オセローこれは大義だ、これは大義なのだ、わが魂よ——
その名を口にはさせないでくれ、純潔な星々よ——
これは大義なのだ。それでも、あれの血は流すまい。
雪よりも白い、あの肌に傷はつけまい、
墓碑の雪花石膏のように滑らかな肌に。
それでも、あれは死なねばならぬ。さもなくば、もっと多くの男を裏切る。
灯を消せ、それから、この灯を消すのだ——
燃える灯りの使いよ、おまえの火を消しても、
悔いたなら、もう一度
もとの光を戻してやれる。だがおまえの灯を消してしまえば、
自然の粋を極めた、精巧きわまる作品よ、
おまえの光をふたたび点せる
プロメテウスの火が、どこにあるのか私は知らない。薔薇を摘んでしまえば、
二度と命の育ちを与えることはできない。
枯れるほかはないのだ——枝についたまま、香りを嗅ごう。
オセローああ、香しい息だ。正義の女神さえ、
剣を折れと説き伏せられそうになる。もう一度、もう一度だ。
死んだ後も、このままでいてくれ。私はおまえを殺し、
そのあとで愛そう。もう一度、これが最後だ——
これほど甘いものが、これほど命取りだったことはない。泣かずにはいられぬ、
だがこれは残酷な涙だ。この悲しみは天のもの、
愛するところを打つのだから。目を覚ましたな。
デズデモーナどなた。オセロー様?
オセローああ、デズデモーナ。
デズデモーナお床にいらっしゃいますか、あなた。
オセロー今夜の祈りは済ませたか、デズデモーナ。
デズデモーナはい、あなた。
オセローまだ天と和解の済んでいない罪に、
心当たりがあるのなら、
今すぐ赦しを願っておけ。
デズデモーナまあ、あなた、それはどういう意味ですの。
オセローいいから、済ませろ、手短にな。私はそこを歩いている。
支度のできていない魂を殺したくはない。
そうだ、天よ、お赦しを——おまえの魂までは殺したくない。
デズデモーナ殺す、とおっしゃるの。
オセローああ、言った。
デズデモーナそれなら天よ、
わたくしをお憐れみください。
オセローアーメン、心の底からそう祈る。
デズデモーナそうおっしゃるなら、わたくしを殺しはなさらないでしょう。
オセローふん。
デズデモーナそれでも、恐ろしい。あなたのその目が
そんなふうに動くときは、恐ろしいことが起こる——なぜ恐れるのか、わからない、
やましいことなど何も知らないのだから。それでも、恐ろしいと感じるのです。
オセローおまえの罪を思い出せ。
デズデモーナ罪といえば、あなたを愛したことだけ。
オセローそうだ、その罪でおまえは死ぬのだ。
デズデモーナ愛したことを理由に殺すなんて、そんな死に方は道に外れています。
ああ、なぜそんなに下唇を噛みしめるのです。
血なまぐさい激情が、あなたの身体じゅうを震わせている——
恐ろしい前触れ。でも、そう願います、願いますわ、
わたくしに向けられたものではないと。
オセロー黙れ、じっとしていろ。
デズデモーナはい。——いったい、何があったのです。
オセロー私があれほど大切にして、おまえに贈ったあのハンカチを、
おまえはキャシオーにやった。
デズデモーナいいえ、命と魂にかけて、違います。
あの人を呼んで、お尋ねください。
オセローいとしい魂よ、気をつけろ、
偽誓には気をつけるのだ。おまえは今、死の床にいる。
デズデモーナええ——でも、まだ死ぬ床ではないはずです。
オセローいや、今すぐだ。
だから、罪を包み隠さず告白しろ。
ひとつひとつ、誓いを立てて否んでみたところで、
私が呻き苦しんでいる、この強い確信は
取り除けもしなければ、握り潰せもしないのだ。おまえは死ぬ。
デズデモーナそれなら主よ、わたくしをお憐れみください。
オセローアーメン、と言おう。
デズデモーナあなたも、憐れんでくださいまし。わたくしは生まれてこのかた、
一度もあなたを裏切ってはおりません。キャシオーを愛したことなど、
天がお許しになる、ごく当たり前の情け以上には、
一度もありません。形見の品をあげたことも、決して。
オセロー天にかけて、私のハンカチをあの男の手の中に見たのだ。
おお、偽誓の女め。おまえは私の心を石に変え、
私のやろうとしていることを——生贄のつもりだったものを——
人殺しと呼ばせる気か。
私はあのハンカチを見た。
デズデモーナなら、あの人が拾ったのです。
わたくしはあげておりません。ここへ呼んでください。
本当のことを話させてください。
オセローあの男は白状した。
デズデモーナ何を、あなた。
オセローおまえと、通じたとな。
デズデモーナまさか。道ならぬ仲だと?
