フランス王あの娘という宝石を失った。そのため我らの誇るものは
ひどく貧しくなった——だがお前の息子は、
愚かさに狂ったかのように、あの娘の
値打ちを十分に知る分別がなかった。
伯爵夫人もう過ぎたことです、陛下。
どうぞお考えくださいませ
若さの炎の中で起きた、自然な反抗だと。
油と火が、理性の力には強すぎて、
押し倒し燃え盛る年頃なのです。
フランス王尊敬するご婦人よ、
すべて許し忘れている。
息子への報復に弓を引き絞り、
放つ時を待ってはいたが。
ラフューこれだけは申さねば、
まずお許しをいただきますが、若殿は
陛下にも、母上にも奥方にも
大きな罪を犯した。だが自分には
何よりもひどい仕打ちをしたのです。妻を失った
どれほど美に肥えた目をも
驚かせる美しさを持ち、その言葉でどんな耳もとらえ、
人に仕えるのを嫌う心さえあの愛すべき完璧さに
ひざまずいて女主人と呼んだ妻を。
フランス王失ったものをほめれば
思い出はいよいよいとしくなる。よし、呼び入れよ。
和解は済んだ、最初の一目で
蒸し返しは終わりにする——許しを乞わせるな。
あの大きな罪の本体は死んだ、
怒りを呼ぶ名残も
忘却より深く埋めてしまう——来るがいい、
初めて会う者として、罪人としてではなく。そう来ることが
我が望みだと伝えよ。
紳士かしこまりました、陛下。
フランス王娘のことをどう言っている?話したか?
ラフュー何もかも陛下のお心に従うと。
フランス王ならば縁組ができる。あれを大いに
たたえる手紙も届いている。
ラフューよい顔をしている。
フランス王私は季節どおりの一日ではない、
日の光と雹が一緒にあるのを
見ることもあろう——だが強い光の前では
乱れた雲も道を譲る。だから前へ出よ。
天気はまた晴れだ。
バートラム深く悔いておりますこの罪を、
尊き陛下、どうかお許しください。
フランス王すべて収まった。
過ぎた時についてはもう一言も言うな。
今という時の前髪をつかもう。
我らは年を取った、どれほど急いで決めても
時の聞こえぬ音なき足が
実行するより先に忍び寄る。この方の
娘を覚えているか?
バートラム憧れとともに、陛下、最初から
あの方と決めていました、心が
舌を大胆な使者として送り出すより前に
目に映った姿が心に焼きつき、
軽蔑がそのゆがんだ遠眼鏡を貸したのです、
それでほかの顔はどれも形をゆがめられ。
美しい肌の色も蔑まれ、あるいは借り物にされ。
あらゆる釣り合いが引き伸ばされ縮められて
ひどく醜いものに変わりました——ですから
誰もがほめ私自身も、
失ってから、愛するようになったあの人が、私の目には
ただ目を痛めるほこりだったのです。
フランス王うまい言い訳だ——
愛したということが、大きな罪の帳簿から
いくらかを消す——だが遅れて来る愛は、
悔いて出した赦免の知らせが遅れたように、
それを送る高貴な者に苦い罪となって返る、
失ったものこそよかったと、叫びながら。我らは軽はずみな過ちで
持っている大切なものを安く見積もり、
墓を知るまでその人を知らない——
怒りは我が身をも裏切り、
友を殺して灰に泣く
愛は目覚めて、したことに泣き、
恥は遅くも昼寝を続ける。
これを愛しいヘレナの弔鐘として、もう忘れよう。
美しいモードリンへ愛のしるしを送れ——
肝心の同意は揃った。我らもここに留まり
妻を失った男の二度目の婚礼を見届けよう。
伯爵夫人初めの式にまさる幸、
天よ今度は祝福を!
さもなく二人逢う前に、
この身の命果てさせよ!
ラフューさあ、お前の名の中へ、我が家の名を
溶かし込むことになる息子よ、何かしるしをくれ
娘の心をきらめかせるものを、
すぐここへ来たくなるように。
ラフューこの老いた髭にかけて、
その一本一本にかけて、ヘレナは、あの死んだ娘は、
いとしい娘だった——こんな指輪を、
最後に宮廷で見かけたときに、
あの娘が指にはめていた。
バートラムこれは彼女の物ではありません。
フランス王さて、頼む、見せてくれ。話している間も、
何度も、その指輪に目が吸い寄せられた。
これは私の指輪だった。そして、ヘレナに与えたとき、
困ったことがあって
助けが必要になったら、このしるしを持って来れば、
救ってやると言った。お前はそんな悪知恵を働かせたのか、あの娘から
いちばん頼りになる物を取り上げるような?
