国王グロスター公が来ないのを、不思議に思う。
最後に姿を見せるのは、叔父の常ではない。
何があって、今、ここへ来られぬのだろう。
王妃お分かりにならないのですか? それとも、目を向けようとなさらないのですか、
あの者の顔つきが、異様なほど変わったことに?
何と尊大に振る舞っていることか、
近頃、何と傲慢になったことか、
何と高慢で、独断的で、以前の姿と違うことか。
かつては、穏やかで、人当たりもよかった。
私たちが、遠くから、ちらりと目を向けるだけで、
すぐさま膝をついたものです。
その恭順ぶりには、宮廷中が感心したほど。
ところが、今、会ってごらんなさい。それが朝で、
誰もが挨拶を交わす時刻であっても、
眉を寄せ、怒った目を見せ、
膝を曲げもせず、こわばった足取りで通り過ぎ、
私たちに尽くすべき礼を、蔑ろにするのです。
小犬が歯を剥いても、誰も気には留めません。
しかし、獅子が吠えれば、大の男も震えます。
そして、ハンフリーは、イングランドの小物ではありません。
まず、あの者が、血筋において陛下に近いことを、お考えください。
陛下に、もしものことがあれば、次に王座へ上る者です。
ならば、賢い策とは、私には思えません、
あの者が抱く、深い憎しみと、
陛下の死によって得る利益を思えば、
王のおそばへ、近づくことも、
陛下の評議会へ、加わることも許すなど。
へつらいによって、あの者は民衆の心を得ました。
そして、ひとたび騒乱を起こそうと思えば、
皆が、ついていくのではないかと、恐れます。
今は春、雑草の根も、まだ浅い。
今、許せば、庭を覆い尽くし、
手入れを怠った薬草を、窒息させるでしょう。
わが君を敬い、案ずる心から、
私は、公爵に潜む、これらの危険を見抜いたのです。
愚かな考えなら、女の恐れと、お呼びください。
もっと確かな理屈が、この恐れを退けるなら、
私も同意し、公爵を誤解したと認めましょう。
サフォーク、バッキンガム、そしてヨーク、
できるものなら、私の訴えを論破してみなさい。
できぬなら、私の言葉は、効力ありと結論なさい。
サフォーク陛下は、よく、この公爵の内を見抜かれました。
もし私が、先に意見を述べよと命じられていたなら、
きっと、王妃と同じ話をしていたでしょう。
公爵夫人が、悪魔の業を始めたのは、
命にかけて、公爵の教唆によるものです。
よし、公爵が、あの罪を知らなかったとしても、
自らの高貴な血筋を、誇りに思い、
国王の次に、王位を継ぐ者であることや、
その身分を高らかに吹聴したため、
狂乱し、病んだ公爵夫人の頭を煽り、
邪悪な手立てで、わが君を倒そうと、
思い立たせたのでしょう。
深い小川ほど、水面は滑らかに流れるもの。
飾らぬ外見の内に、公爵は謀反を宿しています。
子羊を盗もうとするとき、狐は吠えません。
いえ、いえ、わが君。グロスターという男は、
まだ底を測られておらず、深い偽りに満ちています。
枢機卿法の定めに背き、
ささいな罪に、異常な死刑を考え出したのも、あの者ではないか?
ヨーク護国卿であったとき、
フランスの兵士の給金だとして、国中から、
巨額の金を徴収しながら、送らなかったのも、あの者では?
そのために、町々は、日ごと敵へ寝返ったのです。
バッキンガムふん。そんなものは、まだ知られぬ罪に比べれば、ささいな過ち。
時が来れば、外面の穏やかなハンフリー公の罪も、明るみに出ましょう。
国王諸卿、もうよい。われらの足を傷つける、
茨を刈り取ろうという、その心遣いは、
称賛に値する。だが、良心に従って言わせてもらえば、
わが叔父グロスターは、
王たるわれらへの謀反を企てることから、
乳を吸う子羊や、無害な鳩と同じほど、遠い男だ。
公爵は、高潔で、穏やかで、善良すぎるほどゆえ、
悪事を夢見ることも、わが破滅を図ることもない。
王妃ああ、この愚かな信頼ほど、危険なものがありましょうか!
鳩に見えますか? あの羽は、借り物にすぎません。
心根は、忌まわしい烏なのです。
子羊ですか? あの皮も、きっと借り物。
本性は、飢えた狼なのです。
人を欺こうとする者なら、姿を盗むことなど、誰にでもできる。
お気をつけください、わが君。私たち皆の安泰は、
あの偽りの男を、早々に断ち切れるかに、かかっています。
サマセット慈悲深きわが君に、あらゆる幸いを!
