デズデモーナおまえ、キャシオー副官がどこに臥せっているか、知っていますか。
道化どこかに臥せっている、なんぞとは、とても申せません。
デズデモーナあら、なぜ。
道化あの方は軍人でございますからね。軍人を「臥せる」——つまり「嘘つき」呼ばわりすれば、ぐさりとやられますので。
デズデモーナもう、いいから。どこにお住まいなの。
道化あの方のお住まいを申し上げることは、わたくしの嘘のありかを申し上げることでございまして。
デズデモーナその話から、何か意味が取り出せまして?
道化お住まいを存じませんので、住まいをでっち上げて、ここに臥せっておられる、あそこに臥せっておられると申せば、この喉から出まかせの嘘をつくことになるのでございます。
デズデモーナ尋ね回って、聞き込みで賢くなってきてはくれませんか。
道化あの方のことなら、世間さまを相手に公教要理と参りましょう。つまり、問いを立てて、その問いのままに答えるという寸法で。
デズデモーナ探し出して、こちらへ来るようにお伝えなさい。旦那様にはあの方のために口添えをして、きっとうまく運びそうだ、と。
道化その儀なら、人間の知恵の届く範囲でございますので、やってみることにいたします。
デズデモーナどこであのハンカチを落としたのでしょうね、エミリア。
エミリア存じません、奥様。
デズデモーナ本当に、クルサード金貨のぎっしり詰まった財布をなくすほうが、
まだましだったわ。うちの気高いムーアが、
まことの心の方で、嫉妬に狂う者たちのような
卑しさと無縁にできていなければ、
あれだけで、悪い考えを起こさせるに充分ですもの。
エミリアあの方は、焼き餅焼きではございませんの。
デズデモーナ誰、あの方が? あの方の生まれた国の太陽が、
そういう気質は、残らず吸い上げてしまったのだと思うわ。
エミリアご覧なさいませ、おいでになりました。
デズデモーナ今度こそ離れませんよ、キャシオーを
呼び戻してくださるまでは。
デズデモーナご機嫌はいかがですか、あなた。
オセロー良いとも、奥方。(傍白)おお、取り繕うことの難しさよ!——
おまえはどうだ、デズデモーナ。
デズデモーナ良うございますわ、あなた。
オセロー手を貸してごらん。この手は、しっとりしているな。
デズデモーナまだ年も知らず、悲しみも知らない手ですもの。
オセローこれは、多産と気前の良い心の証拠だ。
熱い、熱いうえに、湿っている。おまえのこの手には、
自由からの隔離が要る。断食と祈りと、
たっぷりの苦行と、信心の勤めがな。
なにしろ、ここには若い、汗ばんだ悪魔がいて、
のべつ謀反を起こすのでな。良い手だ、
気前の良い手だよ。
デズデモーナ本当に、そう仰ってよい手ですわ。
わたくしの心を差し上げたのは、この手なのですから。
オセロー気前の良い手だ。昔は、心が手を与えたものだが、
当節の紋章ときたら、手だけで、心は付いてこん。
デズデモーナわたくしには、何のお話やら。ねえ、それより、お約束のあれを。
オセロー約束とは何だ、可愛いおまえ。
デズデモーナキャシオーに、あなたとお話しに来るよう、使いを出しましたの。
オセローしつこい、たちの悪い鼻風邪に悩まされていてな。
おまえのハンカチを貸してくれ。
デズデモーナはい、あなた。
オセローわしがおまえにやった、あれをだ。
デズデモーナ今は、持ち合わせておりませんの。
オセロー持っていない?
