シルヴィアスやさしいフィービー、おれを袖にしないでくれ。よしてくれ、フィービー。
おれを愛していないと言うのはいい、だがそれを、
とげとげしく言わないでくれ。人を殺すのが商売の首斬り役人、
死を見慣れて心も固くなったあの男でさえ、
うなだれた首に斧を振り下ろすときは、
まず許しを乞うのだ。あんたはそれよりつれなくなる気か、
血の滴で死に、血の滴で食っている男よりも?
フィービーわたしはあんたの首斬り役人になんかなりたくない。
あんたから逃げるのは、傷つけたくないからよ。
わたしの目には人殺しが宿っている、とあんたは言うのね。
なるほどご立派、いかにもありそうな話だこと。
目という、いちばん壊れやすくて柔らかいもの、
ちっぽけな塵にさえ、臆病に門を閉ざすものが、
暴君だの、屠殺屋だの、人殺しだのと呼ばれるとはね!
さあ、心をこめて、精いっぱい睨んであげるわ。
わたしの目に傷つける力があるなら、さあ、これで死んでごらん。
さあ、気を失う真似をなさいよ。ほら、倒れてみせて。
できないの? それなら、ああ恥を知りなさい、恥を、
嘘をつくのはおやめ、わたしの目が人殺しだなんて!
わたしの目があんたにつけた傷を、見せてごらんなさいよ。
ピンでほんのひと掻きしたって、
掻き傷くらいは残るもの。藺草に寄りかかっただけでも、
その跡と、くっきりしたくぼみくらい、
手のひらにしばらくは残るものよ。ところがわたしの目は、
あんたに投げつけてやったのに、あんたを傷つけていない。
そうよ、確かなことよ、目なんかに、
人を傷つける力はないの。
シルヴィアスああ、いとしいフィービー、
いつか——その「いつか」は近いかもしれんぞ——
あんたが誰かのみずみずしい頬に、恋の力に出会ったなら、
そのときこそ思い知るだろう、目に見えない傷のことを、
恋の鋭い矢が作る傷のことを。
フィービーでも、そのときが来るまでは、
わたしに近寄らないで。そして、そのときが来たら、
嘲ってわたしをいたぶるがいいわ、憐れむのはやめてね。
そのときまで、わたしもあんたを憐れまないから。
ロザリンドどうしてです、お聞かせ願いたいわね? あなたのお母様はどこのどなた?
惨めな男を痛めつけて、その上勝ち誇って、一度にやってのけるなんて。
器量よしでもないくせに——
実際、正直なところ、あなたの見た目ときたら、
蝋燭なしの闇の中でも寝床へ行ける程度のものよ——
それだけのことで、高慢で無慈悲におなりなの?
あら、どういうこと? どうしてわたしを見つめるの?
わたしの目には、あなたなんて、自然の店先に並んだ
安物の量産品としか見えませんけどね。おやおや、なんてこと、
この女、わたしの目まで搦め捕る気らしいわ!
お生憎さま、高慢なお嬢さん、その望みはお捨てなさい。
その墨のような眉も、黒絹の髪も、
黒玉のような目玉も、クリーム色の頬も、
わたしの心をなびかせて、あなたを拝ませるには足りないの。
——それから、そこの馬鹿な羊飼い、どうしてこの女を追い回すの、
雨風を吹きつける、じめじめした南風みたいに?
あなたは男として、この女が女であるより、
千倍も上等よ。あなたみたいな馬鹿者がいるから、
世の中が不器量な子供だらけになるの。
この女をおだて上げているのは、鏡ではなくて、あなた。
あなたという鏡に映して、この女は自分を、
本物の顔立ちが見せてくれる以上の別嬪だと思い込むのよ。
——それから、お嬢さん、身のほどをお知りなさい。膝をついて、
断食して天に感謝なさい、まともな男の愛を頂けたことを。
友達として、耳打ちしておいてあげる、
売れるうちにお売りなさい。あなた、どこの市場でも通る品じゃないの。
この人に許しを乞うて、愛して、申し出をお受けなさい。
醜いものが一番醜くなるのは、醜いくせに人をあざ笑うときよ。
——というわけで、羊飼いさん、この人はあなたのものよ。ではご機嫌よう。
フィービーねえ、素敵なお方、お願い、一年ぶっ通しで叱ってちょうだい。
この男の口説きを聞くより、あなたに叱られるほうがいいの。
ロザリンドこの男はあなたの醜さに惚れ込んで、そちらの女はわたしの怒りに惚れ込むという寸法ね。それならそれで、この女があなたに渋面で答えるたびに、わたしはこの女に苦い言葉の味つけをしてあげるわ。——どうしてそんなにわたしを見つめるの?
