ポリクシニーズ水の星が九たび満ち欠けするのを
羊飼いが数えた、そのあいだ私たちは
王座を留守にしてきた。兄弟よ、その倍の時を
感謝の言葉で満たしても、なお永久に
借りを負ったまま帰ることになる。だから私は
豊かな位に置かれた数字のゼロのように、
これまで重ねた幾千もの礼に、さらに
ただ一言「ありがとう」を添え、
数を増そう。
リオンティーズ礼はしばらく取っておき、
別れるときに払ってくれ。
ポリクシニーズ陛下、それは明日のことです。
留守中に何が起こり、何が芽吹くか、
恐れが私を問い詰めております。国で冷たい風が吹き、
「不吉な芽があまりにそのまま実った」と
言うことになりませんように。それに私は長居して、
あなたのご厚意を疲れさせてしまいました。
リオンティーズ兄弟、われらは君が疲れさせられるほど
柔ではないぞ。
ポリクシニーズこれ以上は滞在できません。
リオンティーズもう一週間だけ。
ポリクシニーズまことに、明日こそは。
リオンティーズならば間を取って半週ずつ譲ろう。
これには反対させぬ。
ポリクシニーズどうか、そう強く迫らないでください。
あなたほどたやすく私を説き伏せられる舌は、
この世に一つとしてありません。今も願いに
やむを得ぬ事情があるなら、たとえ断る必要があろうと
従うでしょう。
だが国事が私を故国へ引きずってゆく。
あなたのご好意でそれを妨げられれば、私には鞭となり、
ここに残ればあなたには負担と面倒になる。
双方を救うため、さらばです、わが兄弟。
リオンティーズ王妃よ、口を縛られたか。そなたも話してくれ。
ハーマイオニ陛下、私はこの方から、残らぬという誓いを
引き出されるまで黙っていようと思っていました。
あなたの引き止め方は冷たすぎます。ボヘミアは
すべて安泰だと確信しているとおっしゃってください。
昨日届いた知らせがそう告げたのです。それを言えば、
この方のいちばん強い守りを打ち破れます。
リオンティーズよく言った、ハーマイオニ。
ハーマイオニご子息に会いたいのだ、と言われれば手ごわいでしょう。
けれど、そうおっしゃるなら行かせましょう。
ただし、それを誓わなければお帰ししません。
糸巻き棒でたたき出して差し上げます。
ですが、王のお姿をあと一週間だけ
お借りするくらいは許されましょう。ボヘミアで
わが夫をお迎えになる折には、こちらから命じて、
お帰りの予定日より一月長く留めてもらいます。
もっとも、リオンティーズ、誓って言いますが、
どの妻が夫を愛するにも、時計の一刻ほどさえ
遅れをとらず、私はあなたを愛しています。残られますね。
ポリクシニーズいいえ、王妃。
ハーマイオニいえ、残ってくださるでしょう。
ポリクシニーズまことに、そうはできません。
ハーマイオニまことに、ですって。
しなやかに曲がる誓いで私をかわすおつもりですね。
たとえ星々を天球から振り落とすほど誓われても、
私はなお「陛下、お帰ししません」と申します。
まことに、行かせません。女の「まことに」も
殿方のものと同じ力を持ちます。まだお帰りになりますか。
客ではなく、囚人として引き止めさせるおつもりですか。
そうなれば、お帰りのとき礼ではなく獄の費用を
払うことになります。さあ、どちらにします。
私の囚人か、客人か。恐ろしい「まことに」にかけて、
どちらかにはなっていただきます。
ポリクシニーズでは、客人に、王妃。
囚人になるには罪を犯さねばならない。
私が罪を犯すより、あなたが罰するほうが
たやすいでしょうから。
ハーマイオニでは獄吏ではなく、
親切な女主人になりましょう。
さあ、お二人が少年だったころの悪戯を
聞かせてください。かわいらしい小殿様たちだったのでしょう。
ポリクシニーズそうでした、美しい王妃。
私たちは、今日と同じ明日だけが
どこまでも続き、
永遠に少年でいられると思っていた二人でした。
ハーマイオニわが夫のほうが、二人のうちでも
腕白だったのではありませんか。
ポリクシニーズ私たちは日の光に跳ねる双子の子羊、
互いに鳴き交わす子羊でした。交換するものは
無垢と無垢だけ。
悪事の教えを知らず、
悪事を働く者がいるとも夢に見なかった。