オセローああ。
デズデモーナあの人は、そんなことは言いません。
オセロー言うまいよ。あの口は塞がれた。
正直者のイアーゴーが、手を打ってくれたのでな。
デズデモーナああ、恐ろしい予感が答えを言う——まさか、死んだのですか。
オセローあの男の髪の毛一本一本が命だったとしても、
私の大いなる復讐は、そのすべてを呑み込んでも足りなかった。
デズデモーナああ、あの人は罠にかけられた。わたくしも、おしまいだ。
オセロー黙れ、売女め。私の目の前で、あの男のために泣くのか。
デズデモーナ追放してください、あなた。でも殺さないで。
オセローくたばれ、売女。
デズデモーナ殺すなら明日。今夜だけは生かして。
オセローまだ抗うか——
デズデモーナほんの半時間だけ。
オセロー始めたからには、途中でやめられん。
デズデモーナお祈りひとつ、唱える間だけ。
オセローもう遅い。
エミリア(奥で。)旦那様、旦那様。もし、旦那様、旦那様。
オセロー何の音だ。——死んでいない? まだ死にきっていないのか。
残酷な私にも、慈悲はある。
苦痛を長引かせたくはない。——こうだ、こう。
エミリア(奥で。)もし、旦那様、旦那様。
オセロー誰だ。
エミリア(奥で。)ああ、旦那様、ひとことお話が。
オセローああ、エミリアだ。——今行く。——死んだな。
キャシオーの死を知らせに来たのだろう。
騒ぎはここまで聞こえていた。——おや、もう動かないのか。
墓のように静かだ。入れてやるべきか。それでいいのか——
また動いた気がする——いや、違う。どうするのが一番いい。
入って来れば、きっと妻に話しかける——
妻? 妻だと? どの妻だ。私に妻はいない。
おお、耐えられぬ。おお、重い時間よ。
今こそ、日と月の
大きな蝕が起こるべきときだ。怯えた地球が、
この異変に口を開けて裂けるべきときだ。
エミリア(奥で。)お願いでございます、
ひとことだけ、お話しさせてください。ああ、旦那様。
オセローおまえを忘れていた。ああ、入れ、エミリア。
待て、今すぐだ。カーテンを引いておこう。
どこにいる。
オセロー今度は何の用だ。
エミリアああ、旦那様、あちらで惨い人殺しがございました。
オセロー何、今か。
エミリアたった今でございます、旦那様。
オセローそれは月が狂ったせいだ。
いつもより地球へ近づきすぎて、
人間を狂わせるのだ。
エミリアキャシオー様が、旦那様、ヴェニスの若者を殺されました、
ロダリーゴーという方を。
オセローロダリーゴーが殺された!