国王よく来た、サマセット。フランスからの知らせは?
サマセットかの領土における陛下の権益は、
ことごとく奪われました。すべて、失いました。
国王寒々しい知らせだ、サマセット。だが、神の御心ならば!
ヨーク(傍白。)
フランスも、いずれ私のものと、望んでいたのに。
こうして、わが花は、つぼみのうちに霜枯れ、
毛虫が、葉を食い尽くしていく。
だが、遠からず、この事態を正してみせる。
さもなくば、わが権利を、栄えある墓と引き換えにしよう。
グロスターわが君、国王に、あらゆる幸福を!
陛下、これほど遅くなったことを、お許しください。
サフォークいや、グロスター、早すぎたと思い知れ。
今よりも、忠義のある男でないかぎりはな。
ここに、大逆罪をもって、お前を逮捕する。
グロスターよいだろう、サフォーク。この逮捕によって、
私が赤面することも、顔色を変えることもない。
汚れなき心は、容易には怯まぬ。
最も清らかな泉にさえ、泥は混じるが、
私には、わが君への謀反など、泥一つない。
誰が、私を訴えられる? 何の罪がある?
ヨーク閣下は、フランスから賄賂を受け、
護国卿であったときに、兵士の給金を差し止めたと、見られています。
そのために、陛下はフランスを失われたのです。
グロスター見られているだけか? そう見る者とは、誰だ?
私は、兵士の給金を盗んだこともなければ、
フランスから、一ペニーの賄賂を得たこともない。
神よ、証しを! 私は幾夜も眠らず、
そう、一夜、また一夜と、イングランドのためを考え抜いた。
私が王から、ただの一ドイットでも、もぎ取ったなら、
あるいは、一グロートでも、わがために蓄えたなら、
裁きの日に、その証拠を突きつけられるがよい!
いや。困窮する民に、税を課したくないため、
わが懐から、何ポンドもの金を、
駐屯軍へ支払ってきた。
しかも、返還を求めたことなど、一度もない。
枢機卿閣下、よくも、それほど言えたものです。
グロスター真実よりほかは、何も言っていない。神が証人だ!
ヨーク護国卿であったとき、罪人に対し、
これまで聞いたこともない、異様な拷問を考え出し、
暴虐によって、イングランドの名を汚しましたな。
グロスター何を言う。私が護国卿であった間、
罪があるとすれば、慈悲深すぎたことだけだと、よく知られている。
罪人の涙を見れば、心は溶け、
へりくだった言葉を聞けば、それを贖いとして許した。
ただし、血にまみれた人殺しや、
哀れな旅人から、すべてを奪う、卑劣な盗賊なら、
罪にふさわしい罰を与えぬことはなかった。
ことに殺人、この血塗られた罪だけは、
盗みや、ほかのいかなる違反より、厳しく責めた。
サフォーク閣下、これらの罪なら、軽く、すぐに答えられましょう。
しかし、さらに大きな罪が、あなたに着せられています。
容易には、身を清められぬ罪が。
陛下の御名によって、あなたを逮捕する。
そして、さらなる裁きの時まで、
ここに、枢機卿の監視へ、あなたを委ねる。
国王グロスター公、そなたが、あらゆる疑いを晴らすことを、
私は、ことのほか願っている。
良心が、そなたは無実だと、私に告げているのだ。
グロスターああ、慈悲深きわが君、このご時世は、危ういもの。
美徳は、汚らわしい野心に、息の根を止められ、
慈愛は、憎悪の手で、ここから追い払われ、
邪悪な偽証の唆しが、幅を利かせ、
公正は、陛下の国から、追放されています。
奴らの共謀が、わが命を狙うものだと、承知しております。
もし、私の死によって、この島が幸福となり、
奴らの暴虐にも、終止符が打たれるのなら、
喜んで、この命を差し出しましょう。
しかし、私の死は、奴らの芝居の序幕にすぎない。
まだ危険を疑いもせぬ、幾千もの人々が、
奴らの企んだ悲劇を、終幕まで演じさせられるのです。
ボーフォートの赤く燃える目は、心の悪意を言いふらし、
サフォークの曇った額は、嵐のような憎しみを示す。
舌鋒鋭いバッキンガムは、
胸に積もった嫉妬の重荷を、舌で吐き出す。
そして、気難しいヨークは、月にまで手を伸ばす男、
その身の程知らずの腕を、私が引き戻したために、
偽りの訴えで、わが命へ狙いを定めている。
さらには、わが君たる王妃、あなたも、ほかの者たちとともに、
理由なく、私の頭へ汚名を着せ、
力を尽くして、私の最愛の君主を、
私の敵へと、煽り立てた。
そうだ、皆で、額を寄せ合ってきた。
そなたたちの密会は、私の耳にも入っている。
すべては、罪なき、わが命を消すためだ。
私を有罪にする偽証人には、事欠くまい。
わが罪を膨らませる謀反にも、事欠くまい。
昔からの諺が、そのまま現実になるのだ。
「犬を打つ棒なら、すぐに見つかる。」
枢機卿陛下、この者の悪罵は、耐えがたい。
王のお命を、謀反の隠し刀や、
逆賊の怒りから守ろうとする者が、
このように、面罵され、叱られ、責め立てられ、
罪人には、好きに話す余地が与えられるなら、
陛下への忠誠心も、冷めてしまいましょう。
サフォークこの者は今、わが王妃を、
学者めかして包んだ、恥ずべき言葉で、なじったのでは?
