シャルル天においても地においても、軍神マルスが真にどう動くかは、
今日まで誰にも分からなかった。
つい先ごろまで、あの神はイングランド側を照らしていた。
今はわれらが勝者だ。われらに微笑んでいる。
重要な町で、われらが持たぬものがあるか。
ここオルレアンの近くで、思うままに陣を張り、
飢えたイングランド軍は、青白い亡霊のように、
ひと月に一度、一時間ほど力なくわれらを包囲するだけだ。
アランソンやつらには、粥も肥えた雄牛の肉もない。
ラバのように食事をあてがわれ、
飼い葉を口元に結わえつけてもらわねば、
溺れた鼠のような哀れな顔になるだろう。
レニエ包囲を解かせよう。なぜここで何もせずにいる。
恐れていたタルボットは捕らえられた。
残るは血迷ったソールズベリーだけ。
あの男は苛立ちに、胆汁を使い果たすがよい、
戦う兵も金もないのだから。
シャルル鳴らせ、警報を鳴らせ。やつらへ突撃するぞ。
落ちぶれたフランスの名誉のために。
この私を殺す者には、私の死を許してやる、
私が一歩でも後ろへ下がり、逃げるのを見たなら。
シャルルこんなことを誰が見た。何という兵を持ったものだ。
犬め。臆病者。腰抜けめ。私は逃げなかった、
やつらが私を敵中に置き去りにしさえしなければ。
レニエソールズベリーは、死に物狂いの殺人鬼。
命に飽きた者のように戦っている。
ほかの諸侯も、飢えた獅子さながら、
われらを餌食にしようと襲いかかってくる。
アランソンわが国のフロワサールは、こう記している、
エドワード三世の治世には、イングランドが
生む男は皆、オリヴィエかローランだったと。
今こそ、この言葉はさらに真実となった。
小競り合いに繰り出すのは、サムソンとゴリアテばかり。
一人で十人を相手にする。
痩せこけた骨張ったごろつきめ。誰が思う、
やつらにあれほどの勇気と大胆さがあるなどと。
シャルルこの町を離れよう。やつらは向こう見ずな奴隷ども、
飢えれば、なおさら獰猛になる。
昔から知っている。包囲を解くくらいなら、
歯で城壁を食い破る連中だ。
レニエ何か奇妙な仕掛けか工夫で、
やつらの腕は時計のように、打ち続ける形に固められているのだろう。
でなければ、あれほど持ちこたえられるはずがない。
私としては、もう放っておくのがよい。
アランソンそうしよう。
オルレアンの私生児王太子殿下はどちらに。お知らせがあります。
シャルルオルレアンの私生児よ、三重にも歓迎するぞ。
オルレアンの私生児お顔が沈み、気力も挫けているように見えます。
今しがたの敗北が、これほど皆様を苦しめたのですか。
気を落とされるな、救いはすぐそこです。
聖なる乙女を、ここへお連れしました。
天から授かった幻により、
この長い包囲を解き、
イングランド軍をフランスの国境外へ追い払うよう定められた者。
深遠な予言の霊を宿し、
古代ローマの九人の巫女をも凌いでおります。
過ぎたことも、来ることも見通せます。
さあ、中へお呼びしましょうか。私の言葉をお信じください、
確かで、誤りのないことです。
シャルル行け、呼んでこい。
シャルルだがまず、その力を試してやろう。
レニエ、私に代わり、王太子として立て。
尊大に問いただせ。厳しい顔をしてみせろ。
そうすれば、あの女の力がどれほどか探れる。
レニエ美しい乙女よ、この驚くべき業をなすのはそなたか。
ジャンヌレニエ、私を欺けるつもりなの。
王太子はどこ。さあ、さあ、後ろから出ておいで。
会ったことはなくとも、お姿はよく存じています。
驚くことはありません、私に隠せるものはない。
内密に、お二人だけでお話ししましょう。
皆様は下がり、しばらく席を外してください。
レニエ初手から、たいそうな威勢だ。
ジャンヌ王太子殿下、私は羊飼いの娘に生まれ、
どんな学問や技芸にも、知恵を仕込まれてはいません。
それでも天と慈悲深き聖母は、
