはねて、叫びました、「何もかもうまくいく。」
四人目はつま先でくるりと回って、そのまま転んだ。
すると、皆が地面を転げ回り、
あまりに熱心に笑うので、あまりに深く、
笑いのさなかにとんだものが現れました、
馬鹿騒ぎをいさめるように悲しみの厳かな涙が。
フランス王女それで、それで、私たちに会いに来るの?
ボイエット来ます、来ます。こんな装いで、
モスクワ人かロシア人でしょう、私の見るところ。
話をして、口説いて踊るつもりで、
一人ずつ恋の武勇を
それぞれの恋人に披露するのです、恋人は
自分の贈った品を目印に見分けるつもりです。
フランス王女そう来るの?では色男たちを困らせてやりましょう。
ねえ、みんな、私たちは全員仮面をつけるのよ。
どれほど頼まれてもあの人たちには、
一人にも、女の顔を見せてやらない。
ほら、ロザライン、あなたはこの贈り物をつけて、
そうすれば王はあなたを恋人と思って口説くわ。
ほら、これを取って、ねえ、あなたのを私にちょうだい、
これでビローンは私をロザラインと思う。
二人も贈り物を交換して。そうすれば恋人たちは
この入れ替えにだまされて、別の相手を口説くわ。
ロザラインさあ、それでは。贈り物をいちばん目立つ所へ。
キャサリンでも取り替えてどうするおつもり?
フランス王女狙いはあの人たちの狙いを外すこと——
あちらは面白半分の戯れでしょう。
からかいにはからかいをそれだけのこと。
胸に秘めたことを間違った
恋人に打ち明けて、笑いものになるのよ
次に私たちが顔を出して、
会い、挨拶を交わす時に。
ロザラインでも誘われたら、踊るのですか?
フランス王女いいえ、死んでも、足一本動かさない。
書き上げてきた口上にも愛想を見せず、
話している間みな顔を背けるの。
ボイエットそりゃ、その冷たさに話し手は心が折れ、
台詞と記憶がきれいに離婚してしまいますよ。
フランス王女だからそうするの。間違いないわ
あの子が出を忘れれば、ほかの人も出てこられない。
遊びを遊びでひっくり返すほど楽しい遊びはない、
あちらの遊びもこちらのものこちらの遊びは独り占め——
私たちはここにいて、あちらの仕掛けた遊びを笑い、
向こうは、たっぷり笑われて、恥をかいて帰るのよ。
ボイエットラッパです——仮面を。仮装の方々のお出ましです。
モス万歳、地上で最も豊かな美しさの方々よ!——
ボイエット豊かなタフタの布より豊かでもない美しさだが。
モスいとも美しい淑女の聖なる一群、
モス人間の目に向けたその——背中——の美しさは世にもまれ!
ビローン(モスに傍白。)目だ、馬鹿、目だ。
モス人間の目に向けたその目の美しさは世にもまれ!——
抜けた——
ボイエットそうだね。まったく抜けてる。
モスそのご好意から、天の精霊たちよ、どうか
見ないでください——
ビローン(モスに傍白。)一度ご覧くださいだ、間抜け。
モス一度ご覧ください日の光のお目で、
——日の光のお目で——
ボイエットその呼び方じゃ答えませんよ。
「姫の光のお目」とでも言ったら。
モス聞いてくださらないから、台詞が抜けるんです。
ビローンこれが完璧に覚えた結果か?消えろ、間抜け!
ロザラインこの外国の方々は何の用?聞いてあげて、ボイエット——
私たちの言葉が話せるなら、
気取らない方にご用件を伺いたいわ——
何をお望みなのか聞いて。
ボイエット姫様にどんなご用です?
ビローンただ平和と親しいご訪問を。
ロザライン何ですって、何が望み?
ボイエットただ平和と親しいご訪問を。
ロザラインまあ、それなら済んだわね。ではお帰りになってと。
ボイエットそれなら、もうお済みですから、お帰りくださってよいそうです。
ナヴァール王お伝えを、何マイルも足で測ってきたのは
この芝で姫と踊りの拍子を測るためと。
ボイエット何マイルも、足で測ってきたのは
この芝で姫と踊りの拍子を測るためだそうです。
ロザライン嘘だわ。一マイルは何インチか
聞いてみて——何マイルも測ったのなら、
一マイル分くらいすぐに言えるでしょう。
ボイエットここまで何マイルも測って来たのなら、
ずいぶんたくさん測ったのなら、一マイルは
何インチかおっしゃってと姫様が。
ビローンお伝えを、疲れた歩みで測ったのです。
ボイエットご自分で聞こえておいでです。
ロザライン疲れた歩みがいくつあれば、
お歩きになった疲れる何マイルものうちの、
一マイルになるのでしょう?
ビローンあなたに捧げるものを数えはしません——
忠誠はこれほど豊かで、限りがないから、
いつまでも帳尻を考えず尽くせます。
どうかお顔の太陽をお見せください、
私たちが、異教徒のように、拝めるように。
ロザライン私の顔は月にすぎません、そのうえ雲がかかっています。
ナヴァール王あの雲のようにできるなら、雲は幸せだ!
輝く月よ、そして、その星々よ、どうか、
雲を払い、涙に濡れた私たちの目を照らしてください。
ロザラインああ無駄なお願い!もっと大きなものを求めて。
今お求めなのは水に映る月の光だけ。
ナヴァール王では、踊りで一度だけ相手を替えていただきたい。
求めよとおっしゃった——この願いなら変でもない。
ロザラインそれでは、音楽を、さあ!いいえ、早くなさって。
ロザラインまだよ!踊らない!月のようにこう変わるの。
ナヴァール王踊らないのですか?どうしてこんなによそよそしく?