あたかも王妃が、偽りの訴えを宣誓する者を、
買収して、公爵の身分を潰そうとしたかのように。
王妃負けた者には、好きに叱らせておけばよい。
グロスター思った以上に、真実のお言葉。確かに、私は負けました。
勝った者どもに、災いあれ。卑怯な手で、私に勝ったのだから!
そのような負けた者なら、話すことを許されてもよいでしょう。
バッキンガム言葉の意味を捻じ曲げ、このまま一日中、われらを引き留めるぞ。
枢機卿、この者は、あなたの囚人です。
枢機卿者ども、公爵を連れ去り、厳重に監視せよ。
グロスターああ! こうしてヘンリー王は、足がまだ、
体を支えられるほど強くなる前に、杖を投げ捨てる。
こうして、羊飼いは、そなたのそばから打ち払われ、
狼どもは、誰が最初に、そなたを貪るかと、唸っている。
ああ、わが恐れが、偽りであれば! ああ、そうであればよい!
善きヘンリー王よ、私は、そなたの衰亡を恐れる。
国王諸卿、そなたたちの知恵で、最善と思うことを、
私が、ここにいるかのように、行うも、取り消すも、好きにせよ。
王妃まあ、陛下、議会を去られるのですか?
国王そうだ、マーガレット。わが心は、悲しみに溺れ、
その洪水が、両目から流れ出そうとしている。
全身を、苦悩に取り囲まれて。
不満に満ちること以上に、惨めなことがあろうか?
ああ、叔父ハンフリー! そなたの顔には、
名誉と真実と忠義の地図が見える。
しかも、善きハンフリー、これまで一度として、
そなたの偽りを、目の当たりにしたことも、
その誠実を、疑ったこともない。
今、いかなる不吉な星が、そなたの地位を妬み、
この大諸侯たちと、わが王妃マーガレットに、
罪なき、そなたの命を、覆させようとしているのか?
そなたは、この者たちを、決して害さず、
誰一人、害したこともない。
ところが、屠殺人が、子牛を連れ去り、
逃げれば、哀れな子牛を縛って打ち、
血塗られた屠殺場へ、運ぶように、
奴らは、情け容赦なく、叔父を連れ去った。
そして、母牛が、哀れな子を奪われた道を見つめ、
低く鳴きながら、あちらこちらへ走り回り、
愛する子を失ったことを、嘆くよりほかないように、
この私も、善きグロスターの身を嘆き、
悲しく、何の助けにもならぬ涙を流し、曇った目で、
叔父のあとを見つめながら、何もしてやれぬ。
誓いを立てた敵どもが、あまりにも強大なのだ。
叔父の運命を思って、私は泣こう。そして、呻くたび、
こう言おう、「誰が逆賊だ? グロスターは違う」と。
王妃自由に話せる諸卿よ、冷たい雪も、熱い陽射しに溶けます。
わが夫ヘンリーは、国の大事には冷淡で、
愚かな憐れみに、満ちすぎています。グロスターの外見に、
あの方は欺かれている。嘆き悲しむ鰐が、
悲しみによって、情け深い旅人を罠にかけるように。
あるいは、花咲く土手に、とぐろを巻いた蛇が、
光る斑の抜け殻で、その美しさを、
素晴らしいと思った子を、刺すように。
諸卿、信じなさい。私より賢い者が、ほかにいないなら、
そして、このことについては、自分の知恵を確かと思うが、
このグロスターを、すぐに世から消すべきです。
あの者への恐れを、私たちから消すために。
枢機卿あの者を死なせるのは、立派な策。
だが、その死を正当化する、口実が要る。
法の手続きに従い、有罪にするのが、ふさわしい。
サフォークしかし、私の考えでは、それこそ、まずい策です。
国王は、なおも、あの命を救おうと尽力し、
民衆も、ひょっとすれば、命を救おうと立ち上がる。
しかも、あの者が死に値する証拠といえば、
疑い以上には、取るに足らぬ言い分しかない。
ヨークすると、それを理由に、死なせたくないと言うのか。
サフォークああ、ヨーク。この世で、私ほど死を望む者はいない!