あの暮らしを続け、か弱い魂が濃い血によって
高ぶることもなかったなら、祖先から受け継いだ
原罪を別にすれば、天に向かって堂々と
「無罪」と答えられたでしょう。
ハーマイオニそのお話からすると、
その後は足を滑らせたのですね。
ポリクシニーズおお、いとも尊い王妃よ。
その後、私たちには誘惑が生まれました。
まだ羽も生えぬあのころ、私の妻は少女であり、
あなたという尊い方も、若い遊び仲間の目の前を
横切ってはいなかったのです。
ハーマイオニ神の恵みも添えてください。
その話から、あなたの王妃と私が悪魔だなどと
結論しないでくださいね。けれど続きをどうぞ。
私たちがあなたがたに犯させた罪なら責任を負いましょう。
ただし、最初に罪を犯した相手も私たち、
その後も過ちを続けた相手も私たちで、
ほかの誰とも道を踏み外さなかったならば。
リオンティーズもう説き伏せたか。
ハーマイオニお残りになります、陛下。
リオンティーズ私が頼んでも残らなかったのに。
ハーマイオニ、愛しい妻よ、そなたがこれほど
役に立つことを言ったのは初めてだ。
ハーマイオニ初めてですって。
リオンティーズいや、一度だけ前にもあった。
ハーマイオニまあ、私が二度もよいことを言ったのですか。前はいつ。
どうか教えて。褒め言葉を詰め込んで、
飼いならした獣のように私を太らせてください。
よい行いを黙ったまま死なせれば、あとに続く
千の善行まで殺してしまいます。
褒め言葉は私たちの賃金です。拍車で打って一町進むより、
優しい口づけ一つで女を千里も走らせられます。
でも本題へ。今の善行は、この方に残っていただいたこと。
では最初の善行は。私の言葉どおりなら、今の善行には
姉がいるはず。その名が「恩寵」ならよいのに。
役に立つことを言ったのが、以前にただ一度ある。
いつです。さあ、聞かせて。知りたくてたまりません。
リオンティーズそれは、気難しい三か月が酸っぱくなりきって
死ぬまで待たされたあげく、ようやくそなたが
白い手を開き、
私の愛にその身を委ねて、
「私は永遠にあなたのもの」と言ったときだ。
ハーマイオニそれこそ恩寵です。
ほら、私は二度も役に立つことを言った。
一度は永遠に王たる夫を得るため、
もう一度はしばらく友を留めるために。
リオンティーズ(傍白)熱すぎる、熱すぎる。
友情を深く交ぜれば、血まで交わる。
胸が震える。心が踊る。
だが喜びではない、喜びでは。
この歓待も、
気さくな顔をし、心からの親しさと寛大さ、
豊かな胸から自由に振る舞うだけなら、
その役をする者にもふさわしい。そこは認めよう。
だが、今のように手のひらを撫で、指をつまみ、
鏡で稽古した笑みを交わし、しまいには
鹿の死を告げる角笛のようにため息をつく。
おお、そんな歓待は、この胸も眉も気に入らぬ。
マミリアス、おまえは私の子か。
マミリアスはい、父上。
リオンティーズまったく。
それでこそ、かわいいやつだ。鼻を汚したのか。
私の鼻の写しだそうだな。来い、小隊長。
身ぎれいにせねばな。家畜ではなく、清潔にな。
もっとも雄牛も、雌牛も、子牛も、みな家畜と呼ぶが。
――まだあいつの手を鍵盤のように弾いている。
――どうした、浮気な子牛め。
おまえは私の子牛か。
マミリアス父上がお望みなら、そうです。
リオンティーズ私そっくりになるには、このごつい頭と角の芽が足りぬ。
それでも卵同士ほどよく似ていると言われる。
女たちがそう言うのだ。
女なら何でも言う。
だが、たとえ女が染めすぎた黒布のように、風や水のように、
自他の境をなくそうとする者が望む賽の目のように
偽りだとしても、この子が私に似ているという言葉だけは
真実だろう。さあ、小姓殿、
大空のような目で私を見ろ。かわいい悪党め。
何より愛しい私の肉片よ。
母親が、まさか。ありうるのか。
妄想よ、おまえの狙いは芯まで突き刺す。
ありえぬとされたことを可能にし、
夢と語り合う。どうしてこんなことが。
おまえは実在しないものと手を組み、
無と連れ立つ。ならば実在するものとも
結びつけると信じてよい。そして実際そうしている。
しかも権限を越えて。それが私にはわかる。
