アンジェロお引き留めしてしまって、申し訳ないことです。
ですが、誓って申しますが、あの男は確かに首飾りを受け取りました、
恥知らずにも、知らぬ存ぜぬを通しておりますがね。
第二の商人あの男、この町ではどういう評判なのです?
アンジェロそれはもう、重々しい信望のあるお方で、
信用は限りなし、人望も厚く、
この町に住む誰にも引けを取りません。
あの方の一言なら、わたしの全財産を託せるほどです。
第二の商人声を低く。ほら、あちらを歩いているのは、当人と見えますぞ。
アンジェロその通り。しかも首には、まさにあの首飾り——
受け取った覚えはないと、あれほど途方もない誓いを立てた品を提げている。
どうか、おそばに。話をつけて参ります。
——アンティフォラス殿、驚き入りましたな、
わたしにあれほどの恥と面倒をおかけになるとは。
ご自身の外聞にも、ただでは済みますまいよ、
あれこれ言い抜けて、誓いまで立てて否認なさるとは——
今こうして、堂々と身につけておられるその首飾りをだ。
訴えの費用、恥辱、監禁は言うに及ばず、
あなたはこちらの誠実な友人にまで、迷惑をおかけになった。
この方は、われらの悶着に足止めされさえしなければ、
今日、帆を上げて海に出ておられたはずなのだ。
その首飾りはわたしがお渡しした。否認できますかな?
シラクサのアンティフォラス受け取ったと思いますが。否認したことなど一度もない。
第二の商人いいや、なさった。おまけに誓いまで立てて言い張られたぞ。
シラクサのアンティフォラスわたしが否認するのを、誓うのを、誰が聞いたと言うのです?
第二の商人この二つの耳が、確かに聞いたのだ。
恥を知れ、この不届き者! 生きて、まっとうな人間の集まる場所を
歩けるとは、嘆かわしい限りだ。
シラクサのアンティフォラスそんな言いがかりをつけるとは、貴様こそ悪党だ。
わたしの名誉と潔白、今この場で証明してみせよう、
受けて立つ度胸があるならな。
第二の商人あるとも。相手になろう、この悪党め。
エイドリアーナお待ちなさい、傷つけないで、後生ですから! その人は気が触れているのです。
誰か、懐に飛び込んで、剣を取り上げて。
ドローミオも縛って。二人ともわたしの家へ運んでちょうだい。
シラクサのドローミオ逃げてください、旦那様、逃げて! 後生ですから、どこかの建物へ!
ここは尼僧院のようです。中へ! でないと身ぐるみやられます!
尼僧院長静まりなさい、皆さん。何ゆえここへ押し寄せるのです?
エイドリアーナ気の触れた、かわいそうなわたしの夫を連れ戻しに参りました。
中へ入らせてください。しっかり縛って、
家へ連れ帰り、養生させたいのです。
アンジェロやはり正気ではなかったのだ。道理で。
第二の商人剣を抜いたりして、今は済まなく思っておる。
尼僧院長その取り憑きは、いつからあの方に?
エイドリアーナこの一週間というもの、沈みがちで、気難しく、ふさぎ込んで、
以前のあの人とは、まるで別人でした。
でも、今日の午後までは、あの気の高ぶりが、
ここまでの激しい怒りに破裂したことはなかったのです。
尼僧院長難破で財産を大きく失ったのではありませんか?
親しい友を葬ったとか? それとも、目が
道ならぬ恋に迷ったのでは?
若い殿方に多い罪です、
目に、眺め放題の自由を許す人たちですから。
このうちどの悲しみに、あの方は取り憑かれたのです?
