アンそれでもないのです。胸を刺す痛みはこれ——
陛下はあれほど長く王妃と暮らし、その王妃は
どんな舌も一度として
不名誉を口にできぬほど善良なお方。命にかけて、
悪事など知らぬお方です。ああ、それなのに、
太陽が幾巡りもするあいだ王座にあり、
威厳と華やかさを増しつづけた今、その地位は
初めて得た喜びの千倍も
捨てる苦しみが深い。それだけ時を重ねた末、
王妃に「去れ」と言い渡すなんて! これには
怪物の心さえ動かされます。
老婦人石より硬い心さえ
王妃のために溶け、嘆いています。
アンああ、神の御心よ! いっそ
栄華を知らずにいたほうがよかった。たとえ束の間でも、
争い好きの運命が、栄華を
身につけた者から引き離せば、その苦痛は
魂と肉体を引き裂くほどです。
老婦人ああ、おいたわしい!
今はまた異国人に戻ってしまわれた。
アンだからこそ
なおさら憐れみの涙を注がねば。まことに、
誓って言います、低い身分に生まれ、
慎ましく暮らす人々と満ち足りて歩むほうが、
きらめく悲嘆の高みに祭り上げられ、
金色の悲しみをまとうより幸せです。
老婦人満ち足りる心こそ、
私たちの一番の財産だよ。
アン誠と処女の操にかけて、
私は王妃になどなりたくありません。
老婦人ええい、私はなりたいね、
処女も賭ける。それにあなたもさ、
そんな偽善の香辛料をいくら振っても。
これほど見事な女の部分を備えたあなたには、
女の心もある。女の心がいつだって
憧れるのは、高い身分、富、主権。
実を言えば、どれも天の恵み。その贈り物なら、
お上品ぶるのは別として、柔らかな子山羊革のような
あなたの良心には、受け入れるゆとりがある、
少し伸ばしてやりさえすればね。
アンいえ、本当です。
老婦人そう、本当、本当。王妃にはなりたくない?
アンいいえ、天の下の富すべてと引き換えでも。
老婦人おかしなこと。曲がった三ペンス一枚で雇われても、
この歳の私なら王妃をやる。ところで、
公爵夫人ならどう思う? その称号の重荷を
担げる手足はお持ちかい?
アンいいえ、本当に。
老婦人ではひ弱な造りだね。少し位を下げよう。
あなたの行く手にいる若い伯爵にはなりたくないよ、
顔を赤らめるだけでは済まないからね。もしその背中が
この重荷さえ担うのを拒むなら、あまりに弱くて
男の子など授かれまい。
アンまあ、なんということを!
もう一度誓います、私は王妃になど
世界すべてと引き換えでもなりません。
老婦人本当のところ、小さなイングランドのためにも
あなたは王の玉を受ける賭けに出るよ。私なら
王冠についてくるのがカーナーヴォンシャーだけでも
やるね。ほら、誰か来た。
侍従長おはよう、ご婦人方。お二人の
内緒話を知るには、いくらの値打ちが?
アン閣下、
お尋ねになるほどの値打ちもございません。
私どもの女主人の悲しみを憐れんでおりました。
侍従長優しいお話で、善良なご婦人方の
振る舞いにふさわしい。すべてが
よく収まる望みはあります。
アン神よ、どうかそうなりますように!
侍従長お優しい心をお持ちだ。そのようなお方には天の祝福が
付き従います。美しいご婦人、私の言葉が
心からのものと分かるように申し上げる。あなたの多くの美徳は
高く認められ、国王陛下は
あなたを好ましく思うとのお言葉とともに、
豊かに名誉をお授けになるおつもりだ、
ペンブルック女侯爵という名誉を。その称号には、
年に千ポンドの扶持を、
ご恩寵により加えられる。
アンどのような
形で服従の心を差し出せばよいのか、分かりません。
私のすべてより多いものなどない。私の祈りも
正しく聖められた言葉ではなく、願いも
空しい夢より値打ちはありません。それでも、祈りと願いが
私にお返しできるすべてです。どうか閣下、
顔を赤らめる侍女からのものとして、私の感謝と服従を
陛下へお伝えください。
陛下のご健康と王威の栄えをお祈りしております。
侍従長ご婦人、
王があなたに抱かれた美しいお見立てが正しいと、
必ずや証し立てよう。
侍従長よくよくこの女を見定めた。
美と貞節がこれほど溶け合い、
王の心を捉えた。誰に分かろう、
この女から、やがて宝玉が生まれ、
この島全土を照らさぬとも? 王のもとへ行き、
あなたと話したと申し上げよう。
アン恐れ入ります、閣下。
老婦人ほら、これだよ。ご覧、ご覧!
私は宮廷で十六年も願い事を重ね、
今なお乞食同然の廷臣、どうしても
早すぎず遅すぎもしない、ちょうどの時に
金の願いを持ち込めなかった。それなのにあなたは、ああ運命!
ここへ来たての獲れたて魚——いやはや、
こんな押しかけ運には呆れるね!——口を開く
より先に、いっぱい詰め込んでもらった。
アン私には不思議なことです。
老婦人どんな味だい、苦いかい? 四十ペンス賭けても、違うね。
昔あるご婦人がいてね、古い話さ、
王妃にはなりたくない、絶対いやだと言った、
エジプト中の泥を積まれても。聞いたことある?
アンまあ、お戯れがお好きですこと。
老婦人あなたを種にすれば、
ヒバリより高くさえずれるよ。ペンブルック女侯爵!
年に千ポンド、ただのご尊敬だけで!
ほかに何の義務もなし! 命にかけて、
これはさらに何千もの約束だ。名誉の裾引きは
前裾よりずっと長い。もう今なら
その背中も公爵夫人を担げるはず。どうだい、
さっきより強くなったろう?
アンお願いです、
ご自分だけの空想でお笑いになって、
私を巻き込まないで。もしこの知らせで血がわずかでも
騒ぐなら、私は存在しないほうがいい。その先を思うと、
気が遠くなります。
王妃は慰めもなく、私たちは長居して
お務めを忘れています。どうか、ここで聞いたことを
王妃にはお話しにならないで。
老婦人私を何だと思っているんだい?
