市民たち納得させてもらうぞ。納得させてもらおうじゃないか。
ブルータスならばついて来て、聞いてくれ、諸君。
キャシアス、君は隣の通りへ行って、
人数を分けてくれ。
私の話を聞きたい者は、ここに残れ。
キャシアスについて行きたい者は、共に行け。
そして公けの理由を明らかにしよう、
シーザーの死の理由を。
市民一俺はブルータスの話を聞く。
市民二俺はキャシアスを聞こう。別々に聞いた上で、
双方の言い分を比べようじゃないか。
市民三高潔なブルータスが登壇したぞ——静かに。
ブルータス最後まで辛抱して聞いてほしい。ローマ人諸君、同胞諸君、そして私を愛する諸君。私の大義のために耳を貸し、聞くために静粛にされたい。私の名誉にかけて信じ、信じるために私の名誉を思い起こされたい。諸君の知恵で私を裁き、よりよく判断するために、諸君の分別を呼び覚まされたい。もしこの集まりの中に、シーザーの親しい友がひとりでもいるなら、その人にこう言おう、ブルータスのシーザーへの愛は、あなたに劣らなかったと。ではなぜブルータスはシーザーに立ち向かったのかとその友が問うなら、これが私の答えだ——シーザーへの愛が浅かったからではない、ローマへの愛が深かったからだ。諸君は、シーザーが生きて全員が奴隷として死ぬことと、シーザーが死んで全員が自由の民として生きること、どちらを望むのか。シーザーは私を愛した、ゆえに彼のために泣く。彼は幸運だった、ゆえにそれを喜ぶ。彼は勇敢だった、ゆえに彼を敬う。だが、彼には野心があった、ゆえに私は彼を殺した。愛には涙を、幸運には喜びを、勇気には敬意を、そして野心には死を。この中に、奴隷になりたいと望むほど卑しい者がいるか。いるなら言え、私が背いたのはその人だ。この中に、ローマ人でありたくないと思うほど粗野な者がいるか。いるなら言え、私が背いたのはその人だ。この中に、祖国を愛さないと言うほど下劣な者がいるか。いるなら言え、私が背いたのはその人だ。返事を待とう。
一同いない、ブルータス、誰もいないぞ。
ブルータスならば私は誰にも背いていない。私がシーザーにしたことは、諸君がいつかブルータスにしてよいことにすぎない。彼の死の裁定は議事堂に記録されている。彼の栄光は、彼に値するかぎり少しも減じられず、彼が死をもって償った罪も、誇張されてはいない。
ブルータス彼の亡骸が来た。マーク・アントニーが喪主だ。アントニーは彼の死に手を貸してはいないが、その死の恩恵として、この共和国での地位を受け取ることになる。諸君とて同じことだ。最後にこれだけ言って別れよう——私は最良の友を、ローマのために殺した。祖国が私の死を必要とするときには、同じ短剣を、この身に向けるつもりだ。
一同生きろ、ブルータス。生きてくれ、生きてくれ。
市民一凱旋だ、家までお送りしろ。
市民二ご先祖と並べて銅像を建てろ。
市民三あの人をシーザーにしよう。
市民四シーザーのいいところだけが、
ブルータスの頭に冠となるんだ。
市民一歓呼の声で、家までお送りするぞ。
ブルータス同胞諸君——
市民二静かに、静粛に。ブルータスが話すぞ。
市民一静かにしろ、おい。
ブルータスよき同胞よ、私はひとりで帰らせてくれ。
そして私に免じて、アントニーとともにここに残ってくれ。
シーザーの亡骸に礼を尽くし、シーザーの栄光を語る
彼の演説にも礼を尽くしてほしい。マーク・アントニーには、
われらの許しを得て、その演説が認められている。
頼む、ひとりも立ち去らないでくれ、
私ひとりを除いては、アントニーが語り終えるまで。
市民一おい、残ろう。マーク・アントニーの話を聞こうじゃないか。
市民三演壇に上がってもらえ。
聞くぞ。ご立派なアントニー、上がってくれ。
アントニーブルータスのお陰で、諸君に恩義ができた。
市民四ブルータスのことを何て言った?