エイドリアーナどれでもありません、強いて言えば最後のもの——
何かの恋人がいて、よく家を空けておりました。
尼僧院長それなら、あなたはそれを叱るべきでしたね。
エイドリアーナええ、叱りましたとも。
尼僧院長ええ、でも、厳しさが足りなかったのでしょう。
エイドリアーナ慎みの許すかぎり、厳しく言いました。
尼僧院長おおかた、二人きりのときに。
エイドリアーナ人前でもです。
尼僧院長ええ、でも、回数が足りなかったのでは。
エイドリアーナそれこそ、わたしたちの話といえばその話ばかり。
寝床でも、わたしが責め立てるので、あの人は眠れないほど。
食卓でも、わたしが責め立てるので、食事も喉を通らないほど。
二人きりのときは、それだけを話の種にして、
人がいるときも、たびたび当てこすり、
いつでも言ってやりました、卑しい、ひどい行いだ、と。
尼僧院長それでこそ、あの方は気が触れたのです。
焼き餅焼きの女の毒々しいわめき声は、
狂犬の牙より、なお致命的な毒。
あなたの罵りに眠りを妨げられて、
それであの方の頭は、ふらふらと軽くなったのです。
食事には、あなたの叱言のソースがかかっていたと言いましたね。
心の休まらない食事は、消化を悪くします。
そこから熱の猛火が生まれたのです。
熱とは何です、狂気の発作でなくて?
あなたの喧嘩沙汰が、あの方の気晴らしを妨げたと言いましたね。
心地よい憩いを奪われれば、あとに続くのは何です、
むっつりと沈んだ憂鬱——
あの荒涼として救いのない絶望の血縁——のほかに?
そしてその後ろには、生気を奪う蒼ざめた病と、
命の敵の、疫病の大軍が続くのです。
食事と、楽しみと、命をつなぐ休息を乱されれば、
人でも獣でも、狂うのが道理。
つまり結論はこうです。あなたの焼き餅の発作が、
ご亭主から、正気の使い道を追い払ったのです。
ルシアーナ姉の叱り方は、いつも穏やかなものでした、
あの方が荒く、無作法に、乱暴に振る舞ったときでさえ。
——お姉様、どうしてこんなお叱りを黙って受けて、言い返さないの?
エイドリアーナこの方はわたしを、わたし自身の良心の呵責に引き渡したのよ。
——皆さん、中へ入って、あの人を捕まえてください。
尼僧院長なりません。誰ひとり、わたしの家には入らせません。
エイドリアーナそれなら、お宅の召使いたちに、夫を連れ出させてください。
尼僧院長それもなりません。あの方はこの場所を聖域と頼ったのです。
この場所があの方を、あなたがたの手から守ります、
わたしがあの方を正気に戻すそのときまで。
あるいは、その試みに、わたしの骨折りが尽きるまでは。
エイドリアーナわたしが夫に付き添い、看護婦になり、
病の食養生をいたします。それが妻の務め、
代理人など立てる気はありません。
ですから、あの人を家へ連れ帰らせてください。
尼僧院長ご辛抱なさい。あの方を動かすことは許しません、
わたしの試し済みの手立て——
体に良いシロップと、薬と、聖なる祈りで、
あの方を五体満足の人に戻すまでは。
これはわたしの誓いの一部にして本分、
わが修道会の、慈悲の務めなのです。
ですから、お引き取りなさい。あの方はここへ預けて。
エイドリアーナ夫をここへ置いて帰る気はありません。
それに、ご立派なお務めの方が、夫と妻を引き裂くとは、
あまり似つかわしくないお振る舞いですこと。
尼僧院長静かになさい、お帰りなさい。あの方は渡しません。
ルシアーナこの仕打ち、公爵様に訴え出ましょう。
エイドリアーナええ、行くわ。御足元にひれ伏して、
涙と祈りでお心を動かすまでは、立ち上がりません、
公爵様御自身がここへおいでになって、
力ずくでも尼僧院長から夫を取り返してくださるまでは。
第二の商人今ごろは、日時計の針も五時を指す時分。
まもなく、公爵御自身が、じきじきに
この道をお通りのはず——あの陰気な谷へ、
死と痛ましい処刑の場所へと向かわれるのです、
この尼僧院の堀の裏手にある。
アンジェロ何ゆえです?