デズデモーナええ、本当に。
オセローそれは、いかんな。
あのハンカチはな、
エジプトの女が、わしの母にくれたものだ。
その女はまじない師で、人の心を
ほとんど読み取れる女だった。母に言ったそうだ——持っているあいだは、
あれが母を愛らしくして、父の心を
母の愛にすっかり縛りつけておいてくれる。だが、なくしたり、
人にやったりすれば、父の目は、
母を見るのも忌まわしいものとなり、父の心は、
新しい相手を狩りに出るだろう、とな。母は死に際に、あれをわしにくれた。
そして、運命がわしに妻を娶らせる日が来たら、
その人にやるようにと言い遺した。わしはそのとおりにした。だから、気をつけてくれ。
おまえの大切な目と同じだけ、いとおしんでくれ。
なくしたり、人にやったりすれば、それは、
何ものにも比べようのない破滅なのだ。
デズデモーナそんなことが、ありうるのですか。
オセローまことだ。あの布の織り目には、魔法が入っている。
この世で太陽が二百巡りするのを
数え上げた巫女が、
預言の狂乱の中で、あの刺繍を縫った。
絹を吐いた蚕は、聖別されたもの。
染めたのは、名人が乙女たちの心臓から
調合したミイラの液だ。
デズデモーナまあ、本当ですの。
オセロー正真正銘の、まことだ。だから、よくよく大切にしろ。
デズデモーナそれなら、いっそ、見なければようございました。
オセローほう! なぜだ。
デズデモーナなぜそんなに、突っかかるような、荒々しい仰りようをなさるの。
オセローなくしたのか。消えたのか。言え、どこかへやったのか。
デズデモーナ天よ、お守りください!
オセロー何と言った?
デズデモーナなくしてはおりません。でも、もし、なくしたのだとしたら?
オセロー何だと!
デズデモーナなくしてはいない、と申し上げているのです。
オセロー取って来い。見せてもらおう。
デズデモーナできますとも。でも、今はいたしません。
これは、わたくしのお願いをはぐらかす手管でしょう。
お願いです、キャシオーを元の職にお戻しになって。
オセローハンカチを取って来い。胸騒ぎがする。
デズデモーナまあ、いいから。
あれほど有能な方には、二度と巡り会えませんわ。
オセローハンカチだ!
デズデモーナお願いですから、キャシオーの話を。
オセローハンカチだ!
デズデモーナあの方は、これまでずっと、
あなたのご愛情の上に身の幸運を築き、
危険もあなたと分かち合ってきた方——
オセローハンカチだ!
デズデモーナ本当に、あなたがいけないのです。
オセローええい、どけ!
エミリアこれでも、あの方は焼き餅焼きではありませんの。
デズデモーナこんなことは、初めて。
きっと、あのハンカチには、何か不思議があるのだわ。
なくしてしまって、わたくし、本当に情けない。
エミリア一年や二年では、男というものは見えて参りませんわ。
男はみんな胃袋で、わたくしたちは、みんな食べ物。
腹ぺこのときは、がつがつ食べて、腹がふくれたら、
げっぷと一緒に吐き出すのです。——ほら、キャシオー様と、うちの亭主が。
イアーゴーほかに道はありません。あの方にやっていただくのです。
それ、なんという幸運! 行って、せがみなさい。
デズデモーナどうなさったの、キャシオー。何か知らせでも。
キャシオー奥方様、前のお願いの続きでございます。伏してお願い申し上げます、
あなた様の徳あるお力添えで、もう一度、
この身を生き返らせ、私が心の務めのすべてをもって
心底敬うあの方のご愛顧の、
一員に戻れますように。先延ばしは、もう堪えられません。
もし私の咎が、それほど命取りの類のもので、
過去の奉公も、今の悲嘆も、
行く末に積むつもりの手柄も、
あの方の愛へ私を請け戻すには足りないのでしたら、
せめて、そうと知ることだけでも、私には救いになります。
そうすれば、無理にでも得心の衣を着て、
どこか別の道に身を閉じ込め、
運命の施しを待ちましょう。
デズデモーナああ、どこまでも優しいキャシオー。
わたくしの弁護は、今は調子が外れているのです。
夫は、いつもの夫ではありません。お顔が、ご気性ほどに
変わっておられたら、見分けもつかないところ。
聖なる御霊のすべてに誓って申しますが、
わたくしは、あなたのために精一杯申し上げて、
その遠慮のない物言いで、ご不興の的の
真ん中に立ったほどなのです。しばらくは、辛抱なさって。
できることは、いたします。それどころか、自分のためなら
とても出せない勇気まで出しましょう。それでご得心なさってね。
イアーゴー殿は、ご立腹で?
エミリアたった今、あちらへ行かれました。
それも確かに、妙に落ち着かないご様子で。
イアーゴーあの方が怒ることがありうるのか。俺は見たことがあるぞ——
大砲があの方の隊列を宙へ吹き飛ばし、
悪魔さながら、あの方の腕の中から、
実の弟を吹きちぎったときでさえ——それでも、あの方が怒るだと?