バートラムお慈悲深い陛下、
そのようにお取りになりましても、
これは彼女の物だったことはありません。
伯爵夫人息子よ、命にかけて、
私はあの子がはめているのを見ました。あの子はこれを
命と同じに大切にしていました。
ラフュー私も確かにはめているのを見た。
バートラムお間違いです、閣下。彼女は見たこともない——
フィレンツェで窓から投げてよこされたのです、
紙に包まれて、その紙には
投げた女性の名がありました——身分ある方で、私が
応える義務を負ったと思われたのです——ですが私が
自分の身の上に即して十分ご説明し
申し出てくださったような正式な形では
お応えできないと伝えると、その方は
悲しみつつ納得して諦め指輪は二度と
受け取ろうとなさらなかった。
フランス王富の神プルータスでさえ、
卑金属を金に変え増やす秘薬を知っていても、
自然の神秘に通じていることでは
私がこの指輪を知っているのに及ばぬ——私の物だった、ヘレナの物だった、
誰からもらったのであろうと。ならば、自分のことを
自分でよく知っているのなら、
あの娘の物だったと認め、どんな手荒な手段で
奪ったか白状せよ——あの娘は聖人を証人に
決して指から外さないと誓った、
お前に寝床で与えるのでなければ、
お前が一度も入らなかったその寝床で、あるいは大きな災難に遭い
私に送り届けるのでなければ。
バートラム彼女は見たこともありません。
フランス王それは嘘だ、私が名誉を重んじるのと同じくらい確かだ。
お前は私に疑わしい恐れを抱かせる
締め出しておきたい恐れを。もしお前が
それほど非道だとわかったら——いやそんなはずはない。——
だがわからぬ——お前はあの娘をひどく憎んだ、
そしてあの娘は死んだ。その目を、私自身の手で
閉じるのでなければ、この指輪を見ることほど、
その死を信じさせるものはない。連れていけ。
フランス王以前見た証拠を考えれば、事の結末がどうあれ、
この恐れは決して根も葉もないものではない、
恐れが足りぬことこそ愚かだった。連れていけ!
この件はさらに調べる。
バートラムこの指輪がかつて彼女の物だったと
証明できるなら、同じくらいたやすく
私がフィレンツェであの人と夫婦として寝たと証明できるでしょう、
彼女が一度もいなかったその町で。
フランス王恐ろしい考えに包まれる。
紳士お慈悲深い陛下、
出過ぎたことをしたのかどうか、私にはわかりません——
フィレンツェの女性からの嘆願書でございます、
四度五度と陛下のご移動に間に合わず
じかにお渡しできなかった方の。お引き受けしましたのは、
お気の毒な訴え人の美しい物腰と言葉に
心を動かされたためで、その方は今ごろ
ここで待っておられるはずです——その顔には
重大な用があると表れておりました。またおっしゃいました、
短く心に響く言葉で、この件は
陛下とその方に関わると。
フランス王(読む。)妻が死んだら結婚すると何度も誓われ、恥ずかしくてなりませんが、私は身を任せました。今やルシヨン伯爵は妻を亡くしました——私への誓いは破られ、私の名誉はあの方へ支払われたままです。別れの挨拶もなく、フィレンツェを抜け出され、私は正義を求めてこの国へ追って参りました——どうかお与えください、王よ!それをなせるのは陛下をおいてほかにありません。さもなくば女をだます男が栄え、哀れな娘が滅びます。
ダイアナ・カピレット。
ラフュー市で婿を一人買って来よう、こいつを売った税も払ってな——こんなのはいらん。
フランス王天がお前を見守ったな、ラフュー、
こんな事実を明かしてくれたとは。訴え人たちを探せ——
急いで行って伯爵を連れ戻せ。
恐ろしいことだがヘレナの命は、夫人、
むごく奪われたのかもしれない。
伯爵夫人では、やった者に裁きを!
フランス王不思議だな、伯爵、お前にとって妻が化け物で、
夫になると誓っては逃げ出すというのに、
なお結婚したいとは。
フランス王あの女は何者だ?
ダイアナ私は、陛下、哀れなフィレンツェの娘、
古いカピレット家の末でございます——
訴えの内容は、すでに、お聞きと存じます、
どれほど哀れむべき身かもご存じのはずです。
未亡人私はその母でございます、陛下、この老いた身も名誉も
この訴えのため苦しんでおります、
お救いいただけなければ、どちらも終わります。
フランス王ここへ来い、伯爵。この女たちを知っているか?
バートラム陛下、知っていることは否定できませんし
する気もありません——さらに何か訴えるのですか?