第二の商人シラクサの立派な商人が、
運悪くこの湾に乗り入れて、
この町の法と定めに触れたかどで、
公開の斬首になるのを、ご覧になるためです。
アンジェロおいでになった。われらも処刑を見届けるとしましょう。
ルシアーナ尼僧院をお通りになる前に、公爵様に膝を。
公爵いま一度、公に触れを出せ。
この者の身代金を払う友があれば、
死罪は取りやめる。それほどに惜しい男なのだ。
エイドリアーナご裁きを、恐れ多くも公爵様、あの尼僧院長に対して!
公爵あの方は、徳の高い、敬われるべき貴婦人だぞ。
そなたに不当を働くなど、あり得ることではない。
エイドリアーナ恐れながら申し上げます。夫のアンティフォラス——
公爵様の重ねてのお口添えで、わたしはあの人に、
この身とすべての財産を捧げ、夫の主人と仰ぎました——その夫が、
この忌まわしい日に、途方もない狂気の発作に取り憑かれ、
血迷って往来を駆け回ったのです。
供の下男も一緒で、これも主人に劣らぬ狂いよう。
町の皆様に乱暴を働き、
家々に押し入っては、指輪だの、宝石だの、
狂った目に留まった品々を、手当たり次第に持ち去りました。
一度は縛り上げて家へ送り、
その足で、あちらこちらであの人の狂乱が働いた
不始末の後始末に回ったのです。
ところがそのうち、どんな力ずくの手立てでか、
見張りの者たちの手を破って逃げ出しました。
そして、あの狂った供の男と二人して、
怒りに我を忘れ、抜き身の剣を振りかざし、
再びわれらの前に現れ、狂ったように襲いかかって、
われらを追い散らしたのです。人手を集めて、
もう一度縛りに戻りますと、二人は
この尼僧院へ逃げ込みました。追いすがるわれらの鼻先で、
尼僧院長が門を閉ざし、
連れ出すことも許さなければ、
運び出せるよう外へ出すことも承知しません。
ですから、慈悲深い公爵様、御命令によって、
夫を連れ出させ、手当てのため運ばせてくださいませ。
公爵そなたの夫は、その昔、わしの戦に仕えてくれた。
そしてわしは、そなたが夫を閨の主人と迎えたとき、
君主の言葉をもって誓ったのだ、
あの男には、できる限りの恩顧と厚意を尽くす、と。
誰か、尼僧院の門を叩いて、
院長どのに、わしのもとへ来られるよう伝えよ。
この件を裁くまで、ここを動かぬぞ。
召使いああ奥様、奥様、逃げて、お命が危のうございます!
旦那様とお供の男が、二人とも縄を破りました。
女中たちを片っ端から打ちのめし、先生を縛り上げて、
燃え木の松明でお髭を焼き切り、
髭が燃え上がるたびに、火消しだと言っては、
泥水を手桶ごと、何杯も浴びせかけるのです。
旦那様は先生に辛抱の説教を垂れ、その間にお供の男が、
鋏で髪を刈り込んで、阿呆の刈り上げ頭にしてしまいました。
今すぐお助けをお出しにならなければ、
二人がかりで、あの祈祷師の先生は殺されてしまいます。
エイドリアーナお黙り、たわけ! 旦那様もお供も、ここにいるじゃないの。
おまえの注進は、嘘っぱちだよ。
召使い奥様、命にかけて、本当でございます。
これを見てから、息もつかずに駆けて参りました。
旦那様は奥様の名を呼ばわって、捕まえたら
顔を焼いて、二目と見られなくしてやる、と息巻いておいでです。
召使いお聞きください、あの声! 旦那様です、奥様。お逃げを、早く!
公爵参れ、わしのそばに。案じるな。——衛兵、矛を構えよ!
エイドリアーナああ、なんてこと、あれは夫だわ! 皆さん、証人になってください、
あの人は姿も見せずに、あちこちへ運ばれていくのです。
たった今、わたしたちはこの尼僧院に閉じ込めたのに、
今度はあちらにいるなんて、人の頭では考えも及びません。
エフェソスのアンティフォラスご裁きを、慈悲深い公爵様、おお、ご裁きを!