ロザライン満月だと思われたようだけど、もう欠けました。
ナヴァール王それでも月は月、私は月の男です。
音楽が鳴っています。どうか少し動いて。
ロザライン耳は動いています。
ナヴァール王ですが足を動かして。
ロザライン旅のお方がたまたまここへいらしたのだから、
つれなくはしません——手を取りましょう。踊りはしません。
ナヴァール王では、何のために手を取るのです?
ロザライン仲よくお別れするためです——
お辞儀を、みんな。これで拍子もおしまい。
ナヴァール王この拍子をもう少し。つれなくなさらず。
ロザラインそのお値段ではこれ以上は無理ですわ。
ナヴァール王値をおつけください——何を払えばご一緒できる?
ロザラインいなくなってくだされば。
ナヴァール王そればかりはできない。
ロザラインなら私たちも売れません——では、さようなら。
仮面には二度、あなたには半分だけ。
ナヴァール王踊っていただけないなら、もっとお話を。
ロザラインでは、二人きりで。
ナヴァール王それが何よりうれしい。
ビローン白い手の姫、一つ甘い言葉を交わしませんか。
フランス王女蜂蜜と、ミルクと、砂糖。これで三つ。
ビローンでは、三の目が二つだ、そうつれなく出るなら、
蜂蜜酒、麦芽汁、甘いワイン——よく転がった、賽の目よ!
甘いものが半ダース。
フランス王女七つ目の甘いものは、さようなら——
いかさまをなさるなら、もう一緒に遊べません。
ビローン内緒で一言。
フランス王女甘くない言葉にして。
ビローン胆汁が煮え立つ。
フランス王女胆汁!苦いわね。
ビローンだからちょうどいい。
デュメイン私と言葉を一つ取り替えていただけますか?
マライアおっしゃって。
デュメイン美しい姫——
マライアそうおっしゃるの?美しい殿方——
それをあなたの美しい姫とお取り替えに。
デュメインよろしければ、
二人きりで同じくらい話したら、お別れします。
キャサリンまあ、その仮面は舌なしで作ったの?
ロンガヴィルそうお尋ねになるわけは、姫、わかります。
キャサリンああそのわけを!早く、おっしゃって。待ち遠しいわ。
ロンガヴィルあなたの仮面には二枚舌がついていて、
口のきけぬ私の仮面に半分分けてくださるのですね。
キャサリンオランダ人のよろしいはヴェール、そう言うわ。ヴェールなら仔牛の肉じゃない?
ロンガヴィル仔牛ですって、美しい姫!
キャサリンいいえ、美しい仔牛の殿方。
ロンガヴィルその言葉を半分ずつに。
キャサリンいいえ、あなたの片割れにはならない——
全部お取りになって、乳離れさせたら。牡牛になるかも。
ロンガヴィルほら、その鋭い冗談でご自分に角を突きつけている!
貞淑な姫まで、亭主に角を生やすのですか?それはご勘弁を。
キャサリンなら仔牛のうちに死になさい、角が生える前に。
ロンガヴィル死ぬ前に二人きりで、一言だけ。
キャサリンでは小さな声で鳴いて。肉屋が聞きつけるから。
ボイエットからかう娘たちの舌はよく切れる
目に見えぬほど薄い剃刀の刃のように、
目にも見えない細い毛を切り、
感覚の感じる先へ届く。そんなに鋭く
あの会話は響く。思いつきには翼がある
矢より、弾より、風より、思いより、さらに速い何物よりも。
ロザラインもう一言もなし、みんな。おしまい、おしまい。
ビローン天にかけて、からかいだけで全員打ちのめされた!
ナヴァール王さらばだ、狂った娘たち。大した知恵もないくせに。
フランス王女さようならを二十回、凍りついたモスクワの知恵者さん。
フランス王女あれが評判の知恵者の一族?
ボイエットろうそくですよ、皆様の甘い息で吹き消された。
ロザライン栄養たっぷりの知恵ね。ぶよぶよ、ぶよぶよ。でぶでぶ、でぶでぶ。
フランス王女ああ貧しい知恵、王者のように貧弱な悪口!
どうかしら、あの人たち、今夜首をつるんじゃない?
それとも今後ずっと、仮面なしでは、顔を出せない?
あの生意気なビローンもすっかり面目をなくしていたわ。
ロザラインああ、みんな見るも無残でした!
王様なんか一言優しい言葉をかけたら泣き出しそうでした。
フランス王女ビローンは誓いすぎて求婚の見込みを失くしたわ。
マライアデュメインは私に仕えると言いました、その剣もともに——
剣の先もこの先も結構、と言ったら、下僕はたちまち黙りました。
キャサリンロンガヴィル卿は、私に心を襲われたと。
何て呼ばれたと思う?
フランス王女吐き気、とか。
キャサリンええ、まさにそのとおり。
フランス王女あっちへお行き、この胸焼け娘!
ロザラインまあ、もっと頭のいい人だって法律どおりの地味な帽子をかぶるもの。
それより聞いて?王様は私の恋人になると誓ったの。
フランス王女口達者なビローンは私に愛を誓ったわ。
キャサリンロンガヴィルは私に仕えるために生まれたんですって。
マライアデュメインは私のもの、木に皮があるのと同じくらい確かよ。
ボイエット姫様、そして美しい皆様、お聞きください——
まもなくあの方々が戻られます
今度は普段のお姿で。あれほど手ひどい辱めを
おとなしく飲み込むはずがありません。
フランス王女戻って来るの?
ボイエット来ます、来ます、神にかけて、
打たれて足を引きずってでも喜び勇んで、跳び上がって——
ですから贈り物を戻してください。そして、お戻りになったら、
この夏の空気に甘い薔薇を咲かせましょう。
フランス王女どう咲かせるの?どう咲かせるの?わかるように話して。
ボイエット仮面の美女は薔薇のつぼみ。
仮面を取れば、紅白溶け合う美しい花、
雲の帳を下ろした天使です、あるいは咲いた薔薇。
フランス王女もうやめて、その謎々!それよりどうしよう、
普段の姿で口説きに戻って来たら?