それでキャシオーも死んだか。
エミリアいいえ、キャシオー様は死んでおりません。
オセローキャシオーが死んでいない? なら人殺しの調べが狂った、
甘い復讐の音色が、耳障りになってしまった。
デズデモーナああ、無実の、無実の殺され方——
エミリアまあ、あの声は何。
オセローあれ? 何のことだ。
エミリアああ、大変。あれは奥様のお声——
助けて、助けて、誰か、助けて。ああ奥様、もう一度お声を。
デズデモーナ様。ああ、優しい奥様、お返事を。
デズデモーナ罪のないまま、わたくしは死にます。
エミリアああ、誰がこんなことを。
デズデモーナ誰でもない。わたくし自身です。さようなら——
優しい殿によろしく伝えて——ああ、さようなら。
オセローおかしいな、どうして殺されたりしたのだろう。
エミリアああ、誰にわかりましょう。
オセロー聞いたろう、自分で言ったのを、私ではないと。
エミリアそう仰いました。わたくしは、ありのままを申し伝えねばなりません。
オセローあの女は、嘘つきのまま、燃える地獄へ落ちたのだ——
殺したのは、この私だ。
エミリアおお、それなら奥様は、なおのこと天使。
そしてあなたは、なおどす黒い悪魔だ。
オセローあれは道を踏み外した、淫売だったのだ。
エミリアあなたは奥様を貶めている。あなたこそ悪魔だ。
オセローあれは水のように、心の定まらぬ女だった。
エミリアあなたこそ火のように向こう見ずだ、奥様を
不実と呼ぶなんて。ああ、あの方は天のように真実だった。
オセローキャシオーがあの女に乗ったのだ。疑うなら、おまえの亭主に訊け。
おお、地獄の底より深く堕ちればいい、
正当な根拠もなしに、この極みまで
突き進んだのならな。おまえの亭主は、すべて知っていた。
エミリアわたしの、亭主が。
オセローおまえの亭主だ。
エミリア奥様が、婚姻を裏切ったと。
オセローそうだ、キャシオーとな。いや、あれが貞淑でさえあったなら、
天が、混じり気のない完璧な緑玉髄で
もうひとつの世界をこしらえて差し出そうと、
あれを手放しはしなかった。
エミリアわたしの亭主が。
オセローそうだ、最初に教えてくれたのがあの男だ。
正直な男だ。汚らわしい行いにこびりつく
ぬめりを、心から憎んでいる。
エミリアわたしの亭主が。
オセロー何度言わせるのだ、女。おまえの亭主だと言っている。
エミリアああ奥様、悪党が愛を弄んだのです——
わたしの亭主が、奥様を不実と言った!
オセローあの男だ、女。
おまえの亭主だと言っている。この言葉がわからんのか。
私の友、おまえの亭主、正直な、正直なイアーゴーだ。
エミリアそんなことを言ったのなら、あの男の性悪な魂は、
一日に半粒ずつ腐り果てるがいい。心の芯から嘘っぱちだ——
奥様は、あのけがらわしい買い物に、惚れ込みすぎておいでだった。
オセロー何だと。
エミリア何でもするがいい——
あなたのこの仕業が天に値しないのは、
あなたが奥様に値しなかったのと同じことだ。
オセロー黙れ。黙ったほうが身のためだぞ。
エミリアわたしを傷つけるあなたの力なんて、
わたしが傷に耐える力の半分もありはしない。ああ、この間抜け、この阿呆。
泥ほどの分別もない。よくもこんなことを——
剣なんか怖くない。あなたの仕業を触れ回ってやる、
たとえ命を二十回失っても。——助けて、助けて、おおい、助けて。
ムーア人が奥様を殺した。人殺し、人殺しだよ。
モンターノー何事です。どうなさった、将軍。
エミリアおや、来たのかい、イアーゴー。大したご出世だね、
人殺しどもが、自分の罪をあんたの首に掛けに来るとは。
グラシアーノー何事だ。
エミリアこの人の言うことに嘘だと言っておやり、あんたが男ならね。
あんたが、奥方は不義を働いたと教えたと、この人は言うんだ。
あんたがそんなことを言うはずがない、そこまでの悪党じゃないはずだ。