市民三ブルータスのお陰で、
俺たちみんなに恩義ができた、とさ。
市民四ここでブルータスの悪口を言わないほうが身のためだぞ。
市民一シーザーは暴君だった。
市民三ああ、それは確かだ。
ローマがあの男から解放されたのは、ありがたいことよ。
市民二静かに。アントニーが何を言えるか、聞いてやろう。
アントニー心優しいローマ人諸君——
市民たち静かにしろ、おい。聞いてやろうじゃないか。
アントニー友よ、ローマ人よ、同胞よ、耳を貸してほしい。
私はシーザーを葬りに来たのだ、讃えに来たのではない。
人の行った悪は、その死後まで生き続け、
善はしばしば、骨とともに埋められる。
シーザーもそれでよかろう。高潔なブルータスは
諸君に語った、シーザーには野心があったと——
もしそうなら、それは重い罪だ。
そしてシーザーは重く、その償いをした。
ここに、ブルータスとその方々の許しを得て——
ブルータスは公明正大なお人だ、
その方々もみな、みな公明正大なお人だ——
私はシーザーの弔いに、ひとこと言いに来た。
彼は私の友だった、誠実で、公正な友だった——
だがブルータスは言う、彼には野心があったと。
そしてブルータスは公明正大なお人だ。
シーザーは数多くの捕虜をローマへ連れ帰り、
その身代金は、国庫を満たした——
これがシーザーの野心に見えたのか。
貧しい者が泣けば、シーザーも泣いた——
野心とは、もっと固い材料でできているはずだ。
だがブルータスは言う、彼には野心があったと。
そしてブルータスは公明正大なお人だ。
諸君もみな見たはずだ、ルペルカリアの祭りの日、
私は三度、王の冠を彼に捧げ、
彼は三度、それを拒んだ——これが野心か。
だがブルータスは言う、彼には野心があったと。
そして、確かに、あの方は公明正大なお人だ。
私はブルータスの言葉を覆すために話すのではない。
ただ、自分の知っていることを話すために、ここにいる。
諸君はみな、かつて彼を愛した、理由あってのことだ——
なら、どんな理由が、彼を悼むことを諸君に思いとどまらせる。
ああ、分別よ。おまえは獣のもとへ逃げ去り、
人間は理性を失ってしまった。許してくれ——
私の心はあの柩の中、シーザーとともにある。
心が戻って来るまで、しばし待たせてもらいたい。
市民一どうも、あの人の言うことには筋が通っているようだぞ。
市民二よくよく考えてみりゃあ、
シーザーはひどい目に遭わされたもんだ。
市民三そうかい、皆の衆。
あれよりひどいのが、代わりに来なきゃいいがな。
市民四今の言葉を聞いたか。冠を受け取らなかったんだぞ。
だったら野心なんぞなかったのは確かだ。
市民一もしそうだとわかったら、高くつく奴らが出てくるぞ。
市民二気の毒に。泣きはらして、目が火のように真っ赤だ。
市民三ローマ広しといえども、アントニーほど気高い男はいないよ。
市民四おい見ろ、また話し始めるぞ。
アントニーつい昨日までは、シーザーの一言が
全世界を向こうに回して立っていられた。今は、そこに横たわり、
どんな卑しい者も、頭ひとつ下げてはくれない。
おお、皆の衆。もし私に、諸君の心を
暴動と怒りへ煽り立てる気があるのなら、
それはブルータスを損ない、キャシアスを損なうことになる。
諸君も知ってのとおり、公明正大なお人たちだ——
あの方々を損なうつもりはない。それくらいなら、
死者を損ない、私自身と諸君を損なうほうを選ぶ、
あれほど公明正大なお人たちを損なうくらいならば。
だが、ここに一枚の羊皮紙がある、シーザーの印章つきだ。
彼の私室で見つけた。これは彼の遺言状だ——
民衆がこの遺言を耳にしさえすれば——
いや、すまない、読み上げるつもりはないのだが——