卑しい身の上を照らそうとお望みになりました。
ご覧ください、か弱い子羊の番をし、
焼けつく日差しに頬をさらしていた時、
神の御母が私の前に姿を現し、
威厳に満ちた幻のうちに命じられました、
卑しい生業を捨て、
祖国を災厄から救えと。
御母は助力を約束し、勝利を保証され、
まばゆい栄光の姿を現されました。
それまで黒く日に焼けていた私に、
清らかな光を注ぎ、
今ご覧の美しさを授けてくださった。
どんな問いでも、思いつく限りお尋ねください、
考える間もなく、お答えしましょう。
勇気を試したいなら、一騎打ちを。お望みならば、
女の身を超える力をお見せします。
こうお決めなさい。私を戦の伴侶に迎えれば、
殿下には幸運が訪れます。
シャルルおまえの大言には驚かされた。
その勇気は、ただ一つの証しで試そう。
一騎打ちで、この私と剣を交えろ。
おまえが勝てば、その言葉は真実。
さもなければ、一切の信頼を捨てる。
ジャンヌ覚悟はできています。ここに鋭い剣がある、
両面に百合の花を五つずつ飾った剣。
トゥレーヌの聖カタリナ教会の墓地で、
山積みの古い鉄の中から選び出しました。
シャルルならば、神の御名にかけて来い。女など恐れぬ。
ジャンヌ命ある限り、私は男から決して逃げません。
シャルル待て、待て、手を止めろ。おまえはアマゾンの女戦士、
デボラの剣で戦っている。
ジャンヌキリストの御母が力をくださるのです、さもなくば弱い女の身。
シャルル誰がおまえを助けようと、私を助けるのはおまえだ。
おまえを欲する思いに、じりじりと身を焼かれている。
私の心と腕を、同時に打ち負かした。
見事なピュセルよ、それがおまえの名なら、
私を主君でなく、おまえの僕にしてくれ。
フランス王太子が、こうしておまえに求愛している。
ジャンヌいかなる恋の作法にも、身を委ねることはできません。
私の務めは、天から授かった聖なるもの。
殿下の敵をすべてここから追い払った時、
初めて褒美のことを考えましょう。
シャルルそれまでは、ひれ伏す奴隷に慈悲の眼差しを。
レニエ殿下は、どうもずいぶん話が長い。
アランソン間違いなく、あの女の肌着まで懺悔を聞いているのさ。
でなければ、あれほど話を長引かせるはずがない。
レニエ限度を知らぬようだ、邪魔をするか。
アランソンわれら凡人には分からぬ深い意味があるのかもな。
女というものは、舌のよく回る抜け目ない誘惑者だ。
レニエ殿下、どちらにおいでです。何をお考えで。
オルレアンを諦めるのですか、どうなのです。
ジャンヌいいえ、断じて、疑り深い卑怯者たち。
最後の一息まで戦いなさい。私が盾となります。
シャルル彼女の言葉を、私が保証する。最後まで戦うぞ。
ジャンヌ私はイングランドを打つ鞭となる使命を授かった。
今夜、間違いなく包囲を解いてみせます。
聖マルタンの夏、穏やかな日々を待ちなさい、
私がこの戦に加わったのですから。
栄光は、水面に広がる輪のようなもの。
絶えず大きく広がり続け、
ついには果てなく散って、消えてゆく。
ヘンリーの死とともに、イングランドの輪は途切れ、
その内に抱えた栄光は散り失せた。
今の私は、誇り高く雄々しい、あの船、
シーザーとその幸運をともに運んだ船です。
シャルルムハンマドには、鳩が霊感を授けたのか。
ならばおまえには、鷲が霊感を授けている。
偉大なコンスタンティヌスの母ヘレナも、
聖フィリポの娘たちも、おまえには及ばぬ。
地上に降りた、金星の輝く星よ、
どうすれば、ふさわしい敬意をもっておまえを崇められる。
アランソンぐずぐずせず、包囲を解きにかかろう。
レニエ女よ、われらの名誉を救うため、できることをしてくれ。
敵をオルレアンから追い払い、不滅の名を得よ。
シャルル今すぐ試そう。さあ、取りかかるぞ。
もし彼女が偽りなら、私は二度と予言者を信じぬ。