ロザライン姫様、私にお任せくださるなら、
素顔でも仮装でも同じようにからかいましょう——
さっきここへどんな馬鹿が来たか訴えるんです、
ロシア人に化けてみっともない服を着ていたと。
一体何者なのか、何のために
あんな薄っぺらな出し物と、下手くそな前口上
あんな粗野で笑うに笑えない身のこなしを、
私たちの天幕まで見せに来たのかしらって。
ボイエット皆様、お下がりを——色男たちがそこまで。
フランス王女天幕へひとっ飛び、野を駆ける鹿のように。
ナヴァール王これは、神のご加護を!姫はどちらに?
ボイエット天幕へ戻られました。陛下から
何か姫様へのお言伝はございますか?
ナヴァール王一言お目にかかって申し上げたいと。
ボイエット承知しました。姫様もお応じになるはずです、きっと、陛下。
ビローンあいつは鳩が豆をついばむように機知をついばみ、
神様のお気の向くまま吐き出す——
機知の行商人で、その小売りの場所は
祭りや酒盛り、寄り合い、市場、縁日。
こっちは卸売りなんだが、神様もご存じのとおり、
あんな売り口上の、愛嬌がない。
あの伊達男は娘たちを袖にピンで留めている。
あいつがアダムなら、イヴを誘惑したのはあいつだ。
肉の切り分けもできるし、甘ったるくしゃべれる——そうだ、こいつは
手にキスして挨拶しすぎて手をすり減らした男。
礼儀作法の猿だな、ご丁寧様、
すごろくを振って、駒を進めりゃ、
サイコロさえ敬語で叱る——いや、歌も歌う
中音の腕は中の下。しかも、婦人を案内させたら
右に出る者なし——ご婦人たちは可愛いと呼ぶ。
階段でさえ踏まれるたびにその足へ口づけする——
こいつは誰彼かまわず笑いかける一輪の花、
鯨の骨のように白い歯を見せつけるために。
お世辞の借りを残して死ねない律儀な人は、
お返しにこう呼ぶわけだ、蜜の舌のボイエットと。
ナヴァール王あの甘い舌に水ぶくれができればいい、心からそう願う、
アーマードの小姓に台詞を忘れさせやがって!
ビローンほら戻って来た!礼儀作法よお前は何だった、
この狂人がお前を見せる前は?そして今は何だ?
ナヴァール王ご機嫌麗しく、美しい姫、晴れ晴れとお健やかに!
フランス王女ご機嫌があられ模様では晴れともいきませんね、私の耳には。
ナヴァール王どうかもう少しよい意味に取っていただきたい、できれば。
フランス王女ではもっとよいご挨拶を。やり直しは許します。
ナヴァール王ご機嫌伺いに参りました、この後は
宮廷へお迎えしたい。どうぞお越しを。
フランス王女私は野に留まります。あなたは誓いをお守りに——
神様も、私も、誓いを破る男はお嫌いです。
ナヴァール王あなたが誘うことを私の罪にしないでください——
その目の美徳が誓いを破らせるのです。
フランス王女美徳とは、呼び違え。悪徳と言うべきです。
美徳は人の誠実を破るものではありません。
まだ傷一つない百合のように
清らかな、私の名誉にかけて、誓います、
この世の苦しみを残らず受けても、
あなたの館の客になる気はありません。
それほど嫌なのです私が原因になって
真心から神に立てた誓いを破らせるのは。
ナヴァール王ああ、こんな寂しい場所でお過ごしになって、
人の姿もなく、訪れもなく、こちらの面目が立たない。
フランス王女いいえ、陛下。そんなことはありません、誓って。
ここでも楽しい遊びや余興がありました——
ロシア人が四人つい先ほど帰ったところです。
ナヴァール王何と、姫!ロシア人が!
フランス王女ええ、本当に、陛下。
着こなしも立派で、礼儀も威厳もある殿方たち。
ロザライン姫様、本当のことを。そうではありません、陛下——
姫様は今どきの風習に合わせて、
礼儀上ほめる価値のない人をほめておいでです。
私たち四人を相手に、確かに四人
ロシアの服装で——ここに一時間いて、
しゃべり通しでした。そして、その間その一時間、陛下、
一つとして気の利いた言葉は聞けませんでした。
馬鹿とは申しません。でも思いますに、
喉が渇けば馬鹿だって飲み物くらい欲しがるでしょう。
ビローンその冗談は私には干からびて聞こえる。美しい、優しいお方、
あなたの機知は賢いものまで愚かに見せる——私たちが、
いくらよい目で空の燃える目を見つめても、
光で光を失うように——あなたの才知は
あまりに豊かなのでその前では
知恵も愚かさになり富も貧しさになる。
ロザラインそれではあなたは知恵も富もたっぷりね、私の目には——
ビローン馬鹿で、おまけに一文なしです。
ロザラインそれがご自分のものを取り返したのでなければ、
私の口から言葉を奪うのは失礼ですわ。
ビローンああ、私はあなたのもの、持ち物もすべて!
ロザライン馬鹿まるごと私のもの?
ビローンこれ以上減らしては差し上げられません。
ロザラインどの仮面をかぶってらしたの?
ビローンどこで?いつ?何の仮面?なぜそんなことを?
ロザラインあそこで、さっき、あの仮面を。余計な入れ物でしたね
悪いほうの顔を隠してましなほうを見せていた。
ナヴァール王見抜かれている。今度は堂々と笑いものにされるぞ。
デュメイン認めて冗談にしてしまいましょう。
フランス王女驚かれたの、陛下?なぜそんな悲しそうなお顔を?
ロザライン誰か、額を支えて!気を失うわ!なぜ真っ青なの?
