バプティスタ(トラーニオに向かう。)ルーセンショー殿、今日は約束の日、
キャタリーナとペトルーチオが結婚する日です。
それなのに、婿殿から何の知らせもない。
世間は何と言う? どれほど笑われることか。
司祭が婚礼の式文を唱えようと待っているのに、
花婿がいないなど!
ルーセンショー殿、わが家のこの恥をどう思われます?
キャタリーナ恥をかくのは私だけ。まったく、私は無理やり、
心に逆らって手を差し出し、
癇癪持ちの気違いじみた無礼者と結ばれる。
大急ぎで口説き、結婚はのんびり延ばす男と。
あの人は狂った馬鹿だと、私は言ったわ。
ぶっきらぼうな態度の陰に、意地悪な冗談を隠している。
愉快な男だと評判を立てたいばかりに、
千人の女を口説き、婚礼の日を決め、
宴を用意し、友人を招き、結婚予告まで出す。
でも、口説いた女と結婚する気などないのよ。
これから世間は、哀れなキャタリーナを指さして言うわ。
「ほら、あれが気違いペトルーチオの妻だ。
本人が来て、結婚してくれる気になればの話だが!」
トラーニオどうか辛抱を、キャタリーナ、バプティスタ殿も。
命にかけて、ペトルーチオに悪気はありません。
何かの災難で、約束どおり来られないのでしょう。
ぶっきらぼうでも、大変賢い男です。
陽気ですが、それでも誠実です。
キャタリーナそれでも、キャタリーナがあの人に会わなければよかった!
バプティスタ行きなさい。今は泣くのも責められぬ。
これほどの侮辱なら、聖人さえいら立たせる。
まして、お前のように辛抱のできぬじゃじゃ馬ならな。
ビオンデロご主人様、ご主人様! 知らせです、古い知らせ、それでいて誰も聞いたことのない知らせです!
バプティスタ新しくて古いのか? どういうことだ?
ビオンデロだって、ペトルーチオが来ると聞いたら、知らせでしょう?
バプティスタ来たのか?
ビオンデロいいえ、まだです。
バプティスタでは何だ?
ビオンデロ来るところです。
バプティスタいつ、ここへ着く?
ビオンデロ私が今立っている所に立って、あなたをそこに見る時です。
トラーニオそれより、古い知らせとは何だ?
ビオンデロそれが、ペトルーチオは新品の帽子に古い胴着、三度も裏返した古い半ズボン、昔はろうそく入れだった長靴を履いて来ます。片方は留め金、もう片方は紐結び。町の武器庫から出した古いさび刀は、柄が折れ、鞘先もなく、吊り紐も二本切れています。馬には虫食いの古鞍を載せ、鐙は左右ちぐはぐ。そのうえ馬は鼻疽にかかり、背骨まで黴が生えそう。口蓋は腫れ、顔面病にかかり、関節はこぶだらけ、飛節内腫と飛節外腫を併発し、黄疸で筋が浮き、耳下腺炎は手遅れ。よろめき病ですっかり弱り、腹には虫が食い込み、背は垂れ、肩は外れています。前脚は内股で、はみは半分止まらず、頭絡は羊革。つまずかぬよう引くたびに何度も切れ、今は結び目だらけ。腹帯は六度も継ぎはぎされ、婦人用ビロードの尻帯には、持ち主の頭文字二つが鋲できれいに打ってあり、ところどころ荷造り紐で繕ってあります。
バプティスタ誰が一緒に来る?
ビオンデロああ、従者です。上から下まで馬と同じ飾り立てです。片脚には麻布の脚絆、もう片脚には粗毛織りの長靴下、赤と青の布切れを靴下留めにしています。古帽子には、羽根の代わりに「四十の空想という気質」という歌謡を突き刺している。怪物です、衣装から何から、まったくの怪物。キリスト教徒の従僕にも、紳士の従者にも見えません。
トラーニオ何か奇妙な気まぐれで、そんな格好をしたのだろう。
もっとも、普段から粗末な服を着ることは多い。
バプティスタどんな姿でも、来たのならうれしい。
ビオンデロいえ、まだ来ていませんよ。
バプティスタ来ると言ったではないか?
ビオンデロ誰が? ペトルーチオが来た、と?
バプティスタそうだ、ペトルーチオが来たと。
ビオンデロいいえ。馬が来ます、その背に本人を載せて、と言ったんです。
バプティスタ同じことではないか。
ビオンデロいや、聖ジェイミー様にかけ、
一ペニー賭けますよ。
馬と人なら、
一つより多い。
それでも大勢ではない。
ペトルーチオさあ、皆はどこだ? 誰かいるか?
