リア王おまえは、この手紙を持って、先にグロスターへ行け。
娘には、手紙を読んで尋ねてきたことのほかは、
おまえの知っていることを何ひとつ明かすな。
急いで励まんと、わしのほうが先に着いてしまうぞ。
ケントお手紙をお届けするまでは、眠りませぬ、わが君。
道化人の脳みそが、かかとに入っていたら、あかぎれの心配をしなきゃならないかね。
リア王ああ、そうだな、坊主。
道化それなら、どうか陽気にしていておくれよ。おじさんの知恵は、すり切れ靴で歩く心配だけはないんだから。
リア王は、は、は。
道化もうひとりの娘のほうは、おじさんを優しく扱ってくれるか、見ものだねえ。あっちがこっちに似てるのは、山りんごがりんごに似てるほどのものだけど、それでも、おいらの言えることは言えるよ。
リア王ほう、何が言えるのだ、坊主。
道化あっちの味は、こっちとそっくり同じ——山りんごの味が山りんごの味と同じくらいにね。ねえ、なんで人の鼻は顔の真ん中についてるか、分かるかい。
リア王いや。
道化そりゃね、鼻の両側に目を置いとくためさ。嗅ぎ出せないものは、覗き込めるようにね。
リア王わしは、あの子に、ひどいことをした——
道化牡蠣がどうやって殻をこしらえるか、分かるかい。
リア王いや。
道化おいらも分からない。だけど、かたつむりが家を持っている訳なら分かるよ。
リア王なぜだ。
道化そりゃ、頭を入れとくためさ。娘たちにくれてやって、角の入れ物をなくさないためだね。
リア王生まれつきの情を、忘れることにしよう。あれほど優しい父だったのに! 馬の支度はできたか。
道化おじさんの驢馬たちが取りかかってるよ。北斗七星が七つより多くない訳は、なかなか良い訳なんだぜ。
リア王八つではないから、か。
道化そのとおり。おじさんは、良い道化になれるよ。
リア王力ずくでも取り返してやる! 化け物めいた恩知らずめ!
道化おじさんがおいらの道化だったらね、おじさん、時のたつ前に年を取った咎で、ぶたせてもらうところだよ。
リア王どういうことだ。
道化賢くなるまでは、年を取っちゃいけなかったのさ。
リア王おお、狂わせてくれるな、狂わせるな、優しい天よ。
正気を保たせてくれ。狂いたくないのだ!
リア王どうだ、馬の支度はできたか。
紳士できましてございます。
リア王行くぞ、坊主。
道化今は生娘のお嬢さん、おいらの旅立ちを笑うなら、
生娘のままじゃいられないよ、あれこれ切り詰められない限りは。