その昔、あなた様のために尽くしたご奉公——
戦場で、あなた様をこの身でかばって立ち、
お命を守って深い傷を負った、あのご奉公に免じて。
あのとき流したこの血に免じて、今こそご裁きを。
イージーオン死の恐れでこの頭が耄碌したのでないならば、
あれはわが息子アンティフォラス、それにドローミオだ。
エフェソスのアンティフォラスご裁きを、公爵様、そこの女にご裁きを!
あなた様が妻にと、わたしに賜ったあの女は、
このわたしを辱め、面目を潰したのです、
これ以上ない、極めつけのやり方で!
想像も及びません、あの女が今日この日、
恥知らずにもわたしに投げつけた仕打ちの数々は。
公爵子細を申せ。わしが公正であることは請け合おう。
エフェソスのアンティフォラス今日この日、公爵様、あの女はわたしの前で戸を閉ざし、
わたしの家で、破落戸どもと酒盛りをしていたのです。
公爵それは由々しき落ち度。——どうなのだ、妻よ、そうしたのか?
エイドリアーナいいえ、公爵様。わたしと、あの人と、妹の三人で、
今日は一緒に食事をいたしました。わたしの魂に懸けて誓います、
あの人がわたしに着せる罪は、根も葉もない嘘でございます!
ルシアーナ二度と日の光を仰げず、夜も眠れなくなってもかまいません、
姉が申し上げたのは、混じり気なしの真実でございます!
アンジェロおお、偽誓の女ども! どちらも偽りを誓っておりますぞ。
この件については、狂人どのの言い分が正しい。
エフェソスのアンティフォラスお上、わたしは自分の言葉をわきまえて申しております。
酒の効き目で乱れてもいなければ、
怒りに逆上して血迷ってもおりません、
もっとも、今日の仕打ちは、より賢い者でも狂わせましょうが。
この女は今日、わたしを食事から閉め出しました。
そこの金細工師が、この女とぐるでさえなければ、
証人に立てるはず。あのとき一緒におりましたから。
その男は首飾りを取りに行くと言って別れ、
山嵐亭へ届けると約束しました。
そこでわたしはバルサザーと食事をしていたのです。
食事が済んでも男は現れず、
探しに出ました。往来で行き会ったとき、
連れにいたのが、そちらの旦那です。
そこで、この偽誓の金細工師が言い張るには、
今日この首飾りをわたしに渡した、と。
神もご照覧、見てもいない品です。それを口実に、
この男は警吏を呼んで、わたしを召し捕らせました。
わたしは従い、下男を家へやりました、
金貨を取りにです。ところが、手ぶらで戻ってくる。
そこでわたしは警吏に頼み込み、
自らわたしの家まで同道してもらいました。
その道中で出会ったのが、
妻と、その妹と、有象無象の
下劣な取り巻きども。連れて来たのが、
ピンチとかいう、飢えた青びょうたんの悪党——
骨と皮の歩く骸骨、山師、
すり切れ服の手品師、まじない売りの占い師、
文なしで、目は落ちくぼみ、人相剣呑なならず者、
生ける屍です。この性悪の下郎が、
こともあろうに祈祷師気取りで、
わたしの目を覗き込み、脈を取り、
面の皮もないくせに、わたしに面を突きつけて、
「取り憑かれている」と喚き立てました。そこで一同、
寄ってたかってわたしに飛びかかり、縛り上げ、担ぎ去って、
家の、暗くじめついた穴倉に、
わたしと下男を、縛り合わせたまま放り込んだのです。
わたしは縄を歯で噛み切り、
自由を取り戻すや、まっすぐに
あなた様のもとへ駆けつけました。伏してお願い申し上げます、
この深い恥辱と大いなる侮辱に、
存分の償いを与えてくださいますよう。
アンジェロ公爵様、実のところ、ここまでは、わたしもこの方の証人に立てます。
食事は家でしておられません。閉め出されたのは本当です。
公爵だが、首飾りは渡したのか、渡しておらんのか?
