内儀お願いだから、蜜のように甘い旦那様、ステインズまで送らせてちょうだい。
ピストルいや。俺の男らしい心が疼いているのだ。
バードルフ、陽気にしろ。ニム、その大言壮語の血管を奮い立たせろ。
小僧、勇気の毛を逆立てろ。フォールスタッフ殿は亡くなった、
だから我らは嘆かねばならぬ。
バードルフどこであろうと、天国だろうと地獄だろうと、あの方と一緒にいたいものだ!
内儀いいえ、間違いなく、あの方は地獄になんかいません。アーサー王の御懐にいらっしゃいます、人がアーサー王の御懐に行くことがあるならね。洗礼を受けたばかりの赤ん坊みたいに、それはそれは見事な最期で逝かれたんですよ。ちょうど十二時と一時の間、潮の変わり目にね。だってあの方がシーツをまさぐって、花をいじって、自分の指先に微笑みかけるのを見たときから、道は一つしかないと分かりましたもの。鼻はペンみたいに尖って、緑の野原のことをうわ言に言っておられた。「どうしました、ジョン卿!」と私が言うと、「なんですよ、しっかりなさって」って。するとあの方は「神様、神様、神様!」と三度も四度も叫ばれた。それで私は慰めようと思って、神様のことなんかお考えにならないでと申しました。まだそんなことでご自分を煩わせる必要はないでしょうと思ったものですから。するとあの方は足にもっと着物をかけてくれとおっしゃる。私が手を寝床に入れて触ってみると、石みたいに冷たいんです。それから膝を触ると、これも石みたいに冷たい。そうやってだんだん上へ上へと、みんな石みたいに冷たかったんです。
ニム酒を寄越せと叫んでいたという話だ。
内儀ええ、それは叫んでいましたよ。
バードルフそれに女のことも。
内儀いいえ、それは言いませんでした。
少年いや、言ったよ。女は肉をまとった悪魔だって言ったんだ。
内儀あの方は肉桂色だけはどうにも我慢できませんでしたね。あれは嫌いな色でしたよ。
少年いつだったか、悪魔が女のことで自分を捕まえに来ると言ってた。
内儀確かにある意味では女を扱っておいででしたよ。でもあのときは頭に霧がかかっていて、バビロンの淫婦の話をしておられたんです。
少年覚えてないかい、バードルフの鼻に蚤がとまってるのを見て、あれは地獄の火で燃えている黒い魂だって言ったの。
バードルフまあ、あの火を保っていた燃料は行っちまった。あの方に仕えて手に入れた財産はそれだけさ。
ニムそろそろ行くか? 王様がサウサンプトンを発ってしまうぞ。
ピストルさあ、行こう。愛しい人よ、その唇をくれ。
俺の家財と動産に気をつけてくれ。
分別を働かせろ。合言葉は「即金払い」だ。
誰も信用するな。
誓いなど藁しべ、人の信義など軽い煎餅、
しっかり噛んで離さぬ犬だけが頼りだ、可愛い人よ。
だからカヴェート、用心を助言者にしろ。
さあ、その水晶を拭け。武具を共にする仲間たちよ、
フランスへ行こう。蛭のようにな、諸君、
吸って、吸って、血そのものを吸うために!
少年それはあんまり体によくない食い物だって言うけどね。
ピストルその柔らかな口に触れて、行進だ。
バードルフさらば、おかみさん。
ニム俺は口づけができない、そういう気分だ。だが、さらばだ。
ピストル主婦の腕前を見せてくれ。家に籠っていろ、命じておく。
内儀さようなら、ごきげんよう。