言っておくれ、胸が張り裂けそうなんだ。
イアーゴー俺は思ったことを話したまでだ。それも、
あの方自身が確かで本当だと得心したこと以上は、何ひとつ言っていない。
エミリアでも、奥様が不義を働いたと、あんたは一度でも言ったのかい。
イアーゴー言った。
エミリアそれは嘘だ。憎むべき、呪われた嘘だ。
魂にかけて、嘘だ、性悪な嘘だ。
奥様が、キャシオー様と不義を?——キャシオー様と、そう言ったのかい。
イアーゴーキャシオーとだ、女房どの。いいかげんに、その舌を鎮めろ。
エミリア舌なんか鎮めるものか。話さずにいられるものか——
奥様が、ここで、ベッドの上で殺されて——
一同おお、天よ、お赦しを。
エミリアその人殺しをけしかけたのは、あんたの告げ口だ。
オセローいや、驚くには及ばない、方々。まことのことだ。
グラシアーノーまことにしては、あまりに異様な。
モンターノーおお、化け物じみた仕業だ。
エミリア悪事だ、悪事だ、悪事だよ。
思い当たる、思い当たるんだ——臭うんだよ——ああ、悪事だ。
あのときからそう思っていた——悲しみのあまり、死んでしまいたい——
ああ、悪事だ、悪事だ。
イアーゴー気でも違ったか。命じるぞ、家へ帰れ。
エミリア皆様、どうか話をさせてくださいまし。
夫に従うのが筋ですが、今だけは別です。
イアーゴー、わたしはもう、家には帰らないかもしれないよ。
オセローおお。おお。おお。
エミリアそうやって倒れて、吠えるがいい。
あなたが殺したのは、天を仰いだことのある女の中で、
一番優しい、罪のない人なんだから。
オセロー(身を起こして。)おお、あれは汚れていたのだ。
——ご老人、ほとんど見分けもつきませんでした。そこに姪御どのが横たわっている。
その息の根を、確かに、この手がたった今止めました。
この仕業が、恐ろしく、無惨に見えることは、わかっています。
グラシアーノー哀れなデズデモーナ。おまえの父が死んでいてくれてよかった。
おまえの結婚は父には命取りで、悲しみひとつが
あの老いた命の糸を断ち切った。今も生きていたら、
この光景に、思い余ったことをしでかしたろう。
そうだ、守り神の天使を罵って追い払い、
魂を破滅に落としたことだろう。
オセロー痛ましいことです。だが、イアーゴーは知っているのです、
あの女がキャシオーと恥ずべき行いを、
千回も重ねたのを。キャシオーは白状した。
しかもあの女は、その情事の褒美に、
私が最初に贈った、愛の記念の
形見をやったのです。あの男の手にあるのを見ました。
ハンカチです。父が母に贈った、
古い由緒の品です。
エミリアああ、天よ。天の力よ。
イアーゴーおい、黙らんか。
エミリア出るよ、出る、表に出るんだよ——わたしが黙る?
いいや、北風みたいに、思うさま喋ってやる。
天だろうと、人間だろうと、悪魔だろうと、みんな、みんなが
寄ってたかって、わたしに恥を叫ぼうと、喋ってやるからね。
イアーゴー利口になれ。家へ帰れ。
エミリア帰るものか。
グラシアーノー恥を知れ。
女に剣を向けるのか。
エミリアああ、この鈍いムーア人。あんたの言うそのハンカチはね、
わたしがたまたま拾って、亭主にやったんだ。
だって何度も、あんな端切れには
不釣り合いなほど重々しく、真剣な顔をして、
盗んでくれとせがんだんだから。
イアーゴー性悪の淫売め。
エミリア奥様がキャシオー様にやった? 違うよ、悲しいけどね。わたしが拾って、
わたしが亭主に渡したんだ。
イアーゴー汚らわしい、嘘をつくな。
エミリア天にかけて、嘘じゃない。嘘じゃないんです、皆様。
ああ、人殺しの色男気取り。こんな馬鹿に、
あんなに立派な奥様が、何だっていうんだ。
オセロー天には、雷を落とすための石しか
残っていないのか。——極めつきの悪党め!