船酔いね、きっと、ロシアからいらして。
ビローンこれが誓いを破った者へ星が降らす災いか。
どんな厚顔の男でもこれ以上持ちこたえられるか?
さあ、ここにいる——ご婦人、その腕で射抜いてくれ。
軽蔑で殴り、嘲笑で打ちのめしてくれ。
鋭い機知で私の無知をひと突きにしてくれ。
冴えた言葉で私を切り刻んでくれ。
もう二度と踊ろうなどと頼まない、
ロシア服でお仕えに来たりもしない。
ああ、もう、用意した台詞にも、
学校小僧の舌の動きにも頼らない、
恋人の前へ仮面で現れたり、
盲目の竪琴弾きよろしく韻を踏んで口説いたりもしない!
薄絹の言い回し、絹糸のこまかな文句、
三重のビロードの大げさな比喩、気取った身振り、
学者くさい言葉のあや。こんな夏の蠅が
見栄という蛆を私いっぱいに産みつけた——
そんなものとは手を切る。そしてここで、誓う、
この、白い手袋にかけて——中の手がどれほど白いかは神のみぞ知る!——
これから恋の心を口にするときは
田舎織りの素朴なはいと毛織りの正直ないいえで通す——
まずは、ねえあんた——神様見ていてくださいよ!——
あんたへの愛はまっとうで、傷もひびもナッシングです。
ロザラインそのナッシングもなしで、お願い。
ビローンまだ昔の病の癖が
抜けなくて——大目に見てくれ、まだ病人だ。
徐々に治す。待て、見てみよう——
あの三人に、神よお助けをと貼り紙を。
感染している。心臓まで来ている。
ペストだ。あなた方の目からもらった病だ。
この殿方は神の罰を受けた。あなた方も無事じゃない、
殿方からもらったしるしが見えるから。
フランス王女いいえ、気前がよかったのはこのしるしをくれた方々よ。
ビローンこちらの財産は差し押さえだ——破滅させないでほしい。
ロザラインおかしいわ。それじゃ、どうしてそんなことになるの、
訴えを起こして求婚する側が差し押さえられるなんて?
ビローンお静かに!あなたとはもう関わらない。
ロザライン関われないわ、私のつもりが変わらなければ。
ビローン後は自分で話してくれ。私の機知は底をついた。
ナヴァール王姫、この無礼な過ちを
どう言い訳すればよいか、教えてほしい。
フランス王女一番の言い訳は告白です。
さっきここへ変装していらしたでしょう?
ナヴァール王姫、来ました。
フランス王女十分考えてなさったの?
ナヴァール王そうです、美しい姫。
フランス王女ではここにいらしたとき、
お相手の耳に何とささやいたの?
ナヴァール王世界の何よりも大切に思うと。
フランス王女その方が誓いを求めたら、お断りになるのね。
ナヴァール王名誉にかけて、そんなことは。
フランス王女まあ、まあ!おやめなさい——
一度誓いを破れば、二度目は平気なもの。
ナヴァール王この誓いを破ったら、私を軽蔑してください。
フランス王女しますとも——だからお守りなさい。ロザライン、
あのロシア人はあなたの耳に何とささやいたの?
ロザライン姫様、自分の大切な目と同じくらい
私がいとしいと誓いました、そして
この世より価値があると。それから付け加えて
私と結婚する、できなければ恋に殉じて死ぬと。
フランス王女どうぞお幸せに!高貴な殿方が
何ともご立派に誓いをお破りになること。
ナヴァール王どういう意味です、姫?命にかけて、誠意にかけて、
この方にそんな誓いはしていない。
ロザライン神にかけて、なさいました。その確かな証しに、
これを、くださった——でもどうぞ、お返しします。
ナヴァール王誓いもこれも姫に捧げた——
袖の宝石で姫だとわかったのだから。
フランス王女失礼ですが、陛下、それをつけていたのは彼女。
ビローン卿が、ありがたくも、私の恋人です。
さあ、私をお取りになる、それとも真珠をお返ししましょうか?
ビローンどちらも結構。二つとも放棄します。
からくりが見えた——ここで申し合わせがあった、
こっちの余興を先回りして、
クリスマス芝居のようにぶち壊そうと——
どこぞのおしゃべり、おべっか使い、安っぽい道化、
ニュースのぼそぼそ屋、食卓の騎士、ありふれたお調子者、
笑いじわで頬を老けさせるやつで、姫の気分さえ向けば
どう笑わせるかを心得ているやつ、
そいつが先に計画をしゃべった。ばれたと知れば、
ご婦人たちは贈り物を交換する——するとこっちは、
目印を追って本人ではなくその看板を口説いた。
これで、もうひどかった誓い破りがもっとひどくなり、
故意に、そして間違ってまた誓いを破った。
おおむねこうだろう——(ボイエットに。)あなたが、先に手を回して
余興を潰し、我々を不実者にしたんじゃないか?
あなたなら、姫の足の寸法も定規できっちりご存じで、
その目の合図一つで笑うんだろう?
姫の背中と暖炉の間に立って、おい、
皿を持ちながら陽気に冗談を言うんだろう?
小姓の台詞を飛ばしたな——行けよ、お墨付きの道化め。
いつ死のうと、経帷子は女の肌着だ。
その流し目は何だ、え?そんな目では
鉛の剣ほども傷はつかない。
ボイエットいや、まことに見事な馬さばき、
何とも楽しい一騎打ちでした。
ビローンほら、早速槍を構える!静かに!私はもう終わりだ。
ビローンようこそ、純粋な機知よ!見事に喧嘩を仲裁してくれた。
コスタードああ旦那、皆さんがお聞きしてます、
三勇士は入っていいのかまだなのか。
ビローン何だ、三人だけか?
