ケントここでございます、わが君。さあ、どうか、お入りください。
吹きさらしの夜の暴虐は、あまりに荒々しく、
生身の体では持ちこたえられません。
リア王放っておいてくれ。
ケントわが君、どうか、ここへお入りを。
リア王わしの心臓を裂く気か。
ケント裂くなら、わたくし自身の心臓を裂きたいものです。わが君、お入りください。
リア王おまえには、この喧嘩腰の嵐が肌まで攻め込んでくるのが、
一大事に思えるのだろう。おまえにとっては、そうだろうさ。
だが、もっと大きな病が根を張っている場所では、
小さいほうは、ろくに感じもせんのだ。おまえだって熊からは逃げよう。
だが、逃げ道の先が荒れ狂う海だったら、
熊の口に真っ向から立ち向かうはずだ。心が安らかなときにこそ、
体はか弱いもの。わしの心の中の嵐が、
わしの五感から、あらゆる感覚を奪い取ってしまった——
ここで脈打つもののほかはな。子の恩知らず!
それは、この口が、この手を食いちぎるようなものではないか、
食べ物を運んでくれる、この手を。だが、きっちり罰してやる。
いや、もう泣かんぞ。こんな夜に、
わしを閉め出すとは! 降れ、降れ。堪えてやるわ。
このような夜にだ! おお、リーガン、ゴネリル!
気前よく、すべてをくれてやった、おまえたちの老いた優しい父を——
おお、そちらへ行けば、狂気が待っている。それは避けねば。
その話は、もうやめだ。
ケントわが君、どうか、ここへお入りを。
リア王頼むから、おまえが入れ。おまえこそ楽になれ。
この嵐は、考える暇を与えんでいてくれる、
考えれば、もっと痛むはずのことをな。だが、入るとしよう。
リア王入れ、坊主。おまえが先だ。——家なき困窮よ——
いいから、入っていろ。わしは祈ってから、眠るとしよう。
リア王哀れな、裸の惨めな者たちよ、どこにいようとも、
この情け容赦ない嵐の吹きたたきに耐えている者たちよ、
屋根のない頭と、飢えた脇腹と、
穴だらけ、窓だらけのぼろ切れ一枚で、
このような季節から、どうやって身を守るというのだ。おお、わしは、
このことを、あまりに気にかけずに来た。良い薬だ、栄華よ——
おのれの身を、惨めな者たちの感じるもののただ中へさらしてみろ。
そうすれば、あり余る分を彼らへ振り落として、
天が、もう少し公正なところを見せられるというものだ。
エドガー(奥で。)一尋半、一尋半だ! 哀れなトム!
道化入っちゃだめだよ、おじさん、中にお化けがいる。助けて、助けて!
ケント手を貸せ。——誰かいるのか。
道化お化けだよ、お化け。哀れなトムって名前なんだって。
ケント何者だ、その藁の中でぶつぶつ言っておるのは。出て来い。
エドガーあっちへ行け! 汚れた悪鬼が俺を追ってくる!
尖った山査子を、冷たい風が吹き抜ける。
ふん! 冷たい寝床へ行って、温まるがいい。
リア王おまえも、ふたりの娘にすべてをやってしまったのか。
それで、このありさまになったのか。
エドガー哀れなトムに、何か恵んでくれる人はいないかね。汚れた悪鬼に引き回されたんだ——火の中、炎の中、浅瀬の中、渦巻きの中、沼と泥地を越えてね。悪鬼のやつ、枕の下に短刀を並べ、教会の席には首吊り縄を置き、粥のそばには鼠取りの毒を据えやがった。心を高慢にさせて、栗毛の早足馬に乗り、四寸の幅しかない橋を渡らせ、おのれの影を裏切り者と呼んで追い回させたんだ。あんたの五感に祝福あれ。トムは寒いよ——おお、ど、ど、ど、ど。竜巻と、星の祟りと、悪鬼の取り憑きから、あんたをお守りくださるように! 哀れなトムに、お恵みを。汚れた悪鬼がトムをいじめるんだ。今なら、ほら、あそこに捕まえられるのに——あそこにも——ほら、またあそこ——あそこにも。
リア王何と、娘たちのせいで、この身の上になったのか。
何も取っておけなかったのか。みんな、くれてやったのか。
道化いいや、毛布だけは取っておいたよ。でなきゃ、こっちが目のやり場に困ったもの。
リア王今、垂れ込める大気の中で、人間の罪の上に
定められて吊るされている疫病という疫病が、おまえの娘たちに落ちるがいい!