脳を病ませ、額に角を生やすほどに。
ポリクシニーズシチリア王は何を言っているのです。
ハーマイオニ何やら心が乱れておられるようです。
ポリクシニーズどうされました、陛下。
ご気分は。親愛なる兄弟、いかがなさいました。
ハーマイオニひどく思い乱れた
顔をしておられます。
心を動かすことでも、陛下。
リオンティーズいや、本当に何でもない。
時として自然は、どれほど自らの愚かさと優しさをさらし、
固い胸の者たちの慰みものになることか。
息子の顔の線を見ていたら、二十三年を遡り、
まだ半ズボンもはかず、緑のビロードの上着を着た
自分が見えたのだ。
飾り物がよくそうなるように、
主人をかんで危険を及ぼさぬよう、短剣には
覆いを掛けていた。
あのころの私が、この小さな実、
この未熟な豆、この紳士に何とよく似ていたことか。
さあ、立派な友よ、卵を金だと言われて受け取るか。
マミリアスいいえ、父上。戦います。
リオンティーズ戦うか。それなら幸運を授かれ。
兄弟、君も若い王子を、われらがこの子を愛するほど
かわいがっているのか。
ポリクシニーズ国にいるときは、陛下、あの子が私の運動も、喜びも、話題も
すべてです。
あるときは無二の友、次には敵、
追従者、兵士、政治家、何にでもなる。
あの子は七月の一日を十二月のように短くし、
くるくる変わる子供らしさで、血を濁らせそうな
物思いを癒やしてくれます。
リオンティーズこの小騎士も、私には同じ役目をしている。
わが君、私たち二人は歩いてこよう。
そちらは重々しい足取りで行かれるがいい。
ハーマイオニ、われらをどれほど愛するか、わが兄弟をもてなして示してくれ。
シチリアで大切なものは、惜しまず差し出せ。
そなた自身と、この若い放浪者に次いで、
彼は私の心に最も近い。
ハーマイオニお捜しなら、私たちは庭におります。
そこでお待ちしましょうか。
リオンティーズ好きなようにするがよい。空の下にいるかぎり、見つけよう。
リオンティーズ今、私は釣りをしている。気づかれぬよう糸を繰り出してな。
やれ、やれ。
あの女は鼻先を、くちばしを、あいつへ何と持ち上げる。
寛大な夫を持つ妻の大胆さを、何と身にまとっていることか。
リオンティーズもう行ったか。
角は一寸どころか、膝まで、
頭の先まで二股に生えた。
行け、遊べ、坊や。母も遊んでいる、私も遊ぶ。
だが私の役は恥辱にまみれ、その結末は
墓まで私を嘲り、侮蔑と罵声が弔鐘になる。
行け、遊べ、坊や。私の思い違いでなければ、
昔から寝取られ男はいた。
そして今この瞬間、私がこう話しているあいだにも、
妻の腕を取っていながら、留守中に水門を開けられ、
隣人に池を釣られたとは夢にも思わぬ男が大勢いる。
にこにこ顔の隣人殿にな。
いや、慰めにはなる。
私と同じく、望まぬのに門をこじ開けられた男が
ほかにもいるのだから。妻に背かれた男が皆絶望すれば、
人類の十分の一は
首をくくるだろう。
これにつける薬はない。
淫らな星があり、
その力の及ぶところを打つ。しかも恐ろしく強い。
東西南北、どこにでも及ぶ。結論はこうだ。
腹を守る防壁はない。覚えておけ。
敵を荷物ごと中へ入れ、
また外へ出す。
幾千もの男がこの病にかかり、それと知らぬ。
どうした、坊や。
マミリアスみんな、僕は父上に似ていると言います。
リオンティーズそれはいくらか慰めだ。
おい、カミロ、そこにいるか。
カミロはい、陛下。
リオンティーズ行って遊べ、マミリアス。おまえは正直な男だ。
リオンティーズカミロ、あの大王はさらに長く滞在するそうだ。
カミロあの方の錨を留めるには、ひどく骨が折れましたね。
投げても投げても、すぐ戻ってきました。
リオンティーズ気づいていたか。
カミロ陛下の願いでは残ろうとなさらず、
国事のほうが重いと申されました。
リオンティーズそれに気づいたか。
リオンティーズもう耳元でささやき、ひそひそ言っているようだ。
「シチリア王は何とやら」とな。私が最後に味わうころには、
話はすっかり広まっていよう。カミロ、
なぜあの男は残った。
カミロ善き王妃のお頼みによってです。
リオンティーズ王妃の頼みで、だ。