なら、よほどの一大事だ。お会いして来よう。
あの方が怒っているとは、まったく、ただごとではないぞ。
デズデモーナどうか、そうしてちょうだい。
デズデモーナきっと、何か国の大事——
ヴェニスからの知らせか、それとも、ここキプロスで
明るみに出かけた、まだ孵らない陰謀のたぐいが、
あの方の澄んだ心を、泥で濁したのでしょう。そういうとき、
人の心は、つまらないことに突っかかるもの——
本当の相手は、大きなことなのにね。まさに、そういうこと。
指が一本痛むだけでも、ほかの健やかな手足まで、
その痛みが染み渡る気がするもの。
それに、考えなくては——男の人は神様ではないし、
婚礼の日のような、行き届いた優しさを、
いつまでも期待してはいけないのだわ。叱ってちょうだい、エミリア。
わたくしときたら、不出来な戦士のくせに、
心の中で、あの方の無情を告発していました。
でも、今にして思えば、わたくしが証人を抱き込んだのです。
あの方は、濡れ衣を着せられたのですわ。
エミリア天に祈りますわ、お考えのとおり、国のご用でありますように——
奥様に関わる思い込みやら、
焼き餅の気の迷いやらではなく。
デズデモーナ悲しいこと! わたくしは、そんな種を蒔いた覚えはないのに。
エミリアでも、焼き餅焼きの魂は、その答えでは得心しないのです。
種があるから焼くのではなく、
焼き餅焼きだから焼くだけのこと。あれは、
おのれの上に胤を宿し、おのれから生まれる化け物ですわ。
デズデモーナ天よ、その化け物を、オセローの心から遠ざけてください。
エミリアアーメン、と申し上げます、奥様。
デズデモーナ探しに参りましょう。キャシオー、このあたりを歩いていらして。
ご機嫌が良さそうなら、あなたのお願いを持ち出して、
力の限り、叶うよう努めてみますから。
キャシオーつつしんで御礼申し上げます、奥方様。
ビアンカご機嫌よう、キャシオーさん!
キャシオー家を空けて、どうしたのだ。
息災か、わが誰より美しいビアンカ。
実を言うとな、可愛い人、ちょうどおまえの家へ行くところだった。
ビアンカわたしは、あなたのお宿へ行くところでしたよ、キャシオー。
何ですって、一週間も寄りつかないなんて? 七日と七晩?
百六十八時間ですよ? 恋人に会えない時間ときたら、
時計の百六十倍もかったるいのに。
ああ、うんざりする勘定だこと!
キャシオーすまない、ビアンカ。
このところ、鉛のような物思いに押し潰されていたのだ。
だが、もっと落ち着いた時が来たら、
この無沙汰の勘定は、きっちり払わせてもらう。可愛いビアンカ、
キャシオーこの刺繍を、写し取っておいてくれ。
ビアンカまあ、キャシオー、これはどこから?
これは、新しいお友達の形見の品ね。
会えなかった訳が、今になって身にしみて分かったわ。
そういうことになったの? ふん、結構、結構。
キャシオーよさんか、ばかな!
その下種な当て推量は、悪魔の歯の中へ投げ返しておけ、
おまえにそれを吹き込んだ、当の悪魔のところへな。
どこかの女の形見だろうと、焼き餅を焼いているのだろうが、
違うぞ、誓って、ビアンカ。
ビアンカなら、誰のものなの。
キャシオー知らんのだ、可愛い人。部屋に落ちていた。
刺繍が気に入っていてな。持ち主が現れて求められる前に——
まず、そうなるだろうから——写しを取っておきたい。
持って行って、やっておいてくれ。そして、今日のところは行ってくれ。
ビアンカ行けですって! なぜ。
キャシオーここで将軍を待っているのだ。
女連れのところを見られるのは、
手柄にもならんし、こちらの望みでもない。
ビアンカあら、どうしてです。
キャシオーおまえを愛していないからではないぞ。
ビアンカ愛してくださっていないから、でしょう。
お願いだから、途中まで送ってちょうだい。
それから、今夜のうちに会えるのかどうか、聞かせて。
キャシオー送るといっても、ほんの少しの道のりだぞ。
ここで待っている身だからな。だが、夜には会おう。
ビアンカ結構ですとも。まわり合わせに従う身ですものね。