ヨークその死を望む理由なら、ヨークにこそ、もっとある。
だが、枢機卿、そしてサフォーク、
思うまま、心の底から答えてくれ。
腹を空かせた鳶から、雛を守らせるため、
何も入っていない、鷲の抜け殻を置くことと、
ハンフリー公を、国王の護国卿に据えることとは、
同じではないか?
王妃それなら、哀れな雛は、確実に死ぬでしょう。
サフォークその通りです、王妃。では、狐を、
羊囲いの監督にするのも、狂気ではありませんか?
奸智に長けた人殺しと、訴えられた狐の罪を、
まだ企みを実行していないというだけで、
無益に見逃すなど。
いや。狐である以上、死なせるのだ。
生まれながらに、群れの敵であると分かっているのだから、
その顎が、深紅の血に染まる前に。
ハンフリーも、道理によって、わが君の敵と証されている。
殺し方について、法の屁理屈に、こだわってはなりません。
仕掛けでも、罠でも、策略でも、
寝ていようと、起きていようと、手段など何でもよい。
死にさえすれば。先に、人を欺こうとする者を、
先んじて倒す欺きならば、善い欺きなのです。
王妃三重に高貴なるサフォーク、何と、きっぱりした言葉。
サフォーク言葉どおりに、事がなされなければ、きっぱりとは言えません。
事は、しばしば口にされても、本気で望まれることは少ない。
しかし、私の心は、舌と一致しております。
この行いは、功徳あるもの。
わが君を、敵から守るためです。
一言、命じてくだされば、私が、あの者の司祭となりましょう。
枢機卿だが、サフォーク、そなたが、
司祭の正式な叙任を受けるより先に、あの者には死んでもらいたい。
同意すると言い、この行いを、正しいと裁いてくれ。
そうすれば、私が、処刑人を用意しよう。
それほど、わが君の安泰を、心にかけているのだ。
サフォークこの手を預けます。なすに値する行いです。
王妃私も、同じ。
ヨーク私もだ。今や、われら三人が、そう口にしたのだ、
誰が、この裁定に逆らおうと、たいしたことではない。
急使大諸侯の方々、私は、アイルランドから急ぎ参りました。
かの地で、反乱軍が立ち上がり、
イングランド人を、剣にかけていることを、お知らせするために。
諸卿、援軍を送り、早いうちに、怒りを食い止めてください。
傷口が、治せぬほど広がる前に。
まだ生々しい今なら、救う望みも大いにあります。
枢機卿素早く、適切に塞がねばならぬ裂け目だ!
この重大事に、どのような策を出す?
ヨークサマセットを、摂政として遣わすべきでしょう。
あの幸運な統治者こそ、用いるにふさわしい。
フランスで得た運を、ご覧になったとおりですから。
サマセットもし、遠大な策を誇るヨークが、私に代わって、
かの地の摂政だったなら、
これほど長く、フランスに留まれなかっただろう。
ヨークその通り、すべて失うまで、留まりはしなかった。
何もかも失うまで、長く留まり、
不名誉の重荷を、故国へ持ち帰るくらいなら、
とうに、命を失う方を選んだはずだ。
お前の肌に刻まれた傷を、一つでも見せてみろ。
これほど無傷の肉を保つ者が、勝利を得ることは、めったにない。
王妃まあ、この火花は、風と燃料を与えれば、
燃え盛る炎になりそうですね。
もうよい、ヨーク。愛するサマセット、黙りなさい。
ヨーク、もし、あなたが、かの地の摂政であったなら、
その運命は、この者より、はるかに悪かったかもしれません。
ヨーク何もないより、悪いだと? ならば、すべてに恥あれ!