「善き」は当たっていればよいが、
実際には当たらぬ。そのことに気づいた頭は、
おまえのほかにはなかったか。
おまえの考えはよく染み込み、凡庸な木偶より
多くを吸い上げる。鋭い者たちの目にも留まらなかったか。
並外れた頭脳の持ち主の何人かには。
下々の者はこの一件に目がかすんでいるのか。答えろ。
カミロ一件とは、陛下。ボヘミア王が滞在を延ばされることなら、
たいていの者が承知していると思います。
リオンティーズ何だと。
カミロ滞在を延ばされることです。
リオンティーズそうだ、だがなぜだ。
カミロ陛下のお望みと、慈悲深い王妃のお頼みに
お応えするためです。
リオンティーズ応える。
おまえの女主人の頼みに、応えるだと。
もうよい。カミロ、私は心の奥のことを
すべておまえに打ち明けてきた。
寝室での相談でも、
おまえは司祭のように私の胸を清め、私は悔い改めた
信徒としておまえのもとを去った。だがわれらは
おまえの誠実さに欺かれた。誠実に見えるものに
欺かれていたのだ。
カミロどうか、そのようなことは、陛下。
リオンティーズこの件にこだわるなら、おまえは不正直だ。
あるいは正直であろうとするなら、臆病者だ。
必要な道を歩ませず、正直の膝の腱を切る臆病者。
さもなければ、重大な信頼を接ぎ木された臣下でありながら、
務めを怠っていることになる。
それとも愚か者か。
勝負が最後まで行われ、高価な賭け金が奪われるのを
見ていながら、すべて冗談だと思う愚か者だ。
カミロ慈悲深い陛下、
私は怠慢で、愚かで、
臆病なこともありましょう。
どれ一つとして免れる人はおりません。
この世の無数の営みのなかでは、誰の怠慢も、愚かさも、
恐れも、ときには顔を出します。
陛下のご用において、
意図して怠ったことがあるなら、それは私の愚かさです。
懸命に愚か者を演じたことがあるなら、結末をよく量らぬ
私の怠慢です。
実行すれば危ぶまれる一方、行わぬことにも
良心が叫ぶような仕事を恐れたことがあるなら、
それは賢者をもしばしば冒す
恐れです。
陛下、これらは
正直者も免れぬと認められた弱さです。
ですが、どうかもっと明白におっしゃってください。
私の罪を、その顔のまま見せてください。
それでも否定するなら、その罪は私のものではありません。
リオンティーズカミロ、おまえは見なかったのか。
いや、疑うまでもなく見たはずだ。
でなければ、その眼鏡は
寝取られ男の角より分厚い。あるいは聞かなかったのか。
これほど明白な光景なら、噂も黙ってはいられぬ。
あるいは思わなかったのか。
考えぬ男に思考は宿らぬ。
妻が尻軽だと。認めるか。
それとも、目も耳も思考も持たぬと厚かましく否定するなら、
私の妻は誰にでもまたがらせる木馬だと言え。
婚約前に男へ身を任せる麻糸娘と同じ、
下劣な名に値すると言え。そして正しいと証せ。
カミロわが尊い王妃がそのように曇らされる言葉を、
傍らで聞きながら、ただちに報復しないではいられません。
心にかけて申します。陛下がこれまで語られたなかで、
これほど陛下にふさわしくない言葉はありません。
たとえ真実でも、それを繰り返すことは
その罪と同じほど深い罪でしょう。
リオンティーズささやくのは何でもないのか。
頬と頬を寄せ、鼻先を触れ合わせ、
唇の内側で口づけし、笑い出すところを
ため息で止めるのも。
これは貞節が破れる確かな印だ。
足に足を乗せ、隅に隠れ、時計がもっと速く進めと願い、
時も分も、真昼も真夜中も急げと願い、
自分たちの目だけを残して、ほかの目がみな
白内障で見えなくなり、悪事を見られずに済めと願う。
これが何でもないのか。
ならば世界も、その中のすべても無だ。
覆いかぶさる空も無、ボヘミア王も無、
妻も無だ。これが無なら、これらの無にも何一つない。
カミロ陛下、どうかこの病んだ思いを、
早いうちに治してください。
きわめて危険な病です。
リオンティーズ病だと言え。だが真実だ。
カミロいいえ、いいえ、陛下。
リオンティーズ真実だ。
おまえは嘘をつく、嘘をつく。
カミロ、おまえは嘘つきだ。憎らしい。
鈍重な田舎者、頭のない奴隷と呼んでやる。