コスタードいえ、旦那。そこが実にご立派で、
一人ずつが三人ずつを御披露目するんです。
ビローン三人の三倍なら九人だ。
コスタード違います、旦那。お言葉を返すようですが、旦那。そうじゃないはずです。
俺たちを馬鹿扱いして財産を横取りなんかできませんよ、旦那、断言します、旦那。わかることはわかってるんだ——
たぶん、旦那、三つの三倍は、旦那——
ビローン九つじゃない。
コスタードお言葉ですが、旦那、合計がどこへ達着するかくらいわかってます。
ビローン神にかけて、私は三三が九だと思っていたが。
コスタードいやはや、旦那、計算で食ってこうなんてお気を起こしちゃ気の毒だ、旦那。
ビローンいくつになるんだ?
コスタードそりゃあ、旦那、ご本人たちが、役者たちが、旦那、合計がどこへ達着するか見せますよ——俺の受け持ちは、俺みたいな哀れな一人で、何と言いますか、一人だけを完壁にやるんです、カボチャ大王、旦那。
ビローンお前も勇士の一人なのか?
コスタードカボチャ大王にふさわしいと皆さんが見込んでくれまして——俺自身は、その勇士がどれほど偉いかは知りませんが、代わりに立つことになったんです。
ビローン行って、支度をするよう伝えろ。
コスタード見事にやってのけますよ、旦那。少しばかり気をつけてね。
ナヴァール王ビローン、恥をかかされるぞ——近づけるな。
ビローンもう恥なら打たれ強いです、陛下——それに王とお供の芝居より
ひどい見世物があったほうが何かと都合がよいでしょう。
ナヴァール王来させないと言っている。
フランス王女いいえ、陛下、今度は私にお譲りを——
やり方を知らないほど、余興は楽しいものです——
喜ばせようと熱を上げてその熱の中で
肝心の中身が息絶えてしまう——
形が崩れるほど笑いの形は整う、
大作が難産の末に生まれそこねるときには。
ビローン我々の余興そのものです、陛下。
アーマード聖油を受けたるお方よ、二言ばかり発するためにその王者の甘い息を少々お費やしくださいますようお願い申し上げる。
フランス王女この方は神様に仕えているの?
ビローンなぜです?
フランス王女神様がお作りになった人間の話し方ではないから。
アーマードそれは同じことにございます、美しく優しく、蜜なる我が君。と申しますのも、断言いたしますが、あの教師は、とんでもなく奇抜でして。あまりに虚栄的、あまりに虚栄的——ですがいわゆる、戦の運命、に委ねましょう。心の平安を祈ります、いと高き王家のお二人よ!
ナヴァール王これは立派な勇士たちが出そろいそうだ。あいつが、トロイのヘクトルを演じる。田舎者が、ポンペイウス大王。教区の副牧師が、アレクサンドロス。アーマードの小姓が、ヘラクレス。教師が、ユダ・マカバイ——
この四勇士が初めの出し物でうまくいけば、
四人が着替えて残りの五人を演じる。
ビローン最初の出し物は五人いますが。
ナヴァール王勘違いだ。そうではない。
ビローン教師、ほら吹き、へぼ牧師、馬鹿と小僧——
九を狙うサイコロ遊びの五の目は、別として——世界中を探しても
あんな五人は揃いませんよ、それぞれ得意の道では。
ナヴァール王船が帆を上げた、ほら勢いよくこっちへ来る。
コスタード我こそポンペイウス——
ボイエット嘘をつけ、お前ではない。
コスタード我こそポンペイウス——
ボイエット膝には豹の顔がある。
ビローンうまいぞ、年季の入ったからかい屋——これは仲直りしなければ。
コスタード我ポンペイウス、またの名をでかポンペイウス——
デュメイン大王だ。
コスタードはい、大王、旦那——
我、ポンペイウス大王。
戦場で、大小の盾、敵にかかせる冷や汗よ——
この岸辺、旅の途中にたまたまの、
フランスの姫その足もとへ、武器を置く、
ありがとう、ポンペイウスとおっしゃってくだされば、これでおしまいです。
フランス王女大きにありがとう、大ポンペイウス。
コスタードそこまでのことは。でも完璧にできたと思います——大王のところでちょっと間違えました。
ビローン半ペニーに私の帽子を賭けよう、勇士の中ではポンペイウスが一番だ。
ナサニエル世に生きし日々、世の支配者よ。
東、西、北、南まで、征服の手を広げたり——
この紋章が告げる名はアレクサンドロス——
ボイエット鼻が違うと、言ってるぞ、ああ、まっすぐすぎる。
ビローンそりゃ鼻がよく利くね、鼻の繊細な騎士殿。
フランス王女征服者がお困りよ。どうぞ続きを、アレクサンドロス。
ナサニエル世に生きし日々、世の支配者よ——
ボイエットまことにそのとおり、そのとおり。そうだったな、アレクサンドロス。
ビローンポンペイウス大王——
コスタードへいお仕えします、コスタードでもあります。
ビローン征服者を連れていけ、アレクサンドロスを連れていけ。
コスタード(ナサニエルに。)ああ、旦那、征服者アレクサンドロスを打ち倒しちまったな!これじゃ絵入りの壁布から削り落とされるぞ——おまるに腰かけて斧を持ったあんたの獅子は、便所のエイジャックスに譲ることになる——そいつが九人目の勇士だ。征服者が、口を開くのも怖いのか!恥を知って逃げちまえ、アレクサンドロス。
コスタードはい、ご覧のとおりでして。ちょっととろくておとなしい男。正直者でしてね、ほら、すぐあがっちまう。本当に気のいい隣人なんです、ええ、球転がしも大変うまい——ただ、アレクサンドロスをやるには、——まあ、ご覧のとおり——ちょっと役が大きすぎた。でも後から来る勇士たちは別の調子で思い切りしゃべりますよ。
フランス王女脇へお寄りなさい、ポンペイウス。
ホロファニーズこの子演じるヘラクレス、
棍棒で討つ三つ首の犬なるケルベロス。
まだ赤ん坊、幼子で、小さきころから、
この手にかけて蛇を絞めたり。
なぜならばまだ未成年に見ゆるゆえ、
したがってかく弁明に及ぶなり。
退場には、威厳を保ち、消えなさい。
ホロファニーズ我こそユダ——
デュメインユダだと!
