ブレイクンベリー今日はまた、ずいぶんと沈んだお顔をしておられますな。
クラレンスああ、みじめな夜を過ごしたのだ。
醜い光景と、身の毛もよだつ夢だらけの夜をな。
キリストを信じる身として、誓って言うが、
あんな夜をもうひと晩過ごすくらいなら、
幸せな日々の詰まった世界ひとつが買えるとしても御免だ。
それほど、陰惨な恐怖に満ちた時間だった!
ブレイクンベリーどんな夢だったのです? ぜひお聞かせ願いたい。
クラレンス夢の中で、わたしはロンドン塔を抜け出して、
船でブルゴーニュへ渡ろうとしていた。
連れは弟のグロスターだ。
弟がわたしを船室から誘い出し、甲板を
歩こうと言う。そこからふたりでイングランドを眺め、
ヨークとランカスターの戦のさなか、
われらの身に降りかかった恐ろしい出来事を、
千も数え上げた。ふらつく足で
甲板の上を歩き回るうち、
グロスターがよろめいた気がした。倒れる拍子に、
支えようとしたわたしを打ち、船から海へ——
逆巻く大海のうねりの中へ、突き落としたのだ。
ああ、神様! 溺れるとは、なんという苦しみか!
耳の中では、すさまじい水の轟音!
目の中には、醜い死の光景の数々!
千の恐ろしい難破船の残骸を見た気がした。
魚に喰われる一万の死人ども。
金の延べ棒、巨大な錨、真珠の山、
値も付けられぬ宝石、数知れぬ宝玉が、
海の底一面に散らばっていた。
髑髏の中に納まっているものもあった。かつて目が
住んでいたその穴ぼこには、目を嘲るかのように、
きらめく宝石が入り込み、
ぬめる深海の底に色目を使っては、
あたりに散らばる死人の骨をからかっていた。
ブレイクンベリー死の瀬戸際に、深海の秘密を眺め回す
暇がおありでしたか?
クラレンスあった気がするのだ。何度も魂を
明け渡そうとあがいた。だが意地悪な潮が
魂を閉じ込めて、外へ出そうとせん。
空しく広くさまよう大気を求める魂を、
あえぐわたしの図体の中に押し込めるのだ。
体は魂を海へ吐き出そうと、張り裂けんばかりだった。
ブレイクンベリーその苦悶で、お目覚めにならなかったのですか?
クラレンスそれがならんのだ。夢は命の先まで延びていった。
ああ、それから魂の嵐が始まった。
わたしの魂は、詩人の書く、あの恐ろしい渡し守と共に、
陰鬱の流れを渡った気がした、
果てしない夜の王国へと。
その国で、新参のわたしの魂を最初に迎えたのは、
偉大な舅、名高いウォリックだった。
大声で叫んだよ、「偽誓の報いに、どんな笞を
この闇の王国は、不実なクラレンスに振るえよう?」
そして消えた。次にさまよい寄ってきたのは、
天使のような影——輝く髪を
血に浸した姿で、甲高く叫んだ、
「クラレンスが来た。不実な、心変わりの、誓い破りのクラレンス、
テュークスベリーの野でわたしを刺した男だ。
捕らえろ、復讐の女神たち、責め苦にかけろ!」
そのとたん、汚らわしい悪鬼の軍勢が
わたしを取り囲み、耳元で吠え立てた、
あまりのおぞましい叫びに、その音だけで
震えながら目が覚めた。しばらくの間は、
自分が地獄にいるとしか思えなかった。
それほど恐ろしい痕を、夢が残したのだ。
ブレイクンベリーご無理もありません、それは恐ろしかったでしょう。
お話を聞くだけで、わたしも怖くなりました。
クラレンスああ、ブレイクンベリー、わたしのしてきた数々のこと——
今やわたしの魂に不利な証言を立てるそれらは、みな
エドワードのためだった。それがこの報いよう、見てくれ!
おお神よ! 深い祈りをもってしてもあなたの怒りが解けず、
どうしてもわたしの悪行に報いをお下しになるなら、
その御怒りは、どうかわたしひとりの上に。
おお、罪のない妻と、哀れな子供たちはお助けを!