アンジェロお渡ししました、公爵様。そして、この方がここへ駆け込まれたとき、
首にかかったあの首飾りを、この人たちも見ております。
第二の商人その上、誓って申しますが、この耳で確かに聞きました、
あなたが首飾りを受け取ったと白状なさるのを——
最初に市場で、あれほど誓って否認なさった後で。
それでわたしは剣を抜いたのです。
するとあなたは、この尼僧院へ逃げ込まれた。
そこから、どうやら奇跡の力で、舞い戻られたようですがな。
エフェソスのアンティフォラスわたしは生まれてこのかた、この尼僧院の塀の内に入ったことはない。
おまえがわたしに剣を抜いたこともない。
首飾りも見たことがない、天よ、お助けを!
おまえたちがわたしに着せる罪は、何もかもでたらめだ。
公爵やれやれ、何と入り組んだ訴えの縺れだ!
そなたたちは皆、キルケーの杯で一服盛られたと見える。
ここへ閉じ込めたのなら、ここにいるはずであろう。
狂っているのなら、これほど筋道立てて申し立てられまい。
そなたらは家で食事をしたと言う。この金細工師は
それを否と言う。——おい、おまえはどうだ?
エフェソスのドローミオ恐れながら、旦那様のお食事は、あちらの、山嵐亭のこの女とご一緒で。
遊女その通りです。そして、わたしの指から、あの指輪をもぎ取っていかれました。
エフェソスのアンティフォラスそれは本当です、お上。この指輪は、この女から受け取りました。
公爵この男が尼僧院へ入るのを、その目で見たのか?
遊女確かに見ました、お上、今こうして御姿を拝見しているのと同じほど確かに。
公爵これは奇っ怪な。おい、尼僧院長を呼んで参れ。
そなたたちは皆、呆けたか、まるきり狂ったかのどちらかだぞ。
イージーオン恐れ多くも公爵様、ひと言お許しくださいませ。
ありがたいことに、わが命を救ってくれる友が見えまする。
身代金を払って、わたしを解き放ってくれる者が。
公爵申すがよい、シラクサ人、何なりと。
イージーオンあなた様のお名前は、アンティフォラスではございませんか?
そしてそれは、あなた様の下僕のドローミオでは?
エフェソスのドローミオつい一時間前までは、確かにこの方の縛られ下僕でございました。
ですが、ありがたや、旦那様が縄を二つに噛み切ってくださいまして。
今はドローミオ、縄目なしの下男でございます。
イージーオン二人とも、きっとわたしを覚えているはずだ。
エフェソスのドローミオあなた様を拝見して、覚えているのは自分たち自身のことで。
つい先ほどまで、われわれも、今のあなた様と同じように縛られておりましたから。
もしや、あなた様もピンチ先生の患者仲間で?
イージーオンなぜそのように、よそよそしい目で見るのだ? わたしをよく知っているであろうに。
エフェソスのアンティフォラス生まれてこのかた、あなたを見たことはありませんが。
イージーオンおお、別れてからの悲嘆が、わたしを変えてしまったのだ。
気苦労の歳月が、「時」の醜い手を借りて、
わたしの顔に、見も知らぬ面変わりを書き込んだのだ。
だが、それなら教えてくれ、わたしの声も分からんのか?
エフェソスのアンティフォラス分かりません。
イージーオンドローミオ、おまえもか?
エフェソスのドローミオはい、あいにくですが、わたしも。
イージーオンいや、おまえは分かっているはずだ。
エフェソスのドローミオはい、旦那様、ですが、分かっていないことだけは確かでございます。それに、人が否と言い張るときは、こちらはそれを信じる縛りがございます——縛られた者の言うことですから。
イージーオン声も分からんとは! おお、非情な「時」よ、
おまえは七年の短い歳月で、この哀れな舌を、
それほどまでに割り砕いてしまったのか、ここにいる一人息子が、
心労で調子の狂った、この弱々しい声音も聞き分けられんほどに?