バプティスタようこそ、おいでくださいました。
ペトルーチオだが、よい格好で来たわけではない。
バプティスタそれでも、足を引きずってはいませんな。
トラーニオ私が願っていたほど、
よいお召しではありません。
ペトルーチオもっとよい服でも、俺はこうして駆け込んだでしょう。
それよりケイトはどこだ? 愛しい花嫁はどこだ?
お父上、ごきげんは? 皆さん、顔をしかめているようだ。
この立派な方々は、なぜじろじろ見る?
驚くべき記念碑でも、
彗星か、珍しい怪物でも見たように?
バプティスタ今日は婚礼の日だとご存じでしょう。
初めは、来られぬのではと悲しんでいた。
今は、何の用意もなく来られて、なお悲しい。
何ということ、その服を脱ぎなさい。ご身分の恥、
厳かな祝いの日には目の毒です!
トラーニオそして、どんな重大な事情があって
これほど長く妻から遠ざかり、
ご自身とも思えぬ姿で来られたのか、教えてください。
ペトルーチオ語るには長く、聞くにはつらい話です。
約束を守り、来たというだけで十分でしょう。
一部、道を外れざるを得ませんでしたが。
いずれ暇な時に事情をお話しすれば、
きっとご納得いただけます。
それよりケイトはどこだ? 長く離れすぎた。
朝も過ぎていく。教会へ行く時間だ。
トラーニオそんな礼を欠く服で花嫁に会ってはいけません。
私の部屋へ行き、私の服をお召しください。
ペトルーチオいや、まったく。このままで会う。
バプティスタしかし、その姿で結婚はなさいますまいな。
ペトルーチオいや本当に、このままです。だから、もう何も言わぬよう。
花嫁が結婚するのは私で、私の服ではない。
妻が私という夫に耐えねばならぬところも、
この粗末な装いのように直せたなら、
ケイトにもよく、私にはもっとよいでしょう。
だが、あなた方とおしゃべりしているとは、何と馬鹿な私だ。
花嫁に朝の挨拶をして、
愛の口づけで権利を封じるべき時なのに!
トラーニオあの狂った衣装には、何か考えがあるのでしょう。
できるものなら、教会へ行く前に、
もっとよい服を着るよう説得しましょう。
バプティスタ後を追い、どうなるか見届けよう。
トラーニオだが、娘の愛に加えて、我々には
父親の承認も必要です。そのため、
先ほどあなたに申し上げたとおり、
一人の男を見つけます。誰でも構いません。
我々の都合に合う役を着せましょう。
その男がピサのヴィンセンショーとなり、
私が約束した以上の財産を、
ここパドヴァで保証するのです。
そうすれば、あなたは静かに望みをかなえ、
父の同意を得て、愛しいビアンカと結婚できます。
ルーセンショー同じ教師のあの男が、
ビアンカの足取りをあれほど厳しく見張っていなければ、
密かに結婚してしまうのがよいと思う。
ひとたび式を挙げれば、世界中が反対しても、
世界中を敵に回して、わがものを守ってみせる。
トラーニオそのことも、順を追って調べ、
この企てで好機をうかがいましょう。
白髭のグレミオを出し抜き、
何でも細かく探る父親ミノーラを出し抜き、
気取った音楽家、恋するリーショーを出し抜く。
すべて、わが主人ルーセンショーのために。
トラーニオグレミオ殿、教会から戻られたのですか?
グレミオ学校から帰った時より、よほど喜んでな。
トラーニオ花嫁と花婿は、こちらへ戻るのですか?
グレミオ花婿だと? たしかに婿だが、
不平だらけの荒婿だ。あの娘にも分かるだろう。
トラーニオ娘より意地悪に? そんなことはあり得ない。
グレミオ奴は悪魔、悪魔、本物の魔王だ。
トラーニオ娘も悪魔、悪魔、悪魔の母親です。
グレミオいや、奴に比べれば子羊、鳩、無邪気な馬鹿だ!
お話ししよう、ルーセンショー殿。司祭が、
キャタリーナを妻にするかと尋ねるところで、
奴は「するとも、神の傷にかけて」と答え、ひどく大声で誓った。
驚いた司祭が本を落とし、
拾おうとかがむと、
気の狂った花婿が横面を張り、
司祭も本も、本も司祭も、床へ倒れた。
すると奴は「拾いたい奴が拾え」と言ったのだ。
トラーニオ司祭が起き上がった時、娘は何と言いました?
