女将ファング親方、訴えは届け出ましたか。
ファング届け出たとも。
女将お仲間はどこです。腕の立つ人でしょうね。いざというとき踏ん張れますか。
ファングおい、スネアはどこだ。
女将まあ、そうでした。頼みますよ、スネア親方。
スネアここだ、ここだ。
ファングスネア、サー・ジョン・フォールスタッフを逮捕するぞ。
女将ええ、スネア親方。あの人も何もかも、ちゃんと訴えに入れましたからね。
スネアこいつは、誰かが命を取られるかもしれねえ。あの男は刺してくるぞ。
女将まあ怖い。気をつけてくださいよ。あの人は、わたしの店でわたしを刺したんです、それもけだものみたいに。ほんとにもう、剣さえ抜けば、どんな悪さをしようが構わない人です。悪魔みたいに突きかかって、男も女も子供も見境なしですよ。
ファング組みつきさえすれば、突きなんぞ怖くない。
女将わたしだって怖くありませんよ。すぐそばについています。
ファング一度でもこの拳でつかまえりゃいい。万力みてえなこの手に入りさえすりゃあ――
女将あの人のつけで、わたしは破産です。請け合いますけどね、わたしの勘定書じゃ、不定法どころか無限大なんです。ファング親方、しっかり押さえてください。スネア親方、逃がしちゃいけませんよ。あの人は始終パイ・コーナーへ来ます――お二人の男っぷりには失礼ながら――鞍を買いに。それからランバート通りの〈のろま頭亭〉で、絹物屋のスムース親方に夕食へ起訴されているんです。ですから、わたしの訴ちょんも受理され、事情も世間じゅうに知れ渡ったからには、きっちり答弁させてください。百マークという重荷は、身寄りのない貧しい女が背負うには長すぎます。わたしは背負って、背負って、背負い続け、今日から明日へ、明日から明後日へとはぐらかされて、はぐらかされて、はぐらかされてきたんです。考えるだけでも恥ずかしい。こんなやり口に正直も何もありません。女はろばか家畜になって、悪党どもの不始末を何でも背負えというんでしょうか。ほら、やって来ました。あのマルムジー酒みたいな赤鼻の大悪党、バードルフも一緒です。お役目を、お役目を果たしてください。ファング親方、スネア親方、わたしに、わたしに、わたしのために、お役目を果たしてください。
フォールスタッフ何だ、誰の牝馬が死んだ。何の騒ぎだ。
ファングサー・ジョン、クイックリー女将の訴えにより、あんたを逮捕する。
フォールスタッフ失せろ、下郎ども。抜け、バードルフ。悪党の首を切り落とせ。そのあばずれを溝へ放り込め。
女将わたしを溝へ放り込むって。わたしがお前を放り込んでやる。やる気か、やる気なのか、このろくでなしの私生児。人殺し、人殺し。ああ、この吸い葛野郎。神様と王様のお役人を殺す気か。ああ、この蜂蜜種の悪党。お前は蜂蜜種、人殺しで女殺しだ。
フォールスタッフ近づけるな、バードルフ。
ファング公務妨害だ。助勢を頼む。
女将皆さん、助勢を一人か二人連れてきて。やるのか、やる気なんだね。やるんだね。さあ、やってみろ、この悪党。やってみろ、この麻の種野郎。
フォールスタッフ失せろ、皿洗いめ。ごろつきめ。太鼓腹の穀潰しめ。その尻の大惨事をくすぐってやるぞ。
首席判事何事だ。静まれ、ここで騒ぐな。
女将判事様、どうかわたしをお助けください。お願いです、わたしの味方になってください。
首席判事どうした、サー・ジョン。ここで何を争っている。
そなたの地位と、今の時と、務めにふさわしい振る舞いか。
もうとっくにヨークへの道を進んでいるはずだ。
その男から離れろ。なぜしがみついている。
女将この上なく立派な判事様、お許しいただけるなら申し上げます。わたしはイーストチープの貧しい後家で、この人はわたしの訴えで逮捕されたんです。
首席判事いくらの訴えだ。
女将人によっては大した額でないでしょうけど、判事様、わたしには全部です、持っているもの全部。この人は食べ続けて、わたしの家も暮らしも食い潰しました。わたしの身代をすっかり、あの太鼓腹へ詰め込んだんです。少しでも取り返せなければ、夜ごと夢魔の牝馬みたいにお前に乗ってやる。
フォールスタッフ乗るのはわしのほうだろう。よじ登れる足場さえあれば、その牝馬にも乗れそうだ。
首席判事どういうことだ、サー・ジョン。恥を知れ。まともな気質の男なら、この罵声の嵐にどう耐えられる。哀れな後家に、自分の物を取り戻すため、こんな荒っぽい手段まで取らせて恥ずかしくないのか。
フォールスタッフわしがお前に負っている総額はいくらだ。
女将まったく、お前が正直者なら、お前自身と金の両方を負っているはずだよ。あのときお前は、わたしの〈海豚の間〉で、丸いテーブルに座り、石炭の火に当たりながら、ところどころ金を塗った杯にかけて誓ったじゃないか。聖霊降臨祭の週の水曜日、王子がお前の頭を割った日だよ。王子のお父上をウィンザーの歌い手に似ていると言ったからさ。わたしがお前の傷を洗ってやっていると、お前はわたしと結婚して、サー・ジョン夫人にしてやると誓った。否定できるかい。そのとき、肉屋の女房のキーチさんが入ってきて、クイックリーの姉さん、とわたしを呼んだじゃないか。酢を一椀借りに来て、うまい海老料理ができたと言った。それでお前は食べたがり、わたしは生傷に海老はよくないと言った。キーチさんが階段を下りていったあと、お前は、あんな貧乏人たちとこれ以上なれなれしくするなと言ったじゃないか。もうじきみんなが、わたしを奥様と呼ぶんだから、と。それからわたしに口づけして、三十シリング持ってこいと言ったじゃないか。さあ、聖書に手を置いて誓ってみな。できるものなら否定してみな。