サマセットその「すべて」には、恥を願う、お前も入れておけ!
枢機卿ヨーク公、そなたの運が、どれほどか試してみよ。
礼を知らぬ、アイルランドの軽装兵が、武器を取り、
イングランド人の血を、泥に練り込んでいる。
各州から、選り抜きの者を集めた部隊を率い、
アイルランドへ渡り、
かの地の者を相手に、運を試すか?
ヨーク陛下の御意にかなうなら、参りましょう。
サフォーク何を言う。われらの権限は、陛下の同意そのもの。
われらが定めることを、陛下は承認なさる。
ならば、高貴なるヨーク、この任を引き受けよ。
ヨーク承知した。諸卿、兵士を用意してくれ。
その間に、私は、自分の用向きを整える。
サフォークヨーク、その任は、私が確実に果たさせよう。
だが、今は、偽りのハンフリー公の話へ戻ろう。
枢機卿あの者の話は、もうよい。私が、あの者を始末して、
今後、われらを煩わせぬようにする。
では、ここで散会しよう。日は、ほとんど暮れた。
サフォーク、そなたと私は、その一件について、話さねばならぬ。
ヨークサフォーク、十四日以内に、
ブリストルで、兵士を待っている。
そこで全軍を船に乗せ、アイルランドへ渡る。
サフォーク必ず、そのようにしよう、ヨーク。
ヨーク今だ、ヨーク。今を逃せば、二度とない。臆病な思いを鋼に変え、
疑いを、決意へ変えよ。
望む者になれ。さもなくば、今の身分を、
死へ引き渡せ。それは、生きて享受するに値しない。
青ざめた恐れなど、卑しい生まれの男に、つきまとわせ、
王家の心には、宿を見つけさせるな。
春の驟雨よりも速く、思いが、思いを追い、
その、どの思いも、王位の尊厳を思っている。
働き回る蜘蛛よりも、せわしない、わが頭脳が、
敵を捕らえる、長々しい罠を編んでいく。
よくやった、諸侯たち、よくも、策を巡らせたものだ。
軍勢をつけて、私を追い払うとは。
思うに、そなたらは、飢えて凍えた蛇を、温めているだけ。
胸に抱いて、慈しめば、その胸を刺す蛇を。
私に足りなかったのは、人。それを、そなたらが与えてくれる。
親切として、受け取ろう。だが、よく心得ておけ。
狂人の手に、鋭い武器を握らせるのだ。
私が、アイルランドで、強大な軍勢を育てる間に、
イングランドでは、漆黒の嵐を起こしてやろう。
一万の魂を、天国か地獄へ吹き飛ばす嵐を。
そして、この激しい暴風は、
わが頭上の黄金の輪が、
輝かしい太陽の、透き通る光のように、
狂気から生まれた、ひと吹きの風の怒りを鎮めるまで、荒れ続ける。
その企ての手先として、
アシュフォードの、向こう見ずなケント人、
ジョン・ケイドを、すでに抱き込んである。
ジョン・モーティマーを名乗らせ、
得意とする騒乱を、起こさせるのだ。
アイルランドで、私は、この強情なケイドが、
軽装兵の一隊に、立ち向かうところを見た。
長く戦い、両腿に矢を浴び、
硬い針を逆立てた山嵐のようになったほどだ。
ついには救い出されたが、そのときも、
野蛮なモリス踊りの踊り手のように、まっすぐ跳びはね、
鈴を振るように、血まみれの矢を揺らしていた。
毛むくじゃらの、狡猾な軽装兵を装って、
幾度も敵と語り合いながら、
正体を見破られず、私のもとへ戻って、
奴らの悪事を、知らせたものだ。
この悪魔を、私の身代わりにしよう。
今は亡き、あのジョン・モーティマーと、
顔も、歩き方も、話しぶりも、似ているからだ。
これによって、民衆の心を見極める。
ヨーク家と、その王位請求を、どう思っているのか。
よし、あの者が捕らえられ、拷問台にかけられ、責めさいなまれたとしよう。
どんな苦痛を与えられても、
私が、武器を取らせたとは、口にせぬ男だ。
よし、あの者が成功したとしよう。おそらく、そうなるだろう。
ならば、アイルランドから、軍勢を率いて戻り、
あの悪党が蒔いた種の、収穫を刈り取る。
ハンフリーは死ぬ。必ず、そうなる。
ヘンリーも退けられ、その次は、私だ。