さもなくば、善悪を同時に目にしながら、
どちらへも傾こうと空に浮かぶ日和見主義者だ。
妻の肝が、その暮らしぶりと同じく腐っていたなら、
砂時計一つが落ちきるまでも生きてはいまい。
カミロ誰が王妃を腐らせるのです。
リオンティーズ首に掛けた勲章のように妻を身につけている男、
ボヘミア王だ。
私のそばに、己の利益や私益と同じ目で
私の名誉を見る忠実な臣下がいれば、
あの行為を終わらせる行為に出るはずだ。
そうだ、おまえもだ。あの男の献酌官であり、
私が低い身分から席に着け、尊敬される地位まで
引き上げたおまえなら、
天が地を見、地が天を見るほど
明らかに、私が傷つけられているのがわかるはず。
杯に薬味を利かせ、敵を永遠の眠りにつかせられる。
その一杯は私には強壮剤となろう。
カミロ陛下、わが君、
私にはできます。
急激に効く薬ではなく、
毒のように悪意を露わにせず、ゆっくり働く一滴で。
ですが、いとも高貴で名誉を体現する王妃に
そのようなひびがあるとは信じられません。
私はあなたをお慕いして――
リオンティーズそれを疑って、腐ってしまえ。
私がそれほど愚鈍で、
思慮も定まらぬと思うのか。
根拠も熟さぬのに、自らこの苦悩を選び、
眠りを守る清らかで白い寝床を汚すと思うのか。
そこが染みれば、鞭、茨、いら草、蜂の針となる。
わが子だと思い、わが子として愛する王子の血筋に、
理由もなく汚名を着せようと思うのか。
私がそんなことをするか。
人がこれほど真実を避けられるか。
カミロ陛下を信じなければなりません。
信じます。そしてボヘミア王を始末しましょう。
ただし、あの方がいなくなった後、陛下は王妃を
初めと同じくご自分の妃として迎え直してください。
ご子息のためにも。
また、陛下の国と同盟する
宮廷や王国で飛び交う中傷を封じるためにも。
リオンティーズおまえの勧めは、
まさに私が定めた道と同じだ。
王妃の名誉には傷一つつけぬ。
カミロでは陛下、お戻りください。
そして宴の友情のように
晴れやかな顔をして、ボヘミア王と王妃のそばに。
私はあの方の献酌官です。
私の手から健やかな飲み物を受け取るようなら、
もはや私を陛下の臣下とはお思いなさらぬよう。
リオンティーズそれだけだ。
やり遂げれば、私の心の半分はおまえのもの。
やらなければ、おまえ自身の心臓が二つに裂ける。
カミロやり遂げます、陛下。
リオンティーズおまえの勧めどおり、友好的に振る舞おう。
カミロおお、哀れな王妃。だが私は、
いったいどんな立場に置かれたのだ。
善きポリクシニーズ王を毒殺せねばならぬ。
その根拠は、己自身に反逆し、臣下もすべて
反逆者にしようとする主君への服従だけ。
この行いには昇進がついてくる。
聖油を注がれた王を討ち、その後栄えた者の例を
幾千も見つけたところで、私はやらぬだろう。
まして青銅にも石にも羊皮紙にも、一人の名さえ残らぬ以上、
悪事そのものにも、この行いを誓わせまい。
宮廷を捨てねばならぬ。実行してもしなくても、
首が折れることは確かだ。
幸運の星よ、今こそ照らせ。
ボヘミア王が来られる。
ポリクシニーズこれは妙だ。ここで受けていた寵愛が
歪み始めたように思える。何も言わぬのか。
ごきげんよう、カミロ。
カミロご機嫌うるわしゅう、陛下。
ポリクシニーズ宮廷に何か知らせは。
カミロ変わったことはございません、陛下。
ポリクシニーズ王はまるで、己と同じほど愛した領土や国を
失ったような顔をしていた。
たった今、私は
いつもの挨拶をしたのだが、王は目をそむけ、
唇をひどく軽蔑する形に曲げ、
私から足早に去った。
こうして私は、王の態度を一変させる何が
生まれつつあるのか、考えるために残された。
カミロ陛下、私は知ることを恐れます。
ポリクシニーズ何だと。知ることを恐れるのか。知らぬのではない。
知っていて言うことを恐れるのだな。
私にわかるように話せ。そういうことだろう。
自分自身に対しては、知っていることを知らぬとはできず、
知ることを恐れるとも言えぬ。善きカミロよ、
変わったおまえの顔色は鏡となって、
私自身の顔色も変わったと映している。