頼む、看守どの、そばにいてくれ。
魂が重い。できれば眠りたいのだ。
ブレイクンベリーおそばにおります。閣下に安らかなお休みを!
ブレイクンベリー悲しみは季節も憩いの時間も打ち壊し、
夜を朝に、真昼を夜に変えてしまう。
君侯の栄光とは、称号だけのもの、
内なる労苦と引き換えの、うわべの誉れにすぎん。
そして感じられもしない空想の代償に、
落ち着く暇もない気苦労の山をしょい込まれる。
してみると、高貴な身分と卑しい名の間には、
外向きの評判のほかに、違いはひとつもない。
殺し屋一おい! 誰かいるか?
ブレイクンベリー何者だ、一体。それに、どうやってここへ入った?
殺し屋一クラレンスと話がしたくてね、ここへは自分の足で来た。
ブレイクンベリーなんと、それだけか、口上は?
殺し屋二旦那、口上は長いよりは短いほうがいい。委任状をお見せしろ。話はそれまでだ。
ブレイクンベリーこれによれば、わたしは高貴なクラレンス公爵を
おまえたちの手に引き渡せと命じられている。
これが何を意味するかは、詮索すまい。
その意味について、潔白でいたいのでな。
これが鍵だ。公爵はあそこで眠っておられる。
わたしは王のもとへ行き、こうしてお役目を
おまえたちへ引き渡したと、ご報告申し上げる。
殺し屋一そうしなせえ、それが利口ってもんだ。ごきげんよう。
殺し屋二どうする、眠ってるところを刺すか?
殺し屋一やめておけ。目を覚ましたとき、卑怯なやり口だと言われるぞ。
殺し屋二目を覚ましたとき、だと! 馬鹿め、最後の審判の日まで目は覚まさねえよ。
殺し屋一だからさ、そのとき、眠ってるところを刺したなと言われる。
殺し屋二「審判」という言葉を口にしたら、なにやら良心の呵責ってやつが湧いてきた。
殺し屋一何だ、怖くなったのか?
殺し屋二殺すのは怖かねえよ、許可証があるんだ。怖いのは、殺して地獄行きになることさ。こっちは、どんな許可証でも守っちゃくれねえ。
殺し屋一腹は据わってると思ってたぜ。
殺し屋二据わってるとも、生かしておくほうにな。
殺し屋一グロスター公爵のところへ戻って、そう言ってこい。
殺し屋二まあ待て、頼むから。この信心発作もじきに変わるさ。いつもなら、二十数える間ももたねえんだ。
殺し屋一で、今の気分はどうだ?
殺し屋二正直、まだ良心の澱みてえなものが、いくらか残ってる。
殺し屋一仕事が済んだあとの報酬を思い出せ。
殺し屋二ちくしょう、あいつは死ぬぜ。報酬を忘れてた。
殺し屋一その良心とやらは、今どこにある?
殺し屋二グロスター公爵の財布の中よ。
殺し屋一じゃあ、公爵が報酬をくれようと財布を開けたとたん、おまえの良心は飛んでいっちまうな。
殺し屋二行かせておけ。あんなものを泊めてやる者は、いてもわずかさ。
殺し屋一また舞い戻ってきたらどうする?
殺し屋二関わり合いにはならねえよ。ありゃ危険な代物だ。人を臆病にしやがる。盗みをすりゃ責め立てる。悪態をつきゃ止めに入る。隣の女房と寝りゃ、ばらしやがる。人の胸の内で謀反を起こす、顔を赤らめた恥ずかしがり屋の魂よ。障害物だらけにしやがるんだ。あいつのせいで、いっぺん、拾った金貨入りの財布を返しちまった。あれを飼っておくと、誰でも乞食になっちまう。危険物として、どこの町からも都市からも追い出されてる。まっとうに暮らそうって者はみんな、自分だけを頼りに、良心なしで生きようと励んでるのさ。
殺し屋一ちくしょう、今まさに俺の肘元に来て、公爵を殺すなと説教していやがる。
殺し屋二その悪魔を心に捕まえて、言うことを信じるな。ため息をつかせようと、取り入ってくるだけだ。
殺し屋一心配するな、俺は頑丈にできてる。あいつごときに負けるものか。
殺し屋二評判を重んじる、いっぱしの男の言い草だ。さて、仕事にかかるか?