ケントこの男には、娘はおりません、陛下。
リア王死ね、裏切り者め! 人の身をこれほど低くまで
たたき伏せられるものは、薄情な娘たちのほかにあるものか。
これが流行りなのか——捨てられた父親たちが、
おのれの肉体を、これほど情け容赦なく扱うのが。
的確な刑罰よ! この肉こそが、
あのペリカン娘たちを生み出したのだからな。
エドガーピリコックが、ピリコック山にお座りだ。ハロー、ハロー、ルー、ルー!
道化この寒い夜は、おいらたちみんなを阿呆と狂人に変えちまうね。
エドガー汚れた悪鬼に気をつけろ。親には従え。約束はきっちり守れ。誓うな。人の女房と乳繰り合うな。恋人を派手な衣装で着飾らせるな。トムは寒いよ。
リア王おまえは、何者だったのだ。
エドガーお仕えの身分さ、心も頭も高慢ちきでね。髪を巻き毛にし、帽子には恋人の手袋を飾り、女主人の心の欲に奉公して、闇の営みをやってのけた。口を開けば誓いの言葉、その数だけ、天の甘い顔の前で誓いを破った。眠るときは色欲の企みを抱いて眠り、目覚めればそれを実行する男。酒は深く愛し、賽子は熱く愛し、女にかけてはトルコの殿様より多くを囲った。心は偽り、耳は軽く、手は血まみれ。怠けは豚、盗みは狐、貪りは狼、狂気は犬、獲物にかかっては獅子ときた。靴のきしみや絹の衣ずれごときに、哀れな心を女へ売り渡すな。足は女郎屋から、手はスカートの切れ込みから、ペンは金貸しの帳面から遠ざけて、汚れた悪鬼に立ち向かえ。それでも尖った山査子を、冷たい風が吹き抜ける。スーム、ムン、ヘイ、ノー、ノニー、と鳴っていやがる。ドルフィンや、わが息子よ、どうどう! やり過ごしておやり。
リア王いっそ墓の中にいるほうがましだろう、覆いもない体で、この空の猛威に立ち向かうくらいなら。人間とは、これだけのものにすぎんのか。この男を、とくと見ろ。おまえは蚕に絹を借りてもいなければ、獣に皮も、羊に毛も、麝香猫に香りも借りてはおらん。は! ここにいる三人は、混ぜ物入りだ。おまえこそ、物そのものよ。持ち物なしの人間とは、まさしくおまえのような、哀れな、裸の、二叉の獣にすぎんのだ。脱げ、脱げ、この借り物ども! さあ、ここのボタンを外してくれ。
道化お願いだよ、おじさん、落ち着いておくれ。今夜は泳ぐにはたちの悪い晩だ。今どき、荒れ野の小さな火なんて、年寄りの女たらしの心臓みたいなもの——ちっぽけな火花がひとつで、体の残りは冷えきってる。ほら、歩く火の玉のお出ましだ。
エドガーこいつは汚れた悪鬼のフリバティジベットだ。晩鐘に始まって、一番鶏まで歩き回る。目に白翳と星をくれ、目をやぶにらみにし、兎口をこしらえる。白い小麦に黴を生やし、地上の哀れな生き物をいたぶる悪鬼よ。
聖ウィゾルド様が、野原を三度お回りだ。
夢魔と、その九匹の子に出くわして、
馬から降りろとお命じだ、
二度と悪さをせぬと誓わせた。
それ、失せろ、魔女め、失せろ!