グラシアーノー女が倒れた。確かだ、女房を殺したのだ。
エミリアええ、ええ。ああ、奥様のおそばに寝かせてください。
グラシアーノー逃げたぞ。だが女房は殺された。
モンターノー札付きの悪党だ。この武器を預かってくれ、
ムーア人から取り上げたものだ。
さあ、外の戸口を固めろ。通すな、
手向かえば斬れ。私はあの悪党を追う、
呪われた外道だからな。
オセロー私も勇士ではなくなったものだ、
ちびの青二才にまで剣を取り上げられるとは。
だが、誠を失って、名誉だけ生き延びてどうする。
何もかも、消えてしまえ。
エミリアあの歌は何の前触れだったのでしょう、奥様。
ねえ、聞こえますか。わたしは白鳥になって、
歌いながら死にましょう。
エミリア柳、柳、柳——
ムーア人、奥様は純潔だった。あなたを愛していたよ、むごいムーア人。
本当のことを言った証しに、わたしの魂を天へ召してもらう。
思ったとおりを口にして、わたしは死ぬ、死んでゆく。
オセローこの部屋には、もうひとつ武器があったはず。
スペインの剣、氷の谷川で鍛えた剣だ——
おお、あった。ご老人、私は外へ出ますぞ。
グラシアーノー(奥で。)出ようとすれば、高くつくぞ。
おまえは丸腰だ。おとなしくしているほかあるまい。
オセローなら、中へ入って私と話してくれ。
さもないと、素手のままでも、あなたに打ってかかる。
グラシアーノー何の用だ。
オセローごらんのとおり、武器がある。
これほどの剣が兵士の腿に
下がったことはあるまい。かつては、
この細腕とこの良い剣で、
あなたの制止の二十倍もの障害を
突き破って進んだ日もあった。だが、おお、空しい自慢だ。
おのれの運命を御せる者などいない。今はもう、あの日ではない。
恐れなくていい、私が武器を持っていようとも。
ここが私の旅の果て、ここが終着の的、
私の最後の航海の、まさに澪標だ。
怯えて後ずさりなさるのか。いらぬ恐れだ。
オセローの胸には、葦の一本でも向ければ足りる、
それだけで退く男だ。オセローに、どこへ行く先がある。
——さて、おまえは今、どんな顔をしている。おお、星回りの悪い女だ。
その肌着のように蒼ざめて。最後の審判の場で会うとき、
おまえのその顔が、私の魂を天から投げ落とし、
悪鬼どもが引っつかむのだ。冷たい、冷たいな、おまえ、
おまえの純潔と同じように。おお、呪われた外道だ、私は。
鞭で打て、悪魔ども、
この天の光景を眺めていられる身分から、私を打ち払え。
風の中を吹き飛ばせ。硫黄で炙れ。
底なしの淵の、液体の火で私を洗え。
おお、デズデモーナ。デズデモーナ。死んでしまった。
おお。おお。おお。
ロドヴィーコーあの向こう見ずな、誰よりも不幸な男はどこか。
オセローかつてオセローだった男なら、ここに。
ロドヴィーコーあの毒蛇はどこだ。あの悪党をこれへ。
オセロー足元を見ている。だが、あれは作り話だ。
おまえが悪魔なら、私に殺せるはずがない。
ロドヴィーコー剣をもぎ取れ。
イアーゴー血は出たがな、死んじゃいないぞ。
オセロー惜しくはない。生きていてもらいたいくらいだ。
私の心持ちでは、死ねるのは幸せなのでな。
ロドヴィーコーおお、オセロー、あれほど立派だったおまえが、
呪われた外道の奸計に堕ちるとは、
おまえに何と言えばいい。
オセロー何なりと。
お望みなら、名誉を知る人殺し、とでも。
憎しみでしたことは何ひとつない、すべては名誉のためだった。
ロドヴィーコーこの悪党は、悪事の一部を白状した。
キャシオーの殺害は、おまえとこの男が示し合わせたのか。
オセローそうだ。
キャシオー将軍、わたしは一度も、恨まれる覚えはありません。
オセローそのとおりだと思う。許してくれ。
頼む、その半悪魔に訊いてくれないか、
なぜ私の魂と身体を、こうまで罠にかけたのかと。
イアーゴー何も訊くな。知っていることは、知っているとおりだ。
今この時から、俺は一言も口をきかん。