殺し屋一剣の柄で脳天を一発くらわせろ。それから隣の部屋のマルムジー酒の樽に漬け込んでやる。
殺し屋二そいつは名案! 酒浸しのパン切れにしてやろうぜ。
殺し屋一静かに! 動いたぞ。やるか?
殺し屋二いや、まずは話をしてみよう。
クラレンスどこにいる、看守? 葡萄酒を一杯くれ。
殺し屋二葡萄酒なら、たっぷり差し上げますよ、閣下、じきにね。
クラレンス何者だ、一体?
殺し屋二人間ですよ、あなた様と同じ。
クラレンスだが、わたしと違って、王家の血筋ではあるまい。
殺し屋二だが、あなた様と違って、忠義の血筋でね。
クラレンス声は雷のようだが、顔つきは卑しいな。
殺し屋二声は今、王のもの。顔は自前でございますから。
クラレンスなんと暗い、なんと殺気立った物言いだ!
その目はわたしを脅している。なぜ青ざめている?
誰の差し金だ? 何をしに来た?
ふたりその、その、その——
クラレンスわたしを殺しに、か?
ふたりええ、ええ。
クラレンスそれを口にする度胸さえ、ろくにないおまえたちだ、
してみると、実行する度胸などあるはずもない。
友よ、わたしがおまえたちに、何の恨みを買った?
殺し屋一あっしらの恨みは買っておりません。買ったのは王の恨みで。
クラレンス王とは、また和解できるはずだ。
殺し屋二できませんね、閣下。だから、死ぬ支度をなせえ。
クラレンス世界中の人間の中から選び抜かれて、
罪もない者を殺しに来たのか? わたしの罪は何だ?
わたしを告発する証拠がどこにある?
どこの正式な陪審が、渋面の判事に
評決を差し出した? 誰が言い渡した、
哀れなクラレンスに死の苦い宣告を?
法の手続きで有罪ときまらぬうちから、
死で脅すのは、法にもとることこの上ない。
命じるぞ、われらの重い罪のために流された
キリストの尊い血にすがって、救いを望むなら、
立ち去れ、わたしに手をかけるな。
おまえたちが引き受けた仕事は、地獄行きの仕事だ。
殺し屋一あっしらのやることは、ご命令でやること。
殺し屋二そのご命令を下したのは、王様だ。
クラレンス心得違いの家来め! 王の中の王が、
その律法の石板に命じておられる、
汝、殺すなかれ、と。それをおまえは、
神の勅令を蹴って、人間の命令を果たすのか?
気をつけろ。神はその手に復讐を握り、
律法を破る者どもの頭上に投げ落とされるのだ。
殺し屋二その同じ復讐を、神はあんたの上に投げ落とすのさ、
偽誓の罪、そして人殺しの罪の報いにな。
あんたは聖体を拝領して誓ったはずだ、
ランカスター家の側に立って戦うと。
殺し屋一そのくせ、神の御名への裏切り者として、
その誓いを破り、裏切りの刃で
主君の息子の腹をかっさばいた。
殺し屋二慈しみ守ると誓った、その相手のな。
殺し屋一神様の恐ろしい律法を、よくもあっしらに説けたものだ、
てめえがそれを、これ以上ないほど破っておいて。
クラレンスああ! 誰のために、わたしはあの悪行を犯した?
エドワードのため、兄のため、あの人のためだ。
いいか、おまえたち、
そのことでわたしを殺せと、兄が寄こすはずはない。
この罪にかけては、兄もわたしと同じ深みにいるのだ。
神がこの所業に報復なさるおつもりなら、
おお、よく知っておけ、神は公然となさる。
その力ある御腕から、争いを横取りするな。
神は御自身を怒らせた者を断ち切るのに、
まわりくどい手も、法にもとる手もお使いにならぬ。
殺し屋一なら、誰があんたを血まみれの手先に仕立てたんだ、
春の若木のような、勇ましいプランタジネットの若君を、
あの気高い初陣の君を、あんたが叩き殺したときは?