諸君は駆け寄って、死んだシーザーの傷に口づけ、
その聖なる血に、手巾を浸すだろう。
そう、形見にと髪を一本乞い、
死ぬときには遺言状にそれを書き記して、
豊かな遺産として、
子々孫々へ伝えるだろう。
市民四遺言を聞こう。読んでくれ、マーク・アントニー。
一同遺言だ、遺言だ。シーザーの遺言を聞かせろ。
アントニー落ち着いてくれ、優しい友よ。読むわけにはいかない。
シーザーがどれほど諸君を愛していたか、知らないほうがいいのだ。
諸君は木ではない、石でもない、人間だ。
人間である以上、シーザーの遺言を聞けば、
それは諸君に火をつける。諸君を狂わせる。
自分たちが彼の相続人だと、知らないでいるのがいい。
知ってしまえば、ああ、何が起こることか。
市民四遺言を読め。聞くぞ、アントニー。
読んでもらおう、遺言を、シーザーの遺言を。
アントニー待ってくれないか。しばらく堪えてくれないか。
うっかり口を滑らせてしまった。
心配なのだ、あの公明正大なお人たちを損なわないかと、
その短剣でシーザーを刺したお人たちを。それが心配なのだ。
市民四何が公明正大だ、裏切り者どもめ。
一同遺言だ。遺言状だ。
市民二あいつらは悪党だ、人殺しだ。遺言だ。遺言を読め。
アントニーどうしても読めと、強いるのだな。
ならば、シーザーの亡骸のまわりに輪を作ってくれ。
この遺言を書いた人を、諸君に見せよう。
降りてもいいか。許してくれるか。
数人の市民降りて来い。
市民二降りろ。
市民三許すとも。
市民四輪だ。丸くなれ。
市民一柩から離れろ。亡骸から離れるんだ。
市民二アントニーに場所を空けろ。誰より気高いアントニーだぞ。
アントニーいや、そう押し寄せないでくれ。離れて立ってくれ。
数人の市民下がれ。場所を空けろ。押すな。
アントニー涙があるなら、今こそ流す支度をしてくれ。
諸君はみな、この外套を知っている。私は覚えている、
シーザーが初めてこれを羽織った日のことを。
夏の夕暮れ、陣営の天幕の中だった、
ネルヴィイ族を打ち破った、その日のことだ——
見てくれ、ここをキャシアスの短剣が突き抜けた——
見ろ、妬み深いキャスカが、どれほどの裂け目を作ったか——
そしてここを、あの寵愛されたブルータスが刺した。
その呪われた刃を引き抜いたとき、
見ろ、シーザーの血がどうそれを追いかけたか、
まるで戸口の外へ駆け出して、確かめようとしたかのようだ、
戸を叩いたのが、本当にあの無情なブルータスなのかと——
諸君も知ってのとおり、ブルータスはシーザーの天使だったのだ。
神々よ、裁いてくれ、シーザーがどれほど彼を愛していたかを。
これこそ、何よりもむごい、とどめのひと突きだった。
気高いシーザーは、彼が刺すのを見たとき、
裏切り者たちの刃よりも強い恩知らずという刃に、
完全に打ち負かされた——そのとき、あの偉大な心臓は張り裂けた。
そして外套で顔を包み、
ポンペイの像の台座のもと——
その台座を、血が流れ続けた——偉大なシーザーは倒れたのだ。
おお、なんという倒れ方だったか、同胞よ。
あのとき、私も、諸君も、われら全員が倒れたのだ、
血まみれの謀反が、われらの上で勝ち誇る間に。
おお、泣いているのか。見える、諸君が
憐れみの力を感じているのが——それは尊い滴だ。
心優しい人たちよ、なに、シーザーの衣の傷を
見ただけで泣くのか。ここを見てくれ、
ここに、あの人自身がいる。見てのとおり、裏切り者たちに切り刻まれて。
市民一おお、痛ましい姿だ。
市民二おお、気高いシーザー。
市民三おお、なんて悲しい日だ。
市民四おお、裏切り者、悪党ども。
市民一おお、なんてむごたらしい。
市民二仇を討つぞ。