ホロファニーズイスカリオテではありません、閣下。
我ユダなり、マカバイとぞ呼ばれける。
デュメインユダ・マカバイを刈り込めばただのユダだ。
ビローン接吻の裏切り者だ。どうやってユダだと証明する?
ホロファニーズ我こそユダ——
デュメインいよいよ恥ずかしいな、ユダ。
ホロファニーズどういうおつもりです、閣下?
ボイエットユダに首をくくらせるつもりだ。
ホロファニーズではお先に、閣下。あなたが年の長者です。
ビローンうまくつながった——ユダが首を吊った木も長老と呼ぶニワトコだ。
ホロファニーズ私の顔は潰せませんぞ。
ビローン潰せる顔がないからな。
ホロファニーズこれは何です?
ボイエットシターの先の飾り頭。
デュメイン針の頭。
ビローン指輪の髑髏。
ロンガヴィル古代ローマの古銭の顔、すり減って見えない。
ボイエットシーザーの刀の柄頭。
デュメイン火薬入れの骨に彫った顔。
ビローンブローチに彫った聖ジョージの半面。
デュメインそう、しかも鉛のブローチだ。
ビローンそう、歯抜き屋の帽子につけるやつ。
さあ続きを。顔を立ててやったんだから。
ホロファニーズ顔を潰されたのです。
ビローン嘘だ。いくつも顔をやったぞ。
ホロファニーズどの顔もあなた方の厚い面にはかないません。
ビローンお前が獅子でも、にらみ倒してやる。
ボイエットだから、こいつはロバだし、放してやろう。
じゃあさらば、可愛いユダ君!おい、なぜ残る?
デュメイン名前の尻を待っている。
ビローンユダの尻にロバのアスを、ほら、くっつけろ——ユダースのロバめ、消えろ!
ホロファニーズこれは高貴でもなく、礼儀正しくもなく、謙虚でもありません。
ボイエットユダ殿に明かりを!暗くなった、つまずかないように。
フランス王女ああ、かわいそうなマカバイ、ひどいなぶられよう!
ビローン頭を隠せ、アキレス——武装したヘクトルが来る。
デュメインからかいが自分にはね返って来ても、今は楽しませてもらおう。
ナヴァール王こいつに比べればヘクトルもただのトロイのごろつきだ。
ボイエットだがこれがヘクトルですか?
ナヴァール王ヘクトルの骨組みはこうすっきりしてはいなかったと思うが。
ロンガヴィルヘクトルにしては脚が太すぎます。
デュメインふくらはぎというより仔牛がいる、確かに。
ボイエットいや。いちばん立派なのは細いところだ。
ビローンこれがヘクトルのはずはない。
デュメイン神か絵描きだ。あんなに顔を作るんだから。
アーマード武勇の神マルス、槍にかけては全能の、
ヘクトルに贈り物を授けたり——
デュメイン金箔を貼ったナツメグだ。
ビローンレモンだ。
ロンガヴィル丁子を刺した。
デュメインいや、丁々発止に割ったやつ。
アーマード静粛に!——
武勇の神マルス、槍にかけては全能の、
ヘクトルに授けたり、イリオンの世継ぎへ。
息も長くて、戦となれば、そう
朝から晩まで、天幕を出ずっぱり。
我こそその花——
デュメインそのハッカ。
ロンガヴィルそのオダマキ。
アーマード優しきロンガヴィル卿、舌の手綱を引かれよ。
ロンガヴィルむしろ緩めねば、ヘクトル相手に走るんだから。
デュメインそう、ヘクトルは猟犬だ。
アーマード優しき武人は死して朽ちた。愛しい小鳩どもよ、埋められた骨を叩くな——息あるときは、一人前の男だった。だが我が趣向を進めよう。(フランス王女に。)優しき王家の姫よ、聴覚を我に授けたまえ。
フランス王女お話しなさい、勇敢なヘクトル——十分楽しんでいます。
アーマードその優しき殿下の上履きを崇拝いたします。
ボイエット(デュメインに傍白。)足一本ずつ愛するらしい——
デュメイン(ボイエットに傍白。)三尺の棒では愛せまい。
アーマードこのヘクトルはハンニバルをはるかにしのぎ——
コスタードあの娘はもうそうなったぞ、ヘクトル君、そうなっちまった。もう二か月の道のりだ。
アーマード何のことだ?
コスタードいや、誠実なトロイ男として責任を取らないと、あのかわいそうな娘は身の破滅だ——腹で動いてる。子供がもう腹の中でほらを吹いてるぞ——お前の子だ。
アーマード権力者の御前で我を名誉毀損化するのか?死んでもらうぞ。
コスタードじゃあヘクトルは子をはらませたジャケネッタのために鞭打ちになって殺したポンペイウスのために絞首刑だ。
デュメイン天下無双のポンペイウス!
ボイエット名高きポンペイウス!
ビローン大の上行く大、大、大、大ポンペイウス!巨大ポンペイウス!
デュメインヘクトルが震えている。
ビローンポンペイウスが怒った。争いの女神もっと来い、もっと来い!けしかけろ!けしかけろ!
デュメインヘクトルが決闘を申し込むぞ。
ビローンああ、腹に蚤一匹の夕飯ほどの男の血でもあればな。
アーマード北の極にかけて、お前に決闘を申し込む。
コスタード北の棒だか何だか知らないが、北国の連中みたいな棒では戦わねえ——切り合いだ。剣でやる。お願い申し上げ奉る、さっきの武器を返してくれ。
デュメイン怒りに燃える勇士たちに場所を空けろ!