ケントご気分はいかがでございます、陛下。
リア王あの男は、何者だ。
ケントそこにいるのは誰だ。何を探しておられる。
グロスターそちらこそ、何者だ。名を名乗られよ。
エドガー哀れなトムさ。泳ぐ蛙を食い、蟇を食い、おたまじゃくしを、壁とかげを、井守を食う男。心が猛って、汚れた悪鬼が暴れるときには、牛の糞をサラダ代わりに食い、古鼠と、どぶに捨てられた犬の死骸を呑み込み、よどんだ池の緑の膜をすすって飲む。教区から教区へと鞭で追われ、足枷をはめられ、牢に入れられた男。かつては背中に上着を三枚、体にシャツを六枚持ち、乗る馬と、提げる得物もあった身だが——
この七年の長いあいだ、トムの食い物ときたら、
二十日鼠に、どぶ鼠、そんなちっぽけな獲物ばかり。
俺の連れに気をつけろ。静まれ、スマルキン! 静まれ、この悪鬼め!
グロスター何と、陛下、これよりましなお連れは、おられないのですか。
エドガー闇の王子は、れっきとした殿方だぜ。モドーと呼ばれ、マフーとも呼ばれる。
グロスターわが血と肉は、ここまで下劣になり果てました、陛下——
おのれを生んだ親を、憎むほどに。
エドガー哀れなトムは寒いよ。
グロスターご一緒に参りましょう。わたくしの忠義は、
御息女がたの無情なご命令に、何もかも従うことを承知しません。
戸を閉ざして、この横暴な夜に
陛下を委ねよとの言いつけではございますが、
それでも、危険を冒して探しに参りました。
火と食事の支度のある場所へ、ご案内いたします。
リア王まず、この哲学者どのと話をさせてくれ。
——雷の原因は、何かね。
ケントわが君、あの方のお申し出をお受けください。家へお入りを。
リア王このテーベの学者先生と、ひと言、話をするのだ。
——ご専門は、何かな。
エドガー悪鬼を出し抜く算段と、虫けらの退治法さ。
リア王折り入って、ひと言だけ尋ねたい。
ケントもう一度、行くように勧めてくだされ、グロスター様。
お心が、乱れはじめておられる。
グロスター責められようか。
グロスター娘たちが、命を狙っておるのだ。ああ、あの良きケント!
こうなると言っておったのだ、あの哀れな追放の身が。
王が狂いはじめたと言われるが、実を言えばな、あんた、
わし自身も気が狂れかけておる。わしには息子がひとりあったのだが、
今は勘当して、血筋から追った。あれが、わしの命を狙ったのだ、
つい先ごろ、ほんのつい先ごろのことよ。可愛がっていたのだ、あんた。
これほど息子を可愛がった父親はおるまい。正直に言えば、
グロスター悲しみで、わしの頭はいかれてしもうた。なんという夜だ!
陛下、伏してお願いいたします——
リア王おお、これは失敬した。——気高い哲学者どの、ご一緒願おう。
エドガートムは寒いよ。
グロスター入れ、おまえはそこの小屋へ。温まっていろ。
リア王さあ、みなで入ろう。
ケントこちらでございます、わが君。
リア王この男と一緒にだ。わしは、わが哲学者と離れんぞ。
ケントわが君、お気持ちに沿って差し上げましょう。あの男を連れて行かせてやってください。
グロスターあなたが連れてやってくれ。
ケントおい、来い。一緒に行くのだ。
リア王さあ、参ろう、アテネの賢者どの。
グロスターお静かに、お静かに。しっ。
エドガー若武者ローランド、暗い塔へ参られた。
その折の合言葉は、変わらずこうだ——「フィー、フォー、ファム、
ブリテンの男の血の匂いがするぞ」。