ロドヴィーコー何、祈りもせぬのか。
グラシアーノー拷問が口を開かせてくれるさ。
オセローそうか、それが一番いい。
ロドヴィーコー将軍、何があったのか、お聞かせしよう、
まだご存じないはずのことだ。ここに一通の手紙がある、
殺されたロダリーゴーの懐から見つかった。
そしてもう一通。一方に書かれているのは、
キャシオー殺しを、ロダリーゴーが
引き受ける、ということだ。
オセローおお、悪党め。
キャシオー神をも恐れぬ、下劣きわまる。
ロドヴィーコーこちらは、恨みごとを連ねたもう一通の紙だ、
同じく懐にあった。どうやらこれを、
ロダリーゴーはこの呪われた悪党に送りつけるつもりだったが、
その矢先に、おそらくイアーゴーが現れて、
言いくるめたものらしい。
オセローおお、性悪の外道め。
キャシオー、おまえはどうやって手に入れた、
私の妻のあのハンカチを。
キャシオー自分の部屋で拾ったのです。
そしてあの男自身が、たった今、白状しました、
特別な目的があって、わざとあそこに落としたのだと。
それが思惑どおりに運んだのだと。
オセローおお、愚か者だ。愚か者。愚か者だ、私は。
キャシオーさらにロダリーゴーの手紙には、
イアーゴーへの恨みが書かれています。夜警の折に
わたしを挑発させたのはおまえだと。あれがもとで、
わたしは職を失いました。そしてあの男は、たった今——
長いこと死んだと見えていたのが——口をきいたのです、
自分を傷つけたのはイアーゴー、そそのかしたのもイアーゴーだと。
ロドヴィーコーこの部屋を出て、われらと共に来てもらおう。
おまえの権限と指揮権は取り上げられた、
キプロスはキャシオーが治める。この外道はといえば、
存分に苦しめ、長く生かしておける
残酷な工夫があるものなら、
どんなものでもくれてやろう。おまえは獄に繋がれたまま、
その罪の性質が、ヴェニス政府に
裁かれるのを待つのだ。さあ、連れて行け。
オセローお待ちを。行かれる前に、ひとことふたこと。
私は国家に、いくらかの奉公をしてきた。それは政府も知っている。
その話はもういい。お願いしたいのは、書状の中で、
この不幸な出来事を報告なさるとき、
私をありのままに語ってほしいということだ。何も薄めず、
悪意で書き足しもせず。そのとき、あなたがたはこう語ることになる、
賢くはないが、あまりにも深く愛した男のことを。
たやすく妬みはしないが、いったん謀られると、
とことん心を乱された男のことを。おのれの手で、
おのれの部族の全部よりも高価な真珠を、
無知なインド人のように投げ捨てた男のことを。泣き崩れることには
慣れていないその目から、
アラビアの木々が薬の樹脂を滴らせるように、
とめどなく涙を落とした男のことを。それを書き記していただこう。
そして、こう書き添えてほしい——かつてアレッポで、
ターバンを巻いた性悪のトルコ人が、
ヴェニス人を打ちすえ、この国家を罵ったとき、
私はその割礼の犬めの喉首をつかんで、
討ち果たした——このように。
ロドヴィーコーおお、血まみれの幕切れだ。
グラシアーノー語られた言葉が、すべて台無しだ。
オセロー殺す前に、口づけた。ならば道はこれしかない、
自らを殺し、口づけの上で死ぬのだ。
キャシオーこれを恐れていました。しかし武器はないものと思っていた。
心の大きな人でしたから。
ロドヴィーコー(イアーゴーに。)おお、スパルタの犬め、
苦悶よりも、飢えよりも、海よりも残忍な犬め。
このベッドの、痛ましい積み荷を見ろ。
これがおまえの仕事だ。見る目が毒される——
覆い隠せ。グラシアーノー殿、この屋敷をお守りください、
ムーア人の財産の差し押さえもお願いする、
あなたが相続なさるのだから。総督どの、あなたには
この地獄の悪党への断罪をお任せする。
時も、場所も、責め具も——おお、厳しく執行していただきたい。
私はただちに船に乗る。そして政府へ、
この重い出来事を、重い心で報告しよう。