一同復讐だ。かかれ。捜せ。焼け。火を放て。殺せ。斬れ。裏切り者は一人も生かしておくな。
アントニー待ってくれ、同胞よ。
市民一静かにしろ。気高いアントニーの話を聞け。
市民二聞くぞ、ついて行くぞ、一緒に死んでやるぞ。
アントニーよき友よ、優しき友よ、私に煽られて、
そんな突然の暴動の奔流に流されないでくれ。
この行いをした方々は、公明正大なお人たちだ——
ああ、どんな私的な恨みがあってのことか、私は知らない。
だがあの方々は賢く、公明正大なお人たちだ、
きっと道理をもって、諸君に答えてくださるだろう。
友よ、私は諸君の心を盗みに来たのではない。
私はブルータスのような弁士ではない。
諸君の知るとおりの、無骨で口下手な、
友を愛しただけの男だ。それをよくご存じだからこそ、
あの方々も、彼について公けに語る許しをくださったのだ。
私には知恵もなければ、言葉もなく、貫禄もなく、
身振りも、話術も、人の血を沸かせる
弁舌の力もない。ただ思うままに話すだけだ。
諸君自身が知っていることを、話すだけだ。
優しいシーザーの傷、あの哀れな、もの言えぬ口々を見せて、
私の代わりに語ってくれと頼むだけだ——だが、もし私がブルータスで、
ブルータスがアントニーなら、そのアントニーは
諸君の魂をかき立てて、シーザーの傷という傷に
舌を植えつけただろう、ローマの石ころまでもが
立ち上がって暴動を起こすほどの舌を。
一同暴動だ。
市民一ブルータスの家を焼き払え。
市民三それ行け。来い、謀反人どもを捜し出せ。
アントニーまだ聞いてくれ、同胞よ。まだ話は終わっていない。
一同静かにしろ、おい。アントニーを聞け。誰より気高いアントニーだ。
アントニーおいおい、友よ、諸君は何をするのかも知らずに行くのか。
シーザーのどこが、それほど諸君の愛に値したのだ。
ああ、知らないのだな。では言わなければなるまい——
忘れているぞ、さっき話した遺言を。
一同そうだった。遺言だ。残って遺言を聞こう。
アントニーこれがその遺言だ、シーザーの印章つきの。
ローマの市民ひとりひとりに、彼は遺した、
めいめいに、七十五ドラクマずつを。
市民二気高いシーザー様。仇は討つぞ。
市民三おお、王者シーザー。
アントニー最後まで落ち着いて聞いてくれ。
一同静かにしろ、おい。
アントニーさらに彼は、彼の散歩道のすべてを諸君に遺した、
テヴェレ川のこちら側の、私有の東屋も、
植えたばかりの果樹園も。彼はそれを諸君に遺したのだ、
諸君と、諸君の子々孫々に、永遠に。共有の楽園として、
そぞろ歩き、憩うための場所として。
これがシーザーという人だった。次にこんな人が、いつ来る。
市民一二度と来ない、二度とだ。行くぞ、それ、行け。
聖なる場所で亡骸を焼き、
その燃えさしで、裏切り者どもの家に火をかけろ。
亡骸を担ぎ上げろ。
市民二火を持って来い。
市民三長椅子を引っこ抜け。
市民四腰掛けも、窓も、何もかも引っこ抜け。
アントニーあとは勝手に働くがいい。災いよ、おまえはもう歩き出した。
好きな道を行くがいい。
アントニーどうした。
召使い旦那様、オクテイヴィアス様が、すでにローマへお着きです。
アントニーどこにおられる。
召使いレピダス様とごいっしょに、シーザー様のお屋敷に。
アントニーすぐに会いに行こう。
願ってもない到着だ。運命の女神は上機嫌、
この気分なら、何でもくれるだろう。
召使いこう仰せになるのを聞きました、ブルータスとキャシアスは、
狂人のように馬を駆り、ローマの門を出て行ったと。
アントニーおおかた、民衆の気配を嗅ぎつけたのだろう、
私がどう動かしたかをな。オクテイヴィアスのもとへ案内しろ。