コスタードシャツ一枚でやってやる。
デュメイン何たる決意のポンペイウス!
モス旦那様、ボタン穴を一つ下げて鼻っ柱も低くしましょう。ポンペイウスが戦うために脱いでるのが見えませんか?どうするおつもり?評判を落としますよ。
アーマード紳士ならびに兵士の諸君、お許しいただきたい。我はシャツ一枚で戦うつもりはない。
デュメイン断ってはならない——ポンペイウスが挑戦したのだ。
アーマード優しき血気の諸君、断ることはできるし断るつもりだ。
ビローン何の理由がある?
アーマード裸の真実を申せば、シャツを持っていない。罪を償うため肌にじかに毛織りを着ているのだ。
ボイエットそのとおり、ローマで麻布がないばかりにそう命じられた——それ以来、誓ってもいいが、ジャケネッタの皿拭き以外に着たことがない、それも恋のしるしとして心臓のすぐそばに着ている。
マーケイド神のご加護を、姫様!
フランス王女よく来ました、マーケイド。
ただ私たちの楽しみに水を差すのね。
マーケイド申し訳ありません、姫様。お届けする知らせが
舌に重くのしかかります。お父上の王が——
フランス王女亡くなったの、きっと!
マーケイドはい。申し上げることはそれだけです。
ビローン勇士たち、下がれ!舞台に雲がかかってきた。
アーマード我としては、自由人として息をしている。思慮の小穴から今日の侮辱を見届けた、軍人らしく己の名誉を取り戻そう。
ナヴァール王陛下ご気分はいかがです?
フランス王女ボイエット、支度を。今夜発ちます。
ナヴァール王姫、どうか。お願いです、とどまってください。
フランス王女支度を、と言いました。ありがとうございます、心優しい皆様、
いろいろとお気遣いいただきました。今悲しみに沈んだばかりの心から、
お願い申し上げます、皆様のお知恵の深さで
私たちの遠慮のないはしゃぎぶりをお許しになるか
お忘れくださいますよう、
もし言葉を交わす中で大胆が過ぎたのなら
それは皆様の優しさが——
そうさせたのです。ごきげんよう、立派なお方!
重い心では舌も軽やかに動きません——
大切な願いを快くお聞き届けくださったのに、
十分なお礼を申し上げられないことをお許しください。
ナヴァール王時間は終わりが迫るほど、すべての事を
その速さに合わせて、激しく動かし
長い年月をかけても決められなかったことを
最後の一瞬で決めることがある——
娘としての喪の悲しみが
恋の笑顔を拒み
その聖なる願いの成就を許さないとしても、
恋の話はすでに始まっていたのだから、
どうか悲しみの雲にその望みを
押しのけさせないでほしい。失った親しい者を嘆くよりも、
新たに得た親しい者を喜ぶほうが
はるかに心のためになるのだから。
フランス王女おっしゃることがわかりません——悲しみが倍になりました。
ビローン悲しみの耳に届くのは飾りのない正直な言葉です。
その言葉で王の心をお伝えします。
あなた方ゆえに我々は時間を顧みず、
誓いに不正を働いた——皆様、あなた方の美しさが、
我々をひどく不格好にしました、その気持ちを、
もともとの志とまるで逆へ曲げて——
我々の振る舞いの中でおかしく見えたものは——
恋とはそもそも不釣り合いな調子のもの、
子供のように気ままで、跳ね回って浮ついていて、
目から生まれるから目と同じように、
奇妙な姿、習慣、形をいっぱいに宿し、
目がくるくる動いて違うものを見るたびに
その中身もくるくる変わるものです——
そんな軽はずみな恋の道化服を
我々が着たことが、あなた方の天のような目には、
誓いや真面目さに似つかわしくなかったとしても、
その落ち度を見抜く天の目こそが、
我々をそそのかしたのです。ですから、皆様、
我々の恋があなた方のものである以上、その恋の過ちも
あなた方のものです——我々は自分を裏切る、
一度だけ不実になることで、永遠に誠実になるために
その両方を生ませた相手——美しいあなた方に——
こうして、それ自体は罪である裏切りも、
己を清めて、恵みに変わるのです。
フランス王女愛のこもったお手紙はいただきました。
愛の使者である贈り物も。
でも、私たち女同士で話し合って、あれは
宮廷の作法、楽しい冗談やご挨拶、
時間の隙間を埋める綿や裏地だと受け取りました——
それ以上、真剣に考えたことは
ありません。ですからそのお言葉に
同じ調子で、お遊びとしてお返ししたのです。
デュメイン手紙には、姫、冗談以上のことをたっぷり書きました。
ロンガヴィルまなざしにも込めました。
ロザラインそうは読み取りませんでした。
ナヴァール王今、この最後の一分に、
あなた方の愛をください。
フランス王女永遠に続く約束を結ぶには
あまりに短い時間ではないでしょうか。
いいえ、いいえ、陛下、あなたは何度も誓いを破り、
重い罪を抱えていらっしゃる。ですからこうしましょう——
私への愛のために、そのような理由はないはずですが、
何かするおつもりなら、これを、してください——
誓いの言葉は信じません。すぐに
この世の楽しみから、遠く離れた、
侘しく何もない庵へお行きなさい。
そこで天の十二の星座が
一年を数え終えるまで、お過ごしなさい。
その厳しく人付き合いのない暮らしが
血の熱さに任せた申し出を変えないなら。
霜や断食、粗末な寝床や薄い着物にも
その恋の派手な花がしぼまず、
試練に耐えてなお愛であり続けるなら。
そのとき、一年が終わったときに、
私を求めにいらっしゃい、その実績をもって。
今あなたの手に口づけするこの乙女の手に、
誓ってあなたのものになります。それまで
私は悲しむ身を喪の家に閉ざし、
父の死を思って
嘆きの涙を雨と流します。
お断りになるなら、この手を離しましょう、
互いの心に何の権利も持たずに。
ナヴァール王これほどのことを、これ以上のことさえ、拒んで、
自分の体を安楽で甘やかそうとするなら、
死の手がたちまち私の目を閉じるがいい!