グレミオ震え、身を揺らしていた。奴が足を踏み鳴らし、悪態をつき、
まるで司祭が自分をだますつもりだと言わんばかりだったからな。
だが、数々の儀式が済むと、
奴は葡萄酒を求めた。「乾杯!」と言う様子は、
船に乗り、嵐のあとで
仲間と酒盛りをしているかのようだった。甘い葡萄酒を飲み干し、
酒に浸したパンを、教会番の顔へ全部投げつけた。
理由はほかでもない。
男の髭が薄く、飢えて見え、
奴の飲むパンを欲しがっているようだったからだ。
それから花嫁の首に腕を回し、
大きな音を立てて唇に口づけたものだから、
離れる時、その音が教会中に響き渡った。
私は恥ずかしくなり、そこから先に帰ってきた。
群衆も、じきに後から来るはずだ。
あれほど狂った結婚式は、かつてなかった。
聞け、聞け! 楽師たちの演奏が聞こえる。
ペトルーチオ皆さん、友人方、ご尽力に感謝します。
今日、私と一緒に食事をしようと、
婚礼のごちそうをたっぷり用意されたのは承知しています。
しかし、急ぎの用で、ここを発たねばなりません。
そこで、この場でお別れを申します。
バプティスタまさか、今夜ここを発つおつもりですか?
ペトルーチオ今日、日が暮れる前に行かねばなりません。
驚かぬように。私の用件をご存じなら、
引き留めるどころか、行けと頼まれるでしょう。
そして、誠実な皆さん、感謝します。
この上なく辛抱強く、優しく、貞淑な妻へ、
この私を与えるところを見届けてくださった。
お父上と食事をし、私の健康を祝して飲んでください。
私は出発せねばならぬ。皆さん、さらば。
トラーニオどうか、食事が済むまでお残りください。
ペトルーチオそれはできん。
グレミオ私からもお願いします。
ペトルーチオできません。
キャタリーナ私からお願いします。
ペトルーチオよかろう。
キャタリーナ残る気になったの?
ペトルーチオ君が残れと頼むのは構わん。
だが、どれほど頼まれても、残ることはない。
キャタリーナ私を愛しているなら、残って。
ペトルーチオグルーミオ、馬を。
グルーミオはい、旦那様、用意できています。燕麦が馬を食べちまいました。
キャタリーナそれなら、
何をしようと、私は今日は行かない。
明日も、私自身が行きたくなるまでは行かないわ。
扉は開いているわよ。あなたの道はあちら。
長靴の革が青いうちに、さっさと歩いて行けばいい。
私は、自分でそうしたくなるまで出て行かない。
あなたはきっと、陽気で横暴な花婿になるでしょうね。
初めから、こうもずけずけ権力を振るうのだから。
ペトルーチオおお、ケイト、落ち着け。頼む、怒るな。
キャタリーナ怒るわ。それがあなたに何の関係が?
お父様、黙っていて。私の都合がつくまで、この人は残るわ。
グレミオさあ、いよいよ効き始めたぞ。
キャタリーナ皆さん、婚礼の食事へお進みください。
女は抵抗する気概を持たなければ、
馬鹿にされるのだと分かりました。
ペトルーチオケイトの命令どおり、皆さんは進んでください。
花嫁に付き添う者たちよ、言葉に従え。
宴へ行き、騒ぎ、威張り、
娘の処女性を祝して、なみなみと酒を飲め。
狂って陽気に過ごすか、首を吊るすがいい。
だが、かわいいケイトは俺と来てもらう。
おい、威張るな、足を踏み鳴らすな、にらむな、いら立つな。
俺は自分のものの主人になる。
この女は俺の品、俺の動産、俺の屋敷、
家財、畑、納屋、
馬、牛、ロバ、俺の何もかもだ。
ここに立っている。触れるものなら触れてみろ。
パドヴァで俺の道をふさぐなら、
どれほど誇り高い男でも、訴えてやる。グルーミオ、
武器を抜け。俺たちは盗賊に囲まれたぞ。
男なら、女主人を救い出せ。
恐れるな、かわいい娘。誰にも触れさせない、ケイト。
百万人を相手に、俺が盾となって守ってやる。
バプティスタいや、行かせよう。何とも穏やかな二人だ。
グレミオ二人が急いで行かなければ、笑い死にするところだった。
トラーニオ狂った縁組の中でも、あれほどのものはない。
ルーセンショーお嬢様、姉上についてどう思われます?
ビアンカ自分が狂っているから、狂った相手と結ばれたのね。
グレミオ間違いない。ペトルーチオはケイトに首ったけだ。
バプティスタ隣人方、友人方、花嫁と花婿がいないので、
食卓の席を埋める必要はありますが、
宴の甘い菓子には何の不足もないとご存じでしょう。
ルーセンショー殿、あなたが花婿の席に座り、
ビアンカを姉の席に座らせましょう。
トラーニオ愛しいビアンカに、花嫁の稽古をさせるのですか?
バプティスタそうしよう、ルーセンショー殿。さあ皆さん、参りましょう。