フィービーあなたに悪気はこれっぽっちもないの。
ロザリンドお願いだから、わたしに惚れないでちょうだい。
わたしは酒の上の誓いより不実な人間よ。
それに、あなたのことは好きじゃないの。わたしの家を知りたいなら、
すぐそこの、オリーブの木立のところ。
行くわよ、妹?——羊飼いさん、押しの一手でね。
おいで、妹。——羊飼いのお嬢さん、もっとましな目でこの人を見て、
高慢はおやめなさい。世界中が目を持っていたって、
この人ほど見境をなくす目は、他にありはしないんだから。
さあ、羊のところへ。
フィービー亡き羊飼いの詩人さん、今こそあなたの金言が身に沁みたわ、
「ひと目見て恋せぬ恋が、恋なものか」。
シルヴィアスやさしいフィービー——
フィービーなあに、何か言った、シルヴィアス?
シルヴィアスやさしいフィービー、おれを憐れんでくれ。
フィービーええ、気の毒には思っているのよ、やさしいシルヴィアス。
シルヴィアス悲しみのあるところには、慰めもあるはずだ。
おれの恋の苦しみを悲しんでくれるなら、
愛をくれ。そうすれば、あんたの悲しみも、おれの苦しみも、
どちらも根絶やしになる。
フィービーわたしの愛ならあげているでしょう。隣人愛というものよ。
シルヴィアスおれは、あんたが欲しいのだ。
フィービーあら、それは強欲というものよ。
シルヴィアス、昔のわたしはあんたが嫌いだった。
今だって、愛しているわけではないの。
でも、あんたがそれほど上手に恋を語れるのなら、
前はうっとうしいだけだったあんたの付き合いも、
我慢してあげる。用も言いつけてあげるわ。
でも、それ以上の報酬は期待しないで、
使ってもらえるという、あんた自身の喜びのほかはね。
シルヴィアスおれの恋は、これほど清らかで完全無欠、
それでいておれは、これほど恵みに見放されているのだから、
本刈りの男が刈り入れたあとに、
こぼれ穂を拾うだけでも、
豊年満作と思うことにしよう。折々に、
こぼれた微笑みを落としてくれ。それを糧に生きていく。
フィービーさっきわたしに話しかけた若い人、知り合い?
シルヴィアスよくは知らんが、何度も会ったことはある。
あの年寄りのしみったれが持っていた小屋と土地を、
そっくり買い取った人だ。
フィービーあの人のことを聞くからって、惚れたと思わないでよ。
生意気な小僧っ子だわ。でも、口はうまい。
だけど、言葉なんてどうでもいいでしょう? いえ、言葉も悪くないものね、
語る人が、聞く人の気に入っているときは。
きれいな若者よね。すごくきれいってわけじゃないけど。
それにしても、高慢な人。でもあの高慢は、様になっているわ。
立派な男になるでしょうよ。あの人の一番いいところは
顔の色つや。それに、舌が咎を作るそばから、
目がそれを癒してしまうの。
背は高くない。でも年の割には高いほう。
脚はまあまあ。でも、悪くないわ。
唇にはきれいな赤みがさしていた、
頬に混じった赤より、少し熟れて、
少し血の気の多い赤。ちょうどあの違いね、
無地の紅色と、まだらのダマスク紅の。
シルヴィアス、女によっては、わたしみたいに
あの人を部分ごとに品定めしていたら、
危うく恋に落ちるところよ。でも、わたしはといえば、
惚れてもいないし、憎んでもいない。それでいて、
憎むわけなら、惚れるわけより多いくらい。
だって、あの人に、わたしを叱る筋合いがどこにあったの?
わたしの目は黒い、髪も黒いと言って——
そうよ、思い出してきたわ——わたしを馬鹿にしたのよ。
どうして言い返さなかったのか、我ながら不思議。
まあいいわ。言い落としは、帳消しとは違うもの。
うんと人を食った手紙を書いてやるわ。
あんたが届けてね。ね、シルヴィアス?
シルヴィアスフィービー、喜んで。
フィービーすぐ書くわ。
文句は頭の中にも、胸の中にもできているの。
とびきり辛辣に、すげなくしてやるんだから。
一緒においで、シルヴィアス。