たとえこの皺だらけの顔が、
樹液を吸い尽くす冬の、ちらつく雪に隠されて、
この身の血の水路がすべて凍りついていようとも、
わが人生の夜にも、まだいくらかの記憶はあり、
燃え尽きかけのランプにも、消え残りの薄明かりはあり、
鈍く遠くなった耳にも、わずかに聞き分ける力は残っている。
この老いた証人たちが、みな口を揃えて言うのだ——間違えようもない——
おまえはわが息子、アンティフォラスだ、と。
エフェソスのアンティフォラスわたしは生まれてから一度も、父に会ったことがありません。
イージーオンほんの七年前、シラクサで、おまえ、
別れたのを覚えているだろう。それとも、もしや、わが子よ、
落ちぶれたこの身を、認めるのが恥ずかしいのか。
エフェソスのアンティフォラス公爵様も、この町でわたしを知る方々もみな、
そうでないことの証人に立ってくださいます。
わたしは生まれてこのかた、シラクサを見たことがないのです。
公爵言っておくがな、シラクサ人よ、この二十年、
わしはアンティフォラスの後ろ盾だ。
その間、この男は一度もシラクサを見ておらん。
どうやら、老いと死への恐れで、頭が耄碌したようだな。
尼僧院長恐れ多くも公爵様、ここに、ひどい不当を被った男がおります。
エイドリアーナ夫が二人見えるわ。それとも、目の迷いかしら。
公爵この二人は、片方がもう片方の守り神——生き写しの精霊だ。
こちらの二人も同じ。どちらが生身の人間で、
どちらが霊なのだ? 誰か見分けられる者はおるか?
シラクサのドローミオわたしが、旦那、ドローミオでございます。こいつに退場をお命じください。
エフェソスのドローミオわたしが、旦那、ドローミオでございます。どうか、わたしにご残留を。
シラクサのアンティフォラスあなたはイージーオンでは? それとも、その亡霊か?
シラクサのドローミオおお、大旦那様! どこの誰が、この方を縛ったのです?
尼僧院長誰が縛ったにせよ、その縄はわたしが解きます、
そして、その自由と引き換えに、夫を一人いただきましょう。
——お答えなさい、イージーオン殿、あなたがその人ならば——
かつてエミリアと呼ばれる妻を持ち、
その妻が、一度のお産で、玉のような息子を二人あなたに産んだ、その人ならば。
おお、あなたがあのイージーオンなら、答えてください、
あのエミリアその人に向かって!
イージーオンこれが夢でないならば、おまえはエミリアだ。
おまえがエミリアなら、教えてくれ、あの息子はどこにいる、
あの運命の帆柱で、おまえと共に漂っていった子は?
尼僧院長あの子も、わたしも、双子のドローミオも、
みなエピダムナムの人たちに救い上げられました。
ですが、間もなく、コリントの荒くれ漁師たちが、
力ずくでドローミオとわたしの息子を奪い去り、
わたしだけがエピダムナムの人たちのもとに残されたのです。
その後の二人の消息は、知るすべもありません。
わたしは、ごらんの通りのこの身の上に。
公爵なるほど、これで今朝の身の上話の筋が通り始めたぞ。
この二人のアンティフォラス、この瓜二つの兄弟、
そしてこの二人のドローミオ、これも見分けのつかぬ一対——
それに、この方の語った海難の証言。
つまりこの二人が、あの子供たちの両親で、
偶然が巡り巡って、ここに一堂に会したというわけだ。
アンティフォラス、そなたは最初、コリントから来たのだったな?
シラクサのアンティフォラスいいえ、公爵様、わたしではありません。わたしはシラクサから参りました。
公爵待て、離れて立て。どちらがどちらか、分からんではないか。
エフェソスのアンティフォラスコリントから参ったのはわたしです、恐れ多くも公爵様——
エフェソスのドローミオそして、わたしがお供で。
エフェソスのアンティフォラスこの町へ連れて来てくださったのは、あの名高い武人、
メナフォン公爵——あなた様の名高い叔父君です。
エイドリアーナお二人のうち、今日わたしと食事をなさったのは、どちら?
シラクサのアンティフォラスわたしです、ご婦人。
エイドリアーナそれで、あなたは、わたしの夫ではないのですか?