クラレンス兄への愛と、悪魔と、わたしの逆上だ。
殺し屋一あんたの兄上の愛と、あっしらの務めと、あんたの罪とが、
今あっしらをここへ駆り立てた、あんたを屠るためにな。
クラレンスああ、兄を愛するなら、わたしを憎むな。
わたしは兄の弟で、兄を心から愛している。
報酬で雇われたのなら、引き返して、
弟のグロスターのところへ行くがいい。
わたしを生かしたことで、あれはおまえたちに、
死の報せを聞いたエドワードよりも、よい褒美をくれるはずだ。
殺し屋二思い違いですぜ。あんたの弟のグロスターは、あんたを憎んでる。
クラレンスいや、違う、あれはわたしを愛して、大事に思ってくれている。
わたしの使いとして、あれのところへ行ってくれ。
ふたりええ、そういたしますとも。
クラレンス伝えてくれ——気高いわれらの父ヨークが、
戦勝の腕で三人の息子を祝福し、
互いに愛し合えと、魂の底から言い渡されたとき、
父は兄弟の仲がこうも裂かれようとは、思いもしなかったと。
グロスターにそう言って考えさせてみろ、あれは泣くだろう。
殺し屋一ええ、石臼の涙をね。あっしらに、そう泣けと教えてくれた人ですから。
クラレンスああ、あれの悪口を言うな、心の優しい男なのだ。
殺し屋一へえ、まったくで、
刈り入れ時の雪ほどにね。自分をだましなさんな。
あっしらをここへ、あんたを屠れと寄こしたのは、当のその人ですぜ。
クラレンスそんなはずはない。別れ際に、あれは
わたしを両腕に抱きしめ、むせび泣きながら誓ったのだ、
わたしの釈放のために力を尽くすと。
殺し屋二そのとおりにしてなさるんで。この世の奴隷暮らしから、
天国の喜びへと、あんたを釈放しなさるんだから。
殺し屋一神と和解しなせえ、閣下、死んでもらわにゃならねえんで。
クラレンス神と和解せよとわたしに説くだけの、
聖なる心をその魂に持ちながら、
おまえは自分の魂には、そうも盲目なのか、
わたしを殺して神に戦を仕掛けるとは?
ああ、考えてみろ、この仕事をおまえたちにけしかけた男は、
やがてこの仕事ゆえに、おまえたちを憎むぞ。
殺し屋二どうする?
クラレンス思い直せ、そして魂を救え。
殺し屋一思い直す、だと! そいつは腰抜けの、女子供のすることだ。
クラレンス思い直さぬのは、獣の、野蛮人の、悪魔のすることだ。
おまえたちのどちらでもいい、もし君侯の息子に生まれ、
今のわたしのように自由を奪われ閉じ込められて、
おまえたちのような殺し屋がふたり来たなら、
命乞いをせずにいられるか?
おい、おまえ、その顔に哀れみの色が見えるぞ。
おお、その目が嘘つきでないのなら、
わたしの側に立って、共に命乞いをしてくれ、
おまえがわたしの窮地にいたら、そう乞うであろうとおりに。
物乞いする王子を、哀れまぬ物乞いがどこにいる?
殺し屋二後ろをご覧なせえ、閣下。
殺し屋一これでも喰らえ、これでも。それで足りなきゃ、
殺し屋一中のマルムジー酒の樽で溺れさせてやる。
殺し屋二血なまぐさい仕事だ、それも死に物狂いの片づけ方!
ピラトのように、俺もこの手を洗い流してえよ、
この重い重い罪の殺しの穢れを!
殺し屋一どういうつもりだ、なぜ手を貸さねえ?
畏れながら公爵に、てめえの怠けっぷりを申し上げるぞ!
殺し屋二その公爵に、俺が兄上を救ったと申し上げられたらなあ!
報酬はてめえが取れ。そして俺がこう言ったと伝えろ——
公爵の兄殺しを、俺は悔いている、とな。
殺し屋一俺は悔いんね。行っちまえ、この腰抜けめ。
さて、死体はどこかの穴にでも隠しておくか、
公爵が埋葬のお指図をなさるまでな。
報酬をもらったら、ずらかるとしよう。
こいつは必ず露見する。ここに長居は無用だぜ。