この変化により私まで変えられた以上、私はその原因の一部に違いない。
カミロわれらの幾人かを狂わせる病があります。
ですが、その病の名を口にできません。
しかも、まだ健やかな陛下から
感染した病なのです。
ポリクシニーズ何だと、私から感染した。
私をバジリスクのような目の持ち主にするな。
私は幾千人を見てきた。
その眼差しで幸せになった者はいても、
死んだ者はいない。カミロよ。
おまえはまぎれもなく紳士であり、
学識と経験を備えている。
それは、われらを貴族にした父祖の高名に劣らず、
貴族の身を飾るものだ。頼む。
私が知るべきことを何か知っているなら、
無知の牢へ閉じ込め、隠したままにするな。
カミロお答えできません。
ポリクシニーズ私からうつった病にかかり、
私は健やかなままだと。
答えてもらうぞ。聞け、カミロ。
名誉が人のうちに認めるすべてにかけて命じる。
そして、私のこの願いもその一つだ。
私に忍び寄るどんな危害を察しているのか、
どれほど遠いか、近いか、明かしてくれ。
防げるなら、どう防ぐか。
防げぬなら、どう耐えるのが最善か。
カミロ陛下、申し上げます。
私は名誉にかけて求められ、しかも求めた方を
高潔だと信じておりますから。
ですが私の忠告を
よくお聞きください。私が口にするのと同じ速さで
実行せねば、陛下も私も失われ、すべて終わりです。
ポリクシニーズ続けよ、善きカミロ。
カミロ私は、陛下を殺すよう命じられました。
ポリクシニーズ誰にだ、カミロ。
カミロ王にです。
ポリクシニーズ何のために。
カミロ王は、陛下が王妃に禁じられた触れ方をしたと
考えています。
いえ、ご自分で目にし、陛下を悪事へ誘う手引きまで
したかのように、疑いなくそう誓っています。
ポリクシニーズおお、それが真実なら、この上なく清い私の血は
腐った膠となれ。
私の名は、至高の方を
裏切った者の名と同じ軛につながれよ。
若々しい私の評判は、
どんな鈍い鼻をも刺す悪臭に変われ。
行く先々で近づくことを避けられ、いや、憎まれよ。
かつて聞かれ、書かれたどんな疫病よりも激しく。
カミロ天の星を一つずつ挙げ、
その力のすべてにかけて
王の考えを誓い直させようとしても無駄です。
海に月へ従うなと命じるのと同じこと。
誓いでも忠告でも、
王の愚行の組み立ては揺るがせません。
その土台には王自身の信念が積まれ、
王の肉体が立つかぎり、立ち続けるでしょう。
ポリクシニーズどうしてそんな思いが育ったのだ。
カミロわかりません。ですが、生まれたわけを問うより、
育ってしまったものを避けるほうが安全です。
ですから、この体に包まれた私の誠実を信じられるなら、
その体を人質としてお連れください。
今夜のうちに出発を。
陛下の従者たちには、私からひそかに事情を伝えます。
二人、三人ずつ、別々の裏門から都を出しましょう。
私はわが運命を陛下のご用に託します。
この秘密を明かした以上、ここでの運命は失われました。
ためらってはなりません。
父母の名誉にかけて、
私は真実を申しました。確かめようと留まられるなら、
私にはそばにいる勇気がありません。
王自身の口で死刑を宣告され、その執行を誓われた者と
同じく、陛下の身も安全ではないのです。
ポリクシニーズおまえを信じる。
王の顔に心が見えた。
手を出せ。
私の水先案内人となれ。おまえの地位はこれからも
私のすぐ隣に置こう。船は用意ができている。
一行は二日前から、私がここを発つのを待っていた。
この嫉妬が向けられたのは尊い女性だ。
彼女が類いなく貴いから、嫉妬も大きくなる。
王自身が強大だから、嫉妬も激しい。
しかも、いつも友情を誓ってきた男に辱められたと
思い込んでいるのだから、復讐はなお苦くなる。
恐れが私を覆う。
迅速な行動よ、友となれ。
慈悲深い王妃に慰めを。王の疑念の種にはされても、
邪悪な疑いには何のかかわりもない方だ。
来い、カミロ。私の命をここから運び出してくれるなら、
おまえを父のように敬おう。立ち去ろう。
カミロすべての裏門の鍵に命令する権限が、私にはあります。
陛下、切迫したこの時を逃さずに。
さあ、お急ぎください。