エフェソスのアンティフォラスいや、それは断る。
シラクサのアンティフォラスわたしも同じくお断りを。それなのに、この方はわたしを夫と呼んでくれました。
そして、この美しいお嬢さん——妹御のほうは、
わたしを義兄と呼んでくれた。
シラクサのアンティフォラスあのとき申し上げたことは、
いずれ折を見て、必ず果たしたいものです、
今見聞きしているこれが、夢でないならば。
アンジェロその首飾りは、わたしがお渡しした品ですね。
シラクサのアンティフォラスそのようです。否認はいたしません。
エフェソスのアンティフォラスそしてあなたは、その首飾りのかどで、わたしを召し捕らせた。
アンジェロそのようです、旦那。否認はいたしません。
エイドリアーナわたしは保釈のお金をお届けしましたのよ、
ドローミオに持たせて。でも、届かなかったようですね。
エフェソスのドローミオはい、わたしからは何も。
シラクサのアンティフォラスこのダカット金貨の財布なら、あなたから受け取りました。
届けてくれたのは、わたしの下男のドローミオです。
なるほど、われらはお互い、相手の下男とばかり出会っていたのです。
わたしはあれと間違えられ、あれはわたしと間違えられ、
そこから、この間違いの数々が生まれたという次第。
エフェソスのアンティフォラスこの金貨は、ここにいる父の身代金に差し出します。
公爵その要はない。そなたの父の命は、わしが取らせぬ。
遊女旦那、わたしはあのダイヤを返していただかないと。
エフェソスのアンティフォラスほら、受け取ってくれ。それから、うまい馳走の礼を言うよ。
尼僧院長名高き公爵様、ご足労をお願いできますなら、
ご一緒にこの尼僧院へお入りくださいまし。
そして、われら一同の身の上話を、心ゆくまでお聞きくださいませ。
それから、ここにお集まりの皆さんも——
この、皆で分かち合った一日の間違い狂いで、
迷惑を被った方々も、どうぞご一緒に。
必ずや存分の償いをいたします。
三十三年ものあいだ、わたしはあなたたちを、わが息子たちよ、
産みの苦しみのまま抱え続けて、今この時まで、
この重い荷を、産み落とせずにいたのです。
公爵様も、夫も、二人の子供たちも、
この子たちの生まれ年の暦のお二人も、
洗礼の祝いの宴へ、わたしと共においでください。
これほど長い悲しみの果ての、この祝いの日よ!
公爵心得た。喜んで、その宴の名付け親仲間に加わろう。
シラクサのドローミオ旦那様、船からお荷物を下ろして参りましょうか?
エフェソスのアンティフォラスドローミオ、わたしの何の荷物を船に積んだというのだ?
シラクサのドローミオケンタウロス亭にお預けだった、あのお荷物でございます。
シラクサのアンティフォラスわたしに言っているのだな。わたしがおまえの主人だ、ドローミオ。
さあ、一緒に来い。荷物のことは後で考えよう。
それより、そこの弟と抱き合え。再会を喜ぶがいい。
シラクサのドローミオおまえの主人の家に、太った恋人がいてな、
今日の食事のとき、おまえと間違えて、わたしを台所でもてなしてくれたよ。
これからは、わたしの女房ではなく、義理の姉妹というわけだ。
エフェソスのドローミオどうもおまえさんは、わたしの鏡と見える、兄弟というよりね。
おまえさんを見れば、わたしがなかなかの色男だとよく分かる。
どうだ、中へ入って、祝いの宴を見物するかい?
シラクサのドローミオわたしは後だ。おまえさんが兄貴分だからな。
エフェソスのドローミオそれは問題だぞ。どうやって決める?
シラクサのドローミオくじを引いて兄貴を決めよう。それまでは、おまえさんが先に立ってくれ。
エフェソスのドローミオいや、それなら、こうしよう——
われら二人、兄弟として、そろってこの世に出てきた仲。
なら、これからも手に手を取って、先も後もなしで行こうじゃないか。