ダイアナなぜ奥さんをそんな他人のような目で見るの?
バートラム私の妻などではありません、陛下。
ダイアナ結婚なさるなら、
この手を差し出すのね、それは私のもの。
天に立てた誓いを差し出すのね、それも私のもの。
私自身を差し出すのね、私は私のものと決まっている。
誓いによって私はこれほどあなたと一つの体になった、
あなたと結婚する方は私とも結婚するのです、
二人ともかどちらともなしか。
ラフューお前の評判ではうちの娘には足りぬ。婿にするわけにはいかん。
バートラム陛下、これは愚かでやけになった女です、
時々笑って相手をしてやっただけの——どうか
私の名誉をもっと高くお考えください
こんな所へ落とすはずがあると思われずに。
フランス王伯爵、私の考えを、お前は味方につけていない
行いで勝ち取るまでは——私が思っているより
立派な名誉を示してみせよ。
ダイアナお願いです陛下、
この人に誓わせてお聞きください、
私の処女を奪わなかったと本当に思っているのかと。
フランス王どう答える?
バートラム恥知らずな女です、陛下、
陣中で誰とでも寝て遊んでいた女です。
ダイアナひどい言いがかりです、陛下。そうであれば、
ありふれた値段で買えたはず——
信じないでください。ああ、この指輪をご覧ください、
その高い由緒にも豊かな価値にも
並ぶものはありません。それなのに
この人は陣中の誰とでも寝る女へ与えたのです、
私がそんな女なら。
伯爵夫人赤くなったわ、あの指輪です——
六代前の先祖から、その宝石は、
遺言で次の代へ渡され、
代々身につけてきたものです。この方が妻です。
あの指輪が千の証拠にもなります。
フランス王この宮廷に証人になれる者が
いると言っていたな。
ダイアナはい、陛下、ですがあまりに悪い道具なので
引き出したくはありません——パローレスと申します。
ラフュー今日見ましたよ、男と呼べる男ならですが。
フランス王探して、連れて来い。
バートラムあいつが何を?
裏切り者の下衆として名が通っています、
この世の汚点を残らず負わされ堕落しきったやつです。
本当のことを一言言うだけで気分が悪くなる性分です。
何でも口にする男が何か言っただけで、
私はああだこうだと決めつけられるのですか?
フランス王あの娘がお前の指輪を持っている。
バートラムそうでしょうね——確かにあの女が気に入り、
若い気まぐれから身体目当てに近づきました——
女は身分の差を知って私を釣ろうとし、
じらしてこちらの欲を狂わせた、
恋路の邪魔はすべて
恋をいっそうあおるものですから。そして、結局、
ありふれた色気でも、底なしの悪知恵で、
言い値を払わされたのです——女は指輪を手に入れた。
私はどんな下賤な男でも
相場で買えるものを手に入れたのです。
ダイアナ我慢しなければ——
あれほど立派な最初の奥様を、追い払ったあなたなら、
私を飢えさせるくらい当然でしょう。でもお願いします。
あなたに徳がない以上、夫は失って構いません。
指輪を取りによこしてください、お返しします、
私のも返してください。
バートラム持っていない。
フランス王お前の指輪はどれだ、聞かせてくれ?
ダイアナ陛下、そのお指にはまっている物と
そっくりの物でございます。
フランス王この指輪を知っているか?つい今までこの男の物だった。
ダイアナ寝床でこの方に与えたのはその指輪です、確かに。
フランス王ならば話が嘘になる、窓から
投げ与えたというのは。
ダイアナ本当のことを申し上げました。
バートラム陛下、指輪はこの女の物だったと認めます。
フランス王ひどくびくつくな、羽一本でもお前を驚かすらしい。
この男が話していた者か?
ダイアナはい、陛下。
フランス王言え、小僧、ただし本当のことを言え、命令だ、
主人の不興など恐れずに、
正しく話すなら私がお前を守る、
この男とここにいる女について何を知っている?
パローレス恐れながら陛下、主人は名誉ある紳士でございました——癖はいろいろございましたが、紳士にはあるものです。
フランス王さあ、さあ、要点を言え——この女を愛していたか?
パローレス確かに、陛下、愛しておられました。ですがどのように?
フランス王どのようにだ、言ってみろ?
パローレス愛しておりました、陛下、紳士が女を愛するように。
フランス王それはどういうことだ?
パローレス愛しておりました、陛下、そして愛しておりませんでした。
フランス王お前が悪党で、悪党でないようにな。何というどっちつかずのやつだ!