今から心は永遠にあなたの胸にある。
ビローン私には何を、いとしい人?私には何を?
ロザラインあなたにも浄化が必要、だって、罪が積もりすぎたわ、
過ちと誓い破りの有罪判決です——
ですから私に好かれたいのなら、
一年間休むことなく、
病に疲れた人々の床を訪ねること。
デュメインでも私には何を、いとしい人?私には何を?
妻を?
キャサリンお髭を、健康を、誠実さを。
三倍の愛を込めてその三つをお祈りします。
デュメインああ、ありがとう、優しい妻よ、と言ってもいい?
キャサリンだめです、殿。一年と一日は
髭のない求婚者の言葉など聞きません——
王様が姫様のもとを訪れるときにいらっしゃい。
そのとき、愛がたくさんあれば、少し分けてあげます。
デュメインそれまで真心を込めて忠実にお仕えする。
キャサリン誓ってはいけません、また誓い破りにならないように。
ロンガヴィルマライアは何とおっしゃる?
マライア一年が終わったら
黒い喪服を脱いで誠実な恋人を迎えます。
ロンガヴィル辛抱強く待とう。でも長いな。
マライアあなたそっくりね。そんなに若くて長い人はめったにいないわ。
ビローンお考え中ですか?いとしい人、こちらを見てください。
心の窓である、私の目を見て、
どれほど慎ましい願いがお返事を待っているか——
あなたの愛のために何か仕事をお命じください。
ロザラインビローン卿、あなたの評判は、
お会いする前からよく聞いていました。世間の大きな舌は
あなたはからかいがいっぱいの男、
人を傷つけるたとえや嘲りにあふれ、
その機知の手にかかる相手なら、
どんな身分の人にも浴びせかけると言います。
その豊かな頭から苦い草を抜き、
同時に私を得たいのなら、
それなしには私を得られませんが、
この一年間毎日
言葉も出ない病人を訪ね
うめく哀れな人々と話し続けてください。そしてあなたの務めは、
機知の力を残らず振り絞って
苦しみに動けない人を笑顔にすること。
ビローン死の喉に笑い声を起こせと?
できるはずがない。不可能だ——
苦痛にあえぐ魂を冗談では動かせない。
ロザラインだからこそ、嘲る心の息の根を止められるの、
その力の源は
浅はかに笑う聞き手が道化に与える気安い喝采なのだから——
冗談が成功するかどうかは聞く人の耳にある、
言う人の舌に
あるのではありません——ですから、病人の耳が、
自分の苦しいうめきにかき消されながらも、
あなたのくだらない皮肉を聞いてくれるなら、続けなさい、
その欠点ごとあなたをいただきます。
でも聞いてくれないなら、その心を捨てなさい、
その欠点がなくなったあなたに会って、
私は心から立ち直りを喜びます。
ビローン一年か!よし。どうなろうとも、
病院で一年冗談を言い続ける。
フランス王女(ナヴァール王に。)ええ、優しい陛下。それではお別れです。
ナヴァール王いいえ、姫。途中までお送りする。
ビローン我々の恋は昔の芝居のようには終わらない。
男は女を得られない——ご婦人たちが気を利かせてくれれば
我々の遊びも喜劇にできただろうに。
ナヴァール王まあ、君、一年と一日足りないだけだ、
そうすれば終わる。
ビローン芝居にしては長すぎる。
アーマード優しき陛下、どうか私に——
フランス王女あれはヘクトルではなかった?
デュメイントロイの立派な騎士です。
アーマード王家のお指に口づけして、お別れを申し上げたい。私は誓願を立てました。愛しいジャケネッタのために三年のあいだ鋤を握ると誓いました。ですが、いとも尊いお方、あの二人の学者がフクロウとカッコウをたたえて作った掛け合いをお聞きになりますか?我々の出し物の最後に続くはずだったものです。
ナヴァール王すぐに呼んでくれ。聞こう。
アーマードおい!こちらへ。
アーマードこちらがヒエムス、冬、こちらがウェル、春。片方の味方はフクロウ、もう片方はカッコウ。春よ、始めよ。
春ひなぎくまだら青すみれ
白銀まといたねつけばな
きんぽうげには黄色咲き
野原を染める喜びに
カッコウ木々で歌い出す
亭主を笑い声を張る
カッコウ
カッコウカッコウ寝取られた
亭主の耳に怖い声
麦藁の笛鳴るころに
ひばりは歌い時告げる
農夫の時計空に鳴る
鳩もカラスも交わって
ミヤマもコクマルもつがう
娘は夏の肌着干す
カッコウ木々で歌い出す
亭主を笑い声を張る
カッコウ
カッコウカッコウ寝取られた
亭主の耳に怖い声
冬つららが壁に垂れるころ
羊飼いディック手を吹いて
トムは広間に薪運ぶ
乳は手桶で凍りつく
血まで凍えて道ぬかる
フクロウ夜ごと目を見張る
ホーイ
ホーホー明るい声がする
脂まみれのジョーンがひとり
鍋を冷ますよ掻き回し
牧師の言葉咳が消す
鳥は雪中うずくまる
マリアンの鼻赤く剥け
小リンゴ焼けて椀で鳴る
フクロウ夜ごと目を見張る
ホーイ
ホーホー明るい声がする
脂まみれのジョーンがひとり
鍋を冷ますよ掻き回し
アーマードアポロンの歌の後では伝令の神の言葉は耳に刺さる。あなた方はあちらへ——我々はこちらへ。