フォールスタッフ判事殿、この女は哀れな狂人です。町じゅうを歩き回って、判事殿の長男はあなたにそっくりだと言いふらしている。昔は羽振りもよかったが、実のところ、貧乏のせいで気がふれたのです。それより、この間抜けな役人どもから受けた仕打ちを正していただきたい。
首席判事サー・ジョン、サー・ジョン。真実の訴えをねじ曲げ、偽りの道へ運ぶ、そなたの手口はよく知っている。自信満々の顔つきも、厚かましさを通り越した無礼な言葉の洪水も、公平に事を見極める私の目をそらすことはできぬ。見たところ、そなたはこの人の人のよさにつけ込み、財布も体も、そなたの用に使わせてきたのだ。
女将ええ、本当にそのとおりです、判事様。
首席判事頼むから黙っていろ。この女に負う借金を払い、この女に働いた悪事を払い落とせ。一方は純銀の通貨で払える。もう一方は、今も通用する悔い改めで払うのだ。
フォールスタッフ判事殿、この叱責を返事もせず甘んじて受ける気はありません。あなたは名誉ある大胆さを、厚かましい無礼と呼ばれる。お辞儀だけして何も言わぬ男なら、徳のある人間というわけですな。いや、判事殿、謹んで敬意を表したうえで申し上げますが、あなたに嘆願するつもりはありません。王の急用を帯びた身ですので、この役人どもから解放していただきたいと要求します。
首席判事そなたは悪事を働く力があるかのように物を言う。だが、評判どおりの実を示し、この哀れな女を満足させろ。
フォールスタッフ女将、ちょっとこっちへ来い。
首席判事さて、ガワー殿、知らせは。
ガワー王とウェールズ公ハリー殿下が
間近までお戻りです。あとはこの書面に。
フォールスタッフわしが紳士であることにかけてだ。
女将それは前にもおっしゃいましたよ。
フォールスタッフわしが紳士であることにかけてだ。さあ、もうその話はよせ。
女将今踏んでいる、この神聖な大地にかけて、わたしは銀器も食堂の壁掛けも、どちらも質に入れなきゃなりません。
フォールスタッフ酒は杯さえありゃ飲める、杯さえありゃな。壁には、ちょいとした洒落絵か、放蕩息子の物語か、安い水彩のドイツ狩猟図でも掛けておけば、そんな寝台用の垂れ幕や、虫食いだらけの壁掛け千枚より価値がある。できれば十ポンドにしてくれ。なあ、お前のそのむら気さえなけりゃ、イングランドでお前ほどいい女はいない。さあ、顔を洗って、訴えを取り下げろ。わしにそんな機嫌を見せるな。わしを知らぬのか。ほら、ほら、誰かにそそのかされたんだろう。
女将お願いです、サー・ジョン、二十ノーブルだけにしてください。本当に、銀器を質に入れるのはつらいんです。神様、わたしをお守りくださいまし。
フォールスタッフもういい。別の手を考える。お前はいつまでも馬鹿な女だな。
女将わかりました。服を質に入れてでも、お渡しします。夕食には来てくださいますよね。まとめて全部返してくださるんでしょう。
フォールスタッフわしが生きているくらい確かだ。
フォールスタッフ一緒に行け、一緒に。しっかり腕を組んでな。
女将夕食に、ドル・ティアシートも呼びましょうか。
フォールスタッフもう何も言うな。ぜひ呼んでおけ。
首席判事もっとましな知らせを聞いたこともある。
フォールスタッフどんな知らせです、判事殿。
首席判事王は昨夜どこにお泊まりだった。
ガワーベイジングストークです、判事様。
フォールスタッフ判事殿、すべてご無事ならよいのですが。どんな知らせです、判事殿。
首席判事王の全軍は戻ってきたのか。
ガワーいいえ。歩兵千五百と騎兵五百が、
ランカスター卿のもとへ進軍しました。
ノーサンバランドと大司教に当たるためです。
フォールスタッフ王はウェールズからお戻りですか、気高き判事殿。
首席判事すぐに私から書状を渡そう。
さあ、一緒に来てくれ、ガワー殿。
フォールスタッフ判事殿。
首席判事何だ。
フォールスタッフガワー殿、わしと昼食をご一緒願えますかな。
ガワーこちらの判事様にお供せねばなりません。ありがとうございます、サー・ジョン。
首席判事サー・ジョン、そなたはここで道草を食いすぎだ。道中の各州で兵を徴募せねばならぬ身だろう。
フォールスタッフガワー殿、では夕食をご一緒にいかがかな。
首席判事どこの愚かな先生に、そのような行儀を教わったのだ、サー・ジョン。
フォールスタッフガワー殿、この行儀がわしに似合わぬなら、それを教えた先生が愚かだったのです。これこそ剣術どおりの礼儀ですぞ、判事殿。一太刀には一太刀返し、それできれいに別れる。
首席判事どうか主がそなたを軽くしてくださるように。まったく大きな愚か者だ。