パローレス私は貧しい男で、陛下のご命令に従います。
ラフュー太鼓としては上等ですが、陛下、弁士としてはとんだものです。
ダイアナこの人が私に結婚を約束したのを知っていますね?
パローレスいや、話すより多くを知っております。
フランス王知っていることを全部話さぬか?
パローレスはい、陛下の仰せとあれば。二人の間を取り持ちました、申し上げたとおり。それ以上に、主人は愛しておりました——まったく彼女に夢中で、悪魔だの死者の国だの復讐の女神だの何だかわからないものを持ち出していたのです——ただ私は当時二人に信用されておりましたので寝床をともにすることも、ほかの動きも、結婚の約束なども、口にすれば恨みを買うようなことも知っておりました。ですから知っていることは申しません。
フランス王もう全部話したではないか、二人が結婚したと言えるのでなければ——だが証言を細かく飾りすぎだ。脇へ下がれ。
この指輪が、お前の物だったと、言うのだな?
ダイアナはい、お優しい陛下。
フランス王どこで買った?誰にもらった?
ダイアナいただいておりませんし、買ってもおりません。
フランス王誰が貸した?
ダイアナ借りてもおりません。
フランス王ではどこで拾った、言え?
ダイアナ拾ってもおりません。
フランス王どの方法でもお前の物にならなかったのなら、
どうしてこの男に与えられた?
ダイアナこの人に与えてはおりません。
ラフューこの女は緩い手袋だ、陛下。好き勝手にはめたり外したり言い分を変える。
フランス王この指輪は私の物だった。この男の最初の妻に与えたのだ。
ダイアナ陛下の物か奥様の物か、私にはわかりません。
フランス王連れていけ。もうこの女は気に入らん。
牢へ入れろ——この男も連れていけ。
その指輪をどこで手に入れたか話さなければ、
一時間以内に死ぬことになるぞ。
ダイアナ決して申しません。
フランス王連れていけ。
ダイアナ保証人を立てます、陛下。
フランス王どうやらそこらの売春婦らしいな。
ダイアナ神にかけて、私が男を知ったとしたら、それは陛下です。
フランス王それならなぜ今までこの男を訴えていた?
ダイアナこの人は有罪だからです、そして無罪だからです——
私が処女でないと知っています、そう誓うでしょう。
私は処女だと誓います、この人は知らないのです。
偉大な王様、命にかけて、私は娼婦ではありません。
乙女です、さもなくばここにいる老人の妻です。
フランス王我らの耳をもてあそぶとは——牢へ入れろ。
ダイアナお母様、保証人を呼んで。お待ちください、陛下——
ダイアナ指輪の持ち主の宝石商を呼びました、
あの方が保証してくださいます。ですがこの方は、
ご自分でも知っているように、私をひどく扱い、
それでも一度も傷つけてはいない方ですが、ここで訴えを取り下げます——
私の寝床を汚したとこの方は知っています。
そのときご自分の奥様に子を宿したのです——
死んでいるのに、お腹の子が蹴るのがわかる奥様です——
これが私の謎——死んだ人に命がある——
さあその答えをご覧ください。
フランス王幻術使いが
私の目のまっとうな働きを欺いているのではないか?
見ているのは本物か?
ヘレナいいえ、お優しい陛下。
ご覧になっているのは妻の影だけ、
名前だけで中身はないのです。
バートラム両方だ、両方だ。ああ、許してくれ!
ヘレナああ旦那様、私がこの娘だったとき、
驚くほど優しくしてくださいましたね。これがあなたの指輪。
そして、ほら、お手紙もここに。こうあります——
「この指から指輪を手に入れて
私の子を身ごもったら」以下続く。それを、果たしました——
二つとも勝ち得た今は、私のものになってくださいますか?
バートラムすべて確かと知れたなら、
陛下この人愛します、
いついつまでも変わらずに。
ヘレナもし明らかにならず嘘ならば、
死をもたらす別れが二人を引き裂くように!
ああお母様、ご無事でお会いできましたか?
ラフュー目が玉葱を嗅ぎつけた。そろそろ泣くぞ——
(パローレスに。)なあ太鼓のトム、ハンカチを貸せ——そう、
ありがとう——家まで供をしろ、いじって楽しませてもらうぞ——
お辞儀はやめろ、へたくそなお辞儀は。
フランス王事の一つを余さずに、
語れまことを喜びに。
(ダイアナに。)まだ手折られぬ花ならば、
夫を選べ持参金、
私が出そうお前には。
誠の助けあったれば、
妻を妻にし身も清く。
これもいきさつすべてまた、
時を費やし明らかに——
今はすべてがよいようだ。
終わりよければそれもよし、
苦さを経ては甘さ増す。
